外界への憧れ
「アラーネ。誕生日プレゼントだ。」
父の声が聞こえる。父というのは、俺の育ての親の冬木博士だ。
金属の重い扉の下の方に、ポストのようなものがあり、そこに何かが投げ込まれた。
「ありがとう。」
今日は俺の15歳の誕生日だ。
プレゼントは30冊程の本や問題集、時事についてまとめられたもの、10作程の映画だ。
俺はこの屋敷から出たことがない。と言うより、窓のないこの牢獄のような部屋と、父と食事する部屋以外鍵がかけられているので、閉じ込められていると言った方がいいだろう。
テレビも電波を受信しない、インターネットとやらもない。
つまり、さっき父がくれた本や映画が外界との唯一の繋がりだった。
昼飯まで時間があったので、さっきの本を調べて見た。
ミステリー小説や、時代小説に混ざってロマンスものが混ざっていた。
また、映画には恋愛ものが混ざっていた。
これまでは無かったジャンルだ。
すぐに、映画を見た。
その時、俺の心に今まで感じた事のない感情が沸いた。
主人公がヒロインに惹かれて行く過程を追体験して、なぜな心が熱くなった。
これが恋する時に感情なのだろうか。
こんな姿の俺に恋など出来るのだろうか。
「アラーネ!昼飯だぞ!」
鍵が開けられて、食堂まで歩いた。
前を歩く父は、スーツ姿だった。
大きなテーブルに向かい合って座る。
食事はいつも変わらない、質素な和食と冷凍食品。
「アラーネ今日は夕飯が遅くなるかもしれん。」
「どうして?」
「学会だ。研究成果の発表をしてくる。」
「今月何回目だよ。」
学会や面会など今日までに10回以上行っている。
よく見るとスーツも新しい。そして、薄くなった髪の毛を整えている姿は結構笑えた。
「何回だろうといいだろ。飯を食え飯を。」
時間は流れた。
静かになった部屋の中でで、俺はさっきの映画を思い出した。
外の世界はあんなに美しいのだろうか。
1度でいいから見てみたい。そう思った時には声に出していた。
「あのさ。外の世界を見せて貰えないかな。」
その瞬間、父が箸を落とした。
「なんて?今なんて言った。」
「車からでも良いから、外の世界を一目見たいんだよ。」
「断る!アラーネ!これまで生きて来れたのは誰のおかげだと思ってる。世界は危険と好奇の目で溢れている。お前が、それに晒される事を望んでいない。」
俺は何も言い返せなかった。
その代わり怒りが込み上げてきた。
俺は椅子を蹴飛ばした。粉々に砕ける木製の椅子。
父は席からたち、後退りした。顔には恐怖がうかんでいた。
「とにかく、お前は出せん。その姿ではな!」
父は逃げるように扉に近づくと、素早く金属の扉を開け、鍵を閉めた。
俺は父を恐怖させてしまった自分を悔やむと同時に、自分で行動を起こさなければ何も変わらないと実感した。