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第十九話 ~朝目覚めると隣には美凪が寝ていた件~

 第十九話




 早朝。俺は目覚ましのアラームが鳴るよりも早く目を覚ました。こういうことはよくある事で、大体は五分や十分なので、そのまま行動を開始することがほとんどだ。


 ふにゅん。


 という感触が背中にある。

 なんだろうな。とても幸せな気分になれる感触。


 ふと、視線を下に落とすと腕が四本生えてるように見える。


「いつの間にか俺は四妖拳(しようけん)が使えるようになっていたのか」


 かめは〇波の修行は幼少期より積んできたが、まさか先に使えるようになったのが天津飯の技だとはな。


「んなばかな……っ!!」


 段々と意識が覚醒してくると、現状の理解が出来てきた。


 どうやら、俺を抱き締めるようにして、美凪が寝ている。


 背中に感じる柔らかな感触は、こいつの豊かなおっぱい。

 腕が四本あるように見えたのは、こいつが後ろから抱き締めているから。


「……どうしてこうなった」


 周りを見る。俺が深夜に寝ぼけて自分の部屋に戻ったか?

 しかし、周りを見ると俺が寝ているのは親父の部屋だった。

 つまり、寝ぼけて部屋を間違えたのはこの女だ。


 どうするか……


 現在進行形で理性がどんどん削られている。


 このまま後ろを振り向いて、こいつを抱きしめて、めちゃくちゃにしてやろうか。という欲望がどんどん湧き出てきている。


 ダメだ!!ダメだ!!ダメだ!!


 きっとこいつは寂しかったんだ。

 そういう所につけ込むような真似はしたくない。


 はぁ……理性だ。理性を強く持て、海野凛太郎。


 俺は魅惑の感触と別れを告げ、身体を捻じるようにして美凪から離れようとする


「……やだ」

「……っ!!??」


 寝ぼけてるのかなんなのかはわからないが、美凪が俺の身体を離れないように先程までより強く抱き締める。


 むにゅん。


 という感触が俺の正面から訪れる。


 お腹の辺りに美凪のおっぱいの感触が訪れる。


 このまま俺が腕をこいつの身体に回せればどんなに幸せだろうか……


「…………こいつは、男子高校生の性欲をなんだと思ってるんだ」


 理性、理性、理性、理性……


 俺は呪文のように唱えながら目を閉じる。


 そして、俺はそれが悪手だったことに気がついた。


 視覚を制限したことで、他の感覚が鋭敏になる。


 より強く本能を刺激する感触が脳を駆け巡る。


 ……ぷちん


 何かかが切れるような感覚があった。


「……はぁ。ちょっとくらいならいいよな」


 俺はそっと美凪の身体を抱きしめると、こいつの『サラサラの髪の毛』の感触を楽しんだ。


 ずっと触りたいと思っていた。こいつの綺麗な髪の毛。


 頭を撫でたのだって、この感触を楽しみたかったから。


 あぁ……いいな。幸せだ。


 満たされる感覚があった。欲望が満たされていくのを感じる。


 別に性行為だけが欲望を満たす手段じゃない。


 そうしてこいつの頭を優しく撫でたり、髪の毛を指で梳いたりしていると……


「……おはようございます」

「……っ!!??」


 俺の胸の辺りから、美凪の声が聞こえてきた。


「お、おはよう、美凪……」


 俺は美凪の頭から手を離し、挨拶を返す。


「い、いつから起きてた」

「つい先程です。貴方が私の髪の毛にご執心の時からでしょうか」

「……っ!!」


 美凪はそう言うと、スっと俺から離れる。


 そして、視線が合った。


 美凪の目には、別に俺を軽蔑してるとかそう言うのは含まれていなかった。少しだけ、頬が赤くなってるのを除けば。


「好きなんですか?髪の毛」

「……まぁ。ずっと触りたいとは思ってた。お前の髪の毛は綺麗だし。ただ、悪かったな、勝手に触って」


 俺がそう言うと、美凪はニンマリと笑った。


「ふふーん?良いことを聞きました。隣人さんは髪の毛がお好きなんですね」


 美凪はそう言うと、ベッドから出て行った。


「貴方が私の髪の毛に触れたことに関しては私は怒ってませんし、その事で隣人さんを嫌いになる。とかそういうのは無いので安心してください」

「そ、そうか……」


 その言葉に、美凪はフワリと微笑む。


「そうですよ。だって、貴方が寝ているところに来たのは私の方です。正直な話。髪の毛を触れられる程度では済まないことすら、されても仕方ないような状況ではありませんか?」

「……まぁ、そうかもしれないな」


 俺がそう言うと、くるりと踵を返す。


「先に居間に行ってます。隣人さんの作る朝ごはんを期待してますからね」

「あぁ、とりあえずパンを焼く予定だよ」


 あとはスクランブルエッグとソーセージを焼くかな。


 美凪はこちらを振り向いて、ぱあと笑う。


「今から楽しみです!!それではまた後で」


 そう言い残して彼女は部屋から出て行った。


「…………はぁ」


 美凪の姿が見えなくなり、俺は大きくため息をついた。


 嫌われなくて……本当に良かった。


 正直な話。軽蔑されても仕方ないと思えるようなことをしたと思ってる。


 理性を強く持てよ、海野凛太郎。


 俺はそう強く自分に言い聞かせ、ベッドから出た。






 洗面台で顔を洗い、頭がシャッキリしたところで居間へと向かう。


 そこでは美凪がテレビをつけて朝のニュースを見ていた。


 ……こいつと結婚したら、こんな感じの朝なのかな。


 なんてことを思ったが、頭を振ってその考えを振り払う。



「美凪はパンは何枚食べるんだ?」

「二枚いただきます!!」

「おっけー」


 俺は食パンの枚数を確認する。


 六枚切りを買ってあったから、あと四枚残ってる。


 俺も二枚食べて、今日の放課後にでも買い物に行くか。


 俺はそんなことを考えながら、二枚まで焼けるトースターと食パンの入った袋をテーブルに置く。


「使い方くらいはわかるだろ?」

「わかります!!」

「じゃあ勝手に焼いてくれ。俺はこれからスクランブルエッグとソーセージ焼きを作るから」


 俺はそう言うと、台所へと向かう。


 冷蔵庫の中から卵とソーセージを取り出す。


 フライパンとサラダ油を用意して準備は万端だ。


 卵を四つ割って菜箸でかき混ぜる。

 あまりかき混ぜすぎないのがポイントだ。


 熱してあるフライパンにサラダ油をひいてから、溶き卵を落とす。


 ジュワー!!と言う音が耳に心地よい。


 固まらないように菜箸でフライパンの中の卵をかき混ぜていく。


 空気を混ぜるようにして、ふんわりと仕立てる。


 あ、やべぇ!!皿を用意するの忘れてた!!

 あまり熱しすぎるとスクランブルエッグは不味くなる!!


「悪い、美凪!!皿を用意するの忘れてた!!」

「ふふーん。隣人さんにそう言われると思って用意してありますよ?」


 いつの間にか隣に居た美凪が、皿を用意していた。


「マジか、ありがとう。助かったわ」

「いえいえー。なんとなくそんな気がしたので、用意しておきました」


 俺は出来上がったスクランブルエッグを、美凪が用意してくれた皿に移す。


「これはあっちに持って行きますね」

「先に何かかけて食っててもいいぞ?」


 俺がそう言うと、美凪は少しだけ不機嫌そうな顔をする。

 ……え?どうした。


「ご飯は一緒に食べましょう。待ってますよ?」

「わかった。じゃあソーセージもすぐに焼くよ」

「はい。楽しみにしてます!!」


 美凪はそう言うと、テーブルの方へと戻って行った。


「あはは。ご飯は一緒に、か」


 俺はフライパンにソーセージを入れて、塩と胡椒で味を付けながら焼く。


 あいつも俺と食べる食事を楽しみにしてる。それがとても嬉しかった。


 これから毎日こんな朝が訪れるのか。


 うん。悪くないな。


 俺はそう思いながらフライパンを振った。

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[気になる点] 主人公は机の上に置かれた例の本にいつ気付くのだろうかw
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