7 ー数馬ー (下条数馬)
1人は簡単に倒すことができた。
しかし、もう1人が意外にも強い妖力を持った「黒」で、3人チームの中の最年長の上尾が「盾」を使ったにもかかわらず、それを破られ、肩から右腕にかけて大きく負傷した。
さらに「黒」はベテランの境田の攻撃を、赤黒い蛇のような動きをする「鎧」で弾き返し、そのままビルの壁を横向きに走って新人の下条数馬へと向かう。
このガキを殺す! こいつはまだ戦闘慣れしてなさそうだ——。リーダーを重傷にした今、こいつを殺せば、このチームは戦闘力を失うだろう——。
その赤黒く光る目は、獲物を襲うサメのように無表情だ。
教官たちを唸らせたほどの強い戦闘力を持つとはいえ、実戦は今日が初めての下条にとって、こいつは荷が重すぎる。
上尾と境田は焦った。新人の初陣に当てるような敵じゃない!
情報部は何をやってた!? こんな強力な「黒」だという情報は、どこにもなかったぞ——!
「下条! 逃げろ! 一旦、引け!」
上尾が肩を押さえて叫んだ。
だが、下条数馬は突進してくる「黒」を前にして、微動だにしない。
すくんでいるのではない。 笑いを浮かべている——。残虐、という言葉でしか表現できないような笑いを——。
正面のルーキーの身体の周りに「光の剣」が現れるのを見て「黒」は一瞬怯んだ。ビルの壁に張り付いたまま、その足を止める。
それは通常の「白」のそれとは違っていた。蛇のようにうねっている。まるで——色さえ変えれば、彼ら黒の魔導士が使う妖力とそっくりではないか。
なんだ、こいつは——?
その白い蛇が、ビルの壁面にいる「黒」に襲いかかると、その周りを覆っている赤黒い蛇を一瞬にして粉々の破片にしてしまった。
黒いフードの中の赤黒い目に、初めて恐怖の色が宿った。
「削除。」
数馬の冷酷な声とともに、残りの蛇がのたうつような動きで「黒」に襲いかかった。
それが哀れな獲物の身体を幾つものパーツに切り刻んで地上にはたき落とした時、転がった首を見下ろす数馬の目は、もう笑ってはいなかった。
「こいつは隻眼じゃない・・・。」
ハンター下条数馬の名前は、瞬く間に魔導界に聞こえた。
普段は、政府系企業に勤める如才ない好青年。しかし、ひとたび「ハンター」としての任務につけば、黒の魔導士にとっては地獄から来た死神——。
その仕事ぶりは、味方の白の魔導士でさえ、ときに眉をひそめるほどに冷酷なものだった。
転がった首を見ては
「こいつは隻眼じゃない・・・」とつぶやく。
その独り言は、どうやら数馬には無意識だったようだが、やがて少しずつ魔導界に噂として広まっていった。
あいつは「隻眼の黒」を探しているらしい。
それがどうやら、あいつの両親の仇らしい・・・。
そんな噂を聞いて、椚や笹島が時おり心配そうに声をかけたが、そういう時、数馬は決まってこう言うのだった。
「大丈夫です。僕は——。」