5 ー数馬ー (下条数馬)
ハンター志望——。
数馬は訓練所に来た時から、そう言い続けてブレることがなかった。
実際に訓練の成績を見ても、彼の能力はハンターに向いていた。頭も良く、模擬戦でも緻密な計算の上に罠を仕掛けて、狙い通りに獲物を追い込んで仕留める。
訓練では、「獲物」には教官がなる。
通常は時間内にクリアできる生徒はいないが、数馬の場合は、全教官が「仕留め」られた経験を持っていた。
というより、「下条から逃げ切れるか」というのが、教官仲間の賭けになるくらいだった。
「君は今すぐにでもハンターになれる実力があるんだけどなぁ——。」
数馬が14歳の頃、教官の1人が少し歯切れの悪い口調で数馬に言ったことがある。
「現場に出すには、ちょっと心配な面もある・・・」
「僕の過去のことですか?」
数馬は、教官がかえって狼狽えるくらい、屈託なく真っ直ぐな目でその教官の顔を見て言い切った。
「大丈夫です。僕は——。」
(大丈夫です。「しゅうこちゃん」がいるから——。)
この頃になると、数馬は例の扉を利用して、あちら側から少しばかりエネルギーを拝借する術を身につけ始めていた。
そんな時、「しゅうこちゃん」は少し困ったような顔をしながらも、ちょっとだけ脇に退いて数馬に扉をわずかに開けさせてくれた。
数馬の魔導力は同世代の中でも桁外れに大きく、この点でも教官たちを唸らせた。
必要なエネルギーを取り出せた——と見るや、「しゅうこちゃん」はすぐに扉を背中で閉めて「めっ」という顔をするのだった。
数馬はそんな「しゅうこちゃん」とのやり取りが、いつしか楽しみになっていた。
下条は戦いの最中に笑っている——。
ハンターデビューの前から、その桁外れの攻撃力と合わせて、数馬の噂は白の魔導士の間で広まりつつあった。
ハンター試験に最年少で合格した日、たまたま視察に来ていた代替わりしたばかりのジョージ・コーウェル老師が、数馬の方に近づいてきた。
「君が噂の下条数馬くんか——。」
「は・・・はい!」
緊張した面持ちで直立不動になってしまった数馬を見て老師は破顔し、それから数馬の耳元に顔を近づけて、その穏やかな声でこう言った。
「その子を大切にしなさい。」
数馬は呆然と立ち尽くして、老師の背中を見送った。
後にも先にも、数馬の「内面」を見抜いたのは老師だけだった。
なんで・・・・? なんで、老師は「その子」って言ったんだ? 誰にも話したことなんかないのに——。
数馬は、自分の耳がみるみる熱くなっていくのを感じていた。