18 ービオトープ攻防戦ー (下条数馬)
竜崎センパイが再びビルの壁から現れると、世界は大きく変わった。
数馬も、2度目になるとこの変化に少しは慣れたのか、今回はあまりパニクらなかった。
竜崎センパイに出会ってからの記憶が2度書き変わったわけだが、前の2つの記憶は奇妙に薄っぺらく感じられた。そのせいもあるのかもしれない。
前回はどちらも同じ重さを持っていたが、今回は前の2つはフェイクである——とはっきり感じられたのだ。
おそらくは、魔法陣の工事を「黒」のヤツらに気づかせないための——。
程なくコーウェル老師が瞬動の魔法を使って現れ、数馬の考えを裏付けた。
老師に会うのは、どれだけぶりだろう。ついに、夢にまで見た老師の片腕となって戦う日がやってきたのだ!
数馬は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
選ばれたのだ! この僕が——。
銀のドラゴン顕現の闘士として、おそらくはドラゴンそのものによって——。
12将の1人に!
この戦いは熾烈を極めた。
だがそれは、数馬にとっては願ってもない舞台だった。
数馬はビオトープの工事を、それに向いた10人程度に任せ、自分は戦士を率いて邪鬼や黒の魔導士の『削除』に専念した。
一つには、出来上がったビオトープを傷つけさせないためには、攻撃が最も有効、と考えていたこと——。
そして、もう一つは・・・
(ヤツは——、『隻眼の黒』はいないか?)
数馬の「攻撃」は、時に隣の受け持ちエリアにまで及んだ。
数馬の中で、半開きのドアを背中で押さえて「しゅうこちゃん」が頑張っている。
大丈夫——、僕は。
君がそこにいる限り———。
噂どおりだ——。と、隣のエリアで戦っている闘将マフムードは思った。
あいつは、戦闘中に笑っていやがる。
しかも、あいつの使う光の剣は——、あれは、いったい何だ? 蛇のようにうねっているじゃないか。
まるで・・・・、そうだ、色さえ変われば、「黒」の連中が使う妖力の蛇と同じ形じゃないか——?
数馬の戦い方は独特だった。
破妖の魔導力を小さな空間に封じ込めた見えない「破妖玉」を造り、ビオトープ周辺のあらゆる空間や地面に無数に撒いてゆくのだ。
一種の機雷で、これに触れた妖魔や邪鬼は一瞬にして吹き飛ばされる。
黒の魔導士はさすがにこの程度は防ぐが、彼らの姿を覆い隠している妖魔や邪気を消されて、その姿を数馬の前に晒すことになった。
数馬は容赦なく、逃げ惑うそいつらを光の剣でバラバラに引き裂いてゆく。
やがて数馬の担当エリアに侵入するのは小さな妖魔や邪鬼ばかりになり、魔導士は他の場所の攻撃に逃げていった。
そう。 逃げていったのだ——。
ハンター下条の名は、伊達じゃない! お・・・恐ろしい!
数馬は笹島軍師の了解を得て、隣接するエリアの応援に回った。
「お邪魔しますよ♪」
こんな時でも挨拶を忘れないのは、数馬らしい如才なさ——というものであろう。
だが、その顔に浮かんだ残忍な笑いばかりは覆い隠しようがなかった。
平井美希子は、応援をありがたいと思いながらも、背筋に冷たいものを覚えた。
(この人は・・・・、本当に『白』なの?)
ニューヨークから日本に向かった四天王が北海道に侵入し、中国の仙人会を突破した「黒」がミグを乗っ取って日本に向かった時、この中国からの強力な「黒」5体を迎え撃つため、コーウェル老師が東シナ海へ跳んだ。
『謙悟くん、翔弥くん、あとを頼む——。必ず、魔法陣を完成させてくれ!』
老師が跳ぶ前に残したこの魔道通信が、なぜか数馬には遺言に聞こえた。
いや、数馬だけではなかったのだろう。12将全員の魔道力がさらに膨れ上がった。
早く!
早くここを片付けて、老師の援護に行く!
数馬もまた、他の闘将たちと同様に荒れ狂った。いや、他の魔道士を圧倒する力、次元の違う力で戦っている。
「しゅうこちゃん」、ごめん! もう少しだけ、扉を開けてくれッ———。
その力は今やあの謎の魔道士、竜崎翔也にも匹敵するかもしれなかった。笹島軍師も、そんな数馬を戦力として頼りにした。
だが、そんな闘将たちに信じたくない衝撃的な事態が発生した。
四天王がいよいよ東北を抜けて関東に入ろうとする頃、東シナ海にいたはずの老師の気配が消えたのだ。
『老師! 老師! コーウェル老師———!』
全員がてんでに老師を呼んだが、その魔道通信は虚しく荒れ狂う空へと消えていっただけだった。
数馬は、この戦いで初めて、臓腑の抜けるような恐怖を覚えた。
老師が? 老師が? ・・・・まさか! まさか————!!!
闘将の全員が狼狽えた。その数瞬の後、笹島軍師の檄が魔導通信で飛んできた。
『戦え! 四天王が来る前に完成させろ! それができなければ、全ての犠牲が無駄になる!』
数馬は弾かれたようにして、闘志を取り戻した。
そして。
扉を全開にした——。
もはや「しゅうこちゃん」は何処にもいなかった。




