待ち望んだ結果
正午を過ぎ、ようやく警察のヘリが白亜の館に到着した。ヘリは中庭の花を吹き飛ばしながら中央棟の前に降り立った。その光景を紗綾たちは部屋の中から見ていた。浦添が警察官を出むかえ、中央棟に案内している。ようやく捜査がはじまるのだ。
紗綾は少し焦っていた。なんとかしてこの事件を自らの手で解決しようと思っていた。もちろん警察の手に任せるのが正しいかもしれない。昨晩の紗綾もそう考えていた。でも、今の彼女は違った。警察より早く真相を突き止めなければならない。この謎は私に向けて提示されているのだ。だから、だから私が解かねばならないのだ。そんな使命感に追われていた。
そこに携帯電話が受信を知らせた。差出人は黒崎であった。紗綾は待ちわびていたその返事を開封しようとした。重い。何枚か画像が入っているようで、なかなか全体が表示されない。これほどもどかしいと思ったことはなかった。でも、それ故にまず本文が彼女の目に飛び込んできた。
『結論から言えば、可能だ。添付の画像に計算式があるから、気になるならば参照してほしい』
黒崎には申し訳ないが、紗綾には添付の画像の計算が全くわからなかったし、重要ではなかった。とにかく己の仮説が可能か否かが重要であった。
残る問題は、それを可能にする「モノ」がどこにあるかだった。しかしその見当はすでについていた。
「さーやん。どうだったの?」
舞の質問に紗綾は口元ひとつ動かさず、無言でうなずいた。舞はもちろん紗綾が黒崎に何を問い合わせたのか知らなかった。でも紗綾の一挙一動で、この事件が収束に向かっているのだなと感じた。しかし、それにしても紗綾の顔色が優れないのは何故だろう。紗綾はいつも事件の困難に直面した時は非常にぶっきらぼうなのだ。しかし一度その事件の結び目が解けてしまうと晴れやかに微笑んで見せるのだ。
彼女のその無表情は、彼女が大いに煩悶していることを意味していた。舞は静かに紗綾の隣に座ると少し体重をかけてみた。
紗綾は決して正義を振りかざすために謎を解いているのではない。彼女が謎を解くのは、そこに興味深い謎があるからだった。だから自分の考えが合っているのか間違っているのかさえわかれば本来は十分なのである。犯人の辛い過去、悲しい話を聞かなければ気が済まないという人種ではない。できれば聞きたくない事の方が多い。ただ、自分の考えを検証するためには、時としてそういう聞きたくないことにも向き合わねばならない。それも事実である。そう、向き合わねばならないのだ。紗綾はそう自分に言い聞かせると、口を開いた。
「舞、美輝は今どこ?」
「さあ、さっき浦添さんのところに行ってくるって言ってたけど」
「じゃあ、中央棟かな」
そう言って腰を浮かしたが、正直まだどうしたものか決めかねていた。眉間にシワが寄る。舞が心配そうに見上げている。紗綾は見つめ返すと、少し困惑したように眉を曲げた。紗綾は紗綾で舞が少し心配に思えたのだ。いつももっと明るい彼女がいやに神妙にしている。無論それは紗綾のわずかな心の変化が故に舞が抱いた不安なのだが、紗綾にはそれがわからなかった。彼女は自分の心配事は自分だけのものと思っていたからだ。だからふと親友の常ならざる姿に当惑したのだ。彼女もひょっとして、自分と同じ答えに到達したのだろうか。だとすると……。それは残酷な事だ。
「舞」
「ん?」
「ついてくる?」
舞は何も答えなかった。代わりに紗綾の手を取ると、ぎゅっと指と指を絡ませた。舞はまっすぐ紗綾を見つめていた。紗綾はそれから目をそらすと、申し訳なさそうに体を伸ばし、深呼吸した。




