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 女子はどうか知らないけどさ。そう付け加えて、日高くんは唇を閉ざした。

 あたしは、好きと言って、ありがとうと受け入れてもらえればそれで満足だった。その後のことなんてほとんど考えてなかった。

 玉砕覚悟。あたって砕けろ。そういう意思で向かって行ったこと自体、あまり相手の気持ちを考えていなかったのだと思う。

「国崎はすこし、気持ちを抑えてみるといいと思うんだよな。高校でも中学の時みたいに誰彼かまわず好き好きやってたら、女子たちに目つけられてもおかしくないんだぞ?」

「……でもあたし、今回半年我慢したよ?」

 意外そうに、日高くんが眉をあげた。

 そう。今回のあたしは、告白するのを待った。

 日高くんのことが好きだと思っても、すぐに突進しなかった。すこし慎重になろうと思って、時間をあけようと努力したのだ。

 日高くんが、あたしの中学時代をどこまで知っているかはわからない。はたして宮本くんは、あたしと女子とのバトルを見て、だからこそ日高くんに国崎七恵は気をつけろと言ったんだろうか。

 日高くんの指摘はもう起こっていた。あたしは中学のとき、女子とひと悶着も二悶着も起こしていた。その理由は何を隠そう、あたしの恋愛行動についてだった。

 誰かと付き合って、一週間もしないうちに他の誰かのところに行く。誰がその男子に片思いしていたかなんて気にしなかった。そういうことを繰り返していくうちに、女子からは冷めた目で見られるようになり、友達にですら仲間にいれてもらえなくなった。

 高校を中学の同級生たちが行かないところを選んだのだって、新しい男を捜すためだと言われていた。

 言われてみればそうかもしれない。でもあたしは、高校で変わろうと思っていた。

 あのころのように、自分の思うままにするんじゃなくて。気持ちを抑えて、おさえて、おさえて、そして言おうと決めていた。

 だから今回も。高校で最初に隣の席になった日高くんに、好きだと言うのに時間を空けたのだけど。

「その半年の間に、他のやつのこと好きになったりしなかったか?」

「それは……」

 否定しきれない自分が悔しい。

 たしかにあたしは、この半年で日高くん以外の人も好きになった。化学の先生とか、生徒会長とか、後ろの席の男子とか。でも、どきんと心が鳴ることがあっても、それが長く続くことはなかった。

 何度も心が鳴るのは日高くんだけだった。

 一見ぶっきらぼうで冷たくて、むかっとさせられることのほうが多いけれど、ふとしたときに見せる思いやりに心を打ち抜かれてばかりだった。

「言うのをただ我慢するだけじゃ、なにも変わらないと思う。結局告白すれば、国崎はすぐに飽きるんじゃないのか?」

 それは、自分にもわからない。なにせあたしはまだ、日高くんに自分の気持ちを伝えていないのだから。

 日高くんに好きだと言って……彼はまだ言わせてくれないけれど、言ったとして。日高くんがあたしの気持ちを受け入れてくれるかまずわからない。

 もし、受け入れてもらえたら。あたしはそれで満足して、また他の男子に目移りしてしまうんだろうか?

「国崎はまず、ちゃんと好きな人を見つけたほうがいいと思う」

 それきり、日高くんは何も言わなくなった。

 あたしも何も言えず、ただ、隣を歩き続けた。


        ○○○


「結局、家までついてくるんだもんな」

 はぁ、とため息をついて、日高くんは家の前で足を止めた。

 日高くんの家は高校に近い。徒歩でもじゅうぶん通える距離なのだから、自転車ならもっと早いに違いない。毎朝早起きして、朝食もそこそこに満員電車に乗り込むあたしとは、まるで生活が違っていた。

「ついてきたのはいいけど、国崎、帰り道ちゃんとわかってるのか?」

「まぁ……たぶん」

 日高くんばかり見ていて、道順を気にしていなかったとは……言えない。恋は盲目といえど、ここまでなにも見ずに知らないところを歩いた自分に、自分で驚いてしまう。

 呆れる日高くんの顔を見て、あたしは今さらながら、この猪突猛進な性格に恥ずかしさがこみ上げてきた。

「ごめんね、なんか家までついてきちゃって。じゃあ、また明日ね」


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