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「……つまり、国崎は、好きだと思ったらすぐに言うのか」
「うん、だいたい」
好きになると、胸のあたりがぽっと熱くなる。どきん、と心が鳴れば、あたしはその人のことを好きになっていた。
「お前のそれは……違う『好き』じゃないのか?」
「好きは好きじゃないの?」
「いや、だから……」
なんと言おうか考えて、日高くんはようやく目をそらした。あまりに長いこと見つめられていたので、あたしはすこしほっとする。また顔が赤くなりかけていた。
「国崎の好きは、俺が保健の先生がしゃがんだときに、タイトスカートがピチピチになるのを見たときと一緒だと思う」
「なっ……あたしそんな変態じゃない!」
「違うって、俺はそういうことを言ってるんじゃなくて!」
変態と大声で言われたことに、日高くんは傷ついたようだ。顔を真っ赤にして、ぱかんといつもより強くあたしの頭を叩いた。
「じゃあ、日高くんは保健の先生のことが好きなの?」
「違うって」
頭を振って、日高くんはまた考える。ぶつぶつと口の中でなにごとか呟いて、あたしに言う順序を決めているようだった。
「……国崎の告白は、一瞬のときめきをそのまま口にしたものなんだと思う。どきっとしてそれを好きだと思って突っ走るから、すぐに飽きて違うやつに惹かれるんだ」
形のいい眉をくいっと上げて、日高くんはあたしに問う。ずばり見事に、彼はあたしのいつものパターンを見抜いていた。
「そりゃたしかに、好きっていう感覚は人それぞれだと思うけど……でも俺は、国崎の好きはどうも、違うように思うんだよな」
「……じゃあ日高くんは、どんな感じで人を好きになるの? 先生の色っぽいところ見ても好きにならないってことは、子供っぽい人のほうが好きなの?」
「いや、そういうわけでも」
また、ぽりぽりと頭をかく。それが日高くんのくせで、あたしは髪がこすれて流れてくる彼の香りを密かに気に入っていた。
「俺は、あまりタイプがはっきりしてないからな。いつの間にか相手のことをよく考えるようになってて、あいつとああいうことができたらなとか、こんな話ができたらなとか一人で考えるようになってたら、もうそいつのこと好きになってる感じ」
「それでその子に好きって言うの?」
「俺はチキンだから、そうそう簡単に相手に好きとか言えないんだよ。本当に好きになったやつには、言いたくてものどにつっかえて出てこないことのほうが多いんだ」
自分の恋愛を話すのは恥ずかしいようで、日高くんの頬はすこし赤らんでいる。またちらちらとこっちに視線をやって、目が合うとすぐにそらした。
「……訊くけど」
「うん?」
「国崎、好きになった相手と、キスとかできるのか?」
「えっ……」
返事に詰まるあたしに、日高くんはさらに続けた。
「付き合ったとしてさ。キスしたりセックスしたりとか、考えたか?」
「それは……でも……しなくたって別に、好き同士ならいいんじゃないの?」
ちょっぴりお堅いイメージのあった日高くんが、そんなこと言うとは思わなかった。あたしのどぎまぎが伝わったのか、日高くんもちょっと気まずそうだ。
「お互い好き同士で、気持ちで満足してても、やっぱり自然とそういう流れになる時だってあるんだ。俺は国崎が、そういうことを考えずにただ好きって言ってるように思えるんだよな」
「それは……」
たしかにあたっていた。
あたしのファーストキスはとっくに済ませてある。中一のときの彼はあたしの告白をあっさりとOKして、何度かデートを重ねて、相手からキスしてきた。
あたしはそのとき、何かが違うと思った。相手のことが好きじゃないと思った。だから、その後も続かず別れてしまった。
結局いつも、キスまでだった。手を握る前に別れてしまうことのほうが多い。相手から去られることもあったけど、だいたいはあたしから切り出すことのほうが多かったわけで。
「たしかにさ、俺たちも年頃だから、エロいことばかり考えたりする。でも、相手はやっぱり好きな相手がいいって思ってるやつのほうが多いと思う。その好きって言うのも、それこそ相手の色っぽいところ見たから、っていう理由ではないんだよ」