1
「告白するなら断るからな」
あたしの顔を見るなりそう言い放って、日高くんはくるりと背を向けた。
自転車置き場から自分の自転車を出して、彼はそのまま帰ろうとする。呆然とするあたしに視線もくれず、ケータイを見る余裕までみせて、今まさにうら若い乙女をふったなんて思えないぐらい堂々としていた。
「な……」
かぁっと、自分の顔が熱くなるのがわかる。告白する前に玉砕するなんてまったく考えていなかったことで、恥ずかしいやら悲しいやらで頭の中がいっぱいになってしまった。
「ちょっと、待ってよ!」
彼が自転車に乗ったら最後、あたしの一大決心はぶつかる前に砕けて散ってしまう。それだけは避けたくて、あたしは日高くんのお尻に思いっきり蹴りをいれていた。
背後を襲うという卑怯な手に、日高くんは「いってぇ!」と悲鳴をあげる。自転車もろともすっころんでしまえと思ったのだけど、悔しくも彼はハンドルを離すことさえしなかった。
「人の話は最後まで聞いてよ!」
日高くん、話があるの。放課後の自転車置き場でそう女子が話しかけてきたら、普通男子はだまって聞くものだろうに。なのに彼ときたら、あたしの話なんて聞かずに返したのがあの言葉だ。
「誰も告白しようなんて思ってないわよ!」
耳まで真っ赤になったあたしの虚勢なんて、見抜かれてるに決まってる。日高くんはお尻をさすりながら、薄い唇の端を上げてニヒルな笑みを浮かべた。
「違った?」
「違うもん! うぬぼれないでよ!」
叫ぶ声が甲高くなる。きーきーうるさい小猿でも見るかのような目であたしを見下ろし、日高くんは「そう」と謝りもしなかった。
「じゃあ、なにさ?」
「それは……」
とっさに言葉が出てこない。顔の火照りが強くなって、あたしの耳からは煙が出ているのではないかと思うぐらいだった。
「用がないなら帰るけど」
「そんな、ひどい!」
自転車を押してすたすたと歩き始めた日高くんを、あたしはあわてて追いかける。青々と茂った校庭の桜の木が、風にふかれてあたしたちに緑の雨を降らせていた。
「だってお前、帰る道俺と違うじゃん」
日高くんもまだ、自転車に乗って逃げるほど白状ではないらしい。こちらを振り向き、あたしが追いかけてくるのを見て苦笑していた。
あたしは日高くんの、こういうところが好きだった。
○
結局日高くんは、あたしがずっとついてきても何も言わなかった。
何も言わないというか、あたしがいることを気にしていないという感じ。違いすぎる歩幅を懸命に合わせて隣に並んでも、空気のように流されて、気まずさを通り越していっそすがすがしい。
日高昌樹。彼はあたしが高校生になってはじめて、告白しようと決意したクラスメイトだった。
席も近くてよく話をして、お互いのメアドだって知ってる仲で。漫画やCDの貸し借りだってして、今日だってあたしが貸した少女漫画に「面白かった」って感想までつけて返してくれたのに。まさか告白しようとしてあっさりはねのけられようとは思わなかった。