第8話 細工は流々仕上げはどうなる?
マサキ様とユリカ様の笑顔を取り戻すべく立てた計画は『来ても居ないのに来てるよ来てるよ作戦!』
ノリと勢いだけの思い付きで付けたネーミングにみんなの顔は呆れていた。
女将兼、仲居頭のキャスハには「いちいち変な作戦名を付けなくて結構です」と叱られてしまったよ。だけどさ~ なんでも楽しい方が良いよね。こちらが楽しければ相手も自然に楽しくなるってもんだよ。
みんなに作戦の内容を説明し、昼食後に開始することになった。
昼食はこの森で取れたキノコを使ったシチューと料理長特製のベーコンサンド。この特性ベーコンは天界豚に複数の香草を料理長秘伝の配合でブレンドし、天界塩と一緒に擦りこみ丸一日寝かせた後、クルミとリンゴのスモークチップでじっくり燻った絶品で俺の好物でもある。
これを使ったベーコンサンドが旨いのは当たり前で、これを食べれば元気が出る事請け合いのはずだ。
部屋の明かり担当の光妖精ルクスからの合図が有り、作戦開始となり、接客担当のシモンがお二人の部屋へと向かった。
「お客様、お寛ぎの所失礼いたします」
「はい。どうぞ」
返事を確認してから部屋の中に。
「ただいま、お二人をお探しの方がお見えになっておりますが、お通しされますか? それともお断りいたしますか?」
「居ないと断って下さい」
「承知いたしました。そのようにさせて頂きます」
「ちょっと待って、私たちがここに居る事は教えてしまったの?」
「いえ、お教えはしておりませんが当方が勝手に判断をしましてはと思い、お尋ねに伺っただけでございます」
「そう。では私たちは此処には居ないという事でお願いをします」
「かしこまりました」
この事はシモンが戻る前にルクスに寄って連絡が入った。本番はこれからである。このあと二人がどう動くかによって協力の仕方が変わって来る。もしこの場に押し込まれることに怯え宿を引き払うと言えばまだ相手が近くに居るのに自ら見つけてくださいと出向くのですか?と言って引き止め、引き続き滞在すると言えば宿代が嵩むと二人を困らせる。不安で考えも纏まらず困り果てた所で相談に乗るよと神の手を差し伸べる。
どちらに転んでもこちらは話を聞き出すタイミングを得らえると言うわけさ。
まぁ~ 無理に聞き出しても言ってはくれないだろうからここは自分たちから言いたくなるように仕向けたのだ。もちろん探しに来た人など居るわけがない。これぞ誰も来ても居ないのに来てるよ来てるよ作戦の全貌だ。
さて、もうすぐ二人が帳場にやって来るだろう。