第6話 これって作戦成功なのか?
どうしてマックス様とシルバーウルフが会話を始めたのか分からないが、マックス様は何やら説得をしているようだった。
「お前たちは兄弟だろ? 兄弟ならケンカしないで仲良くしろよ」
『お主は何者だ。関係ないだろう。割り込ん来るな!』
『兄様、俺たちと会話が出来るなんて聞いてませんよ』
『慌てるな。おい、そこなる人間よ。我らの邪魔をするつもりか!』
「そうじゃないよ。お前たちは兄弟だろ。助け合うのが基本じゃないのかと聞いている」
『そうかも知れん、だが、此奴は兄である俺の言う事を聞かんのだ』
「それはお兄さんのお前さんに甘えてるんだよ。だから許してやれ」
『だがいつもだぞ。いつもいつもいつも! いい加減にして欲しいのだ!』
「おいおい、お前は弟の甘えも受け止められないような狭量なウルフなのか?」
『そ…そんな事はないわ!』
「じゃ~ 許してやれ」
『……』
『兄様、どうします?』
『兄弟喧嘩に巻き込む作戦は失敗だ。二人掛りで襲うぞ。そしてやられてやる。良いな』
『分ったよ。兄ちゃん』
「何を話しているんだ。仲直りでもしたか?」
『あぁ~ お前を先にヤルために喧嘩は中断だ!』
「そうか。それは良かったな。だが、俺は弱いから襲い甲斐は無いぞ」
『安心しろ、一瞬で違う世界に送ってやるよ』
シルバーウルフが勇んでマックス様に襲い掛かるがのらりくらりと躱すだけでマックス様からは攻撃はしていない。
『いつまで逃げられるかな? そろそろ体力も切れる頃だろう』
「心配いらないよ。俺は攻撃力こそないが体力だけは有るからね」
余裕のある素振りを見せるマックスさんを見るといつの間にか弟と呼ばれていたシルバーウルフを撫でまわしていた。
『兄ちゃん、この人に撫でられると凄く気持ちが良いよ~』
『おまえ~~~~~ 何してるんだ!』
『だって気持ちが良いから……』
余りにも成り行きに思わず万能の杖でマックス様を鑑定するとテイマーのレベルが1になっていた。しかも魔獣との会話術と言うサブスキルまで発現していた。
なるほど。これが発現したからあの二匹と会話が出来ていたのか……。しかしなぜ突然発現したんだ?? 不思議だ。
『あぁ~ もう良い。我らの負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ!』
「えっ、俺は何もしないよ。お前たちの喧嘩でこの宿に被害が出なかったからな。さぁ、森にお帰り」
『そうはいかん。俺たちはお前に負けた。だから…… 従魔になってやる!』
「いや、そんなの要らないから……」
『もう遅い。すでに契約は済んでいる』
「いつの間に……」
『お前に撫でられ、気を許した瞬間にだ。ただ、一言言わせてもらう。お前の魂は純粋で優し過ぎる。我ら兄弟で守ってやらねば直ぐに悪しき者たちに利用される。それが心配だ』
はぁ~ しょうがないか……
「わかったよ。これからよろしく」
翌日、マックス様が出立する時刻になり、みんなでお見送りに出た。
「皆様、ありがとうございました。まさか自分がテイマーになれるとは思っても居ませんでしたが、シーフとルーフに聞きました。シーフとルーフはあの二匹のシルバーウルフの名前です。俺の素質を見抜いた宿主さんがお膳立てしてくれたと……」
「すいません。出過ぎた事かと思いましたが、せっかくのお力を眠らせてくのは勿体無いと思いまして……」
「いえ、感謝しています。新しい仲間を紹介してもらえてありがとうございます。お陰でこれからは単身で頑張るつもりです」
「それは善かったです。これからのご活躍をお祈りしております」
「ありがとうございます。また来させて頂きます」
「はい。お待ちいたしております」
横ではフェルダとシーフ・ルーフの兄弟が何やら話をしていたようだが、この森はあの兄弟の故郷になる森だからいつでも戻って来いとでも話していたのだろうか。
こうして初のお客様を無事に送り出すことが出来たのだった。
そして一年後、マックス様がSランクのテイマー冒険者になったと風の噂が聞こえて来ることになる。