第2話 上皇様は森の住民たちに助けられる
俺たちが降り立ったところはマチルダ皇国とマチルナ王国の国境沿いある森で、魔獣や魔物が好き勝手に謳歌していて人間たちには魔界の森と呼ばれ恐れられている森だが、再会の森とも呼ばれている。
簡単に説明すると、両国はもともと一つの国で、王位争いによる兄弟ケンカが原因で結果として国が分断されてしまった。しかし、その煽りを食ったのは住民達で親族が離れ離れに暮らすことになり、人目に付かぬこの森で再会を果たす場所にもなっている。商人たちも国境ギリギリの場所で闇取引をしていて、両国の交流と経済を支える重要な役割もしている。
これには神皇時代から気になってはいたが、無闇やたらと神が介入してはならないと言う不文律があったから様子を伺うしかなかったが、国が分断に至ってしまった事は無策の結果と俺は反省していた。そんな場所だからこそ魔獣や魔物に怯えることなく住民達が安心して利用できる場所を作ってやりたいとこの場所に宿屋を開く考えをみんなに伝えた。
「さすが上皇様です。素晴らしいお考えで」
「よし、上手い料理を作って喜んでもらうか。サメロも頼んだぞ」
「わかってるよ」
みんな協力的だ。
「上皇様、場所は此処でよろしいでしょうか?」
「いいよ」
「では、このユミルにお任せください」
そう言うとユミルは何やら呪文を唱えると1匹のフェンリルがやって来た。
「上皇様、この森の主のフェンリルでございます」
『これは神皇様… いや、上皇様でしたか』
「この度、この地に宿屋を作る。お主も協力してもらえないだろうか」
『私目にもお声をおかけ頂けるとは…… 喜んでお役に立ちましょう』
「そうか。この森をもっと人間たちに開放をしたい。この森に棲む魔獣や魔物達に迷惑を掛けるかも知れないからね、そちらの統制をよろしくお願いするね」
『畏まりました。この森に棲む者たちにも協力をさせましょう』
「助かるよ。そうだ、君にフェルダと名を上げよう」
『フェルダですか。私に名を頂けるとは…… このフェルダ、一生上皇様にお仕えすることをお誓い致します』
「そんなに大げさに考えなくていいからね」
そして、フェルダがひと吠えすると森に棲む妖精達や獣魔も集まり、宿屋の建設に協力してもらえる事になった。
万能の杖を使えば瞬時で出来るんだけど、せっかくのやる気を折るのも何だからと妖精や魔獣たちにお願いした。
木の妖精ドリアードが敷地となる場所の木を倒木して建築資材に提供してくれた。それを火の妖精サラマンダーと風の妖精シルフが乾燥させ、物作りが好きな妖精スプリガン達が建物を建てて行く。土の妖精ノームは地下水と温泉を掘り上げてくれた。そして光の妖精ルクスは明かりを提供してくれて立派な宿屋が完成した。
それぞれの妖精の長にお礼の意味を込めて名を授けてあげた。
そして、もう一度フェンリルのフェルダが一声無くと多くのスライムが集まって来た。
『上皇様。お初にお目にかかります。僕はスライムの長です。この度は僕たちにもお役に立てる場所を頂けるとか。よろしくお願いします』
『上皇様、スライムは何でも食べる雑食種。ゴミや汚れ何でも食べるので掃除に洗濯、不浄の物の処分などを命じられると良いでしょう』
「そうなの? ではそれをよろしくね」
『了解しました。僕たちに任せてください』
こうして森の住民たちが協力してくれて無事に宿は開業する運びとなった。