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六輪

 今日、ルル達はゼルン国境にある冒険者と旅人の町テルペに到着した。町はそこらじゅう人だらけ、店も多く活気に溢れていた。


「わぁ~、すごいですね!」

「ですね~」


 街道は全て石畳で建物も石造りものが目立つ。鍛冶や宿屋に酒場、その他にも冒険者向けの店に溢れていた。荒くれが多いと噂だったが、噂は噂。居るのは厳つい冒険者と探検家達だった。そして、なによりこのテルペのメインは中心にそびえ立つ塔だ。


「あの塔はなんでしょう?」

「上れるんですかね~?」

「さぁ、どうだろうな」

「でも、今はとにかく宿屋探さないとですね~」


 テルペはいたるところに宿屋がある。ルル達の歩いてきた街道だけでも六軒もあった。ので、適当な宿屋に入ってみることにした。


「いらっしゃい!泊まりかい?」

「そうです~!三部屋お願いします~」

「朝食と夕飯つけるかい?」

「お願いします~」

「そんじゃ、銀貨二枚と銅貨七枚だよ!」

「あ、安いですね」

「安くても部屋は清潔で料理はうまいから安心しな!」


 言葉通り部屋は簡素ながら清潔だった。適当に荷物を置いてさっそく町へ。まず、塔のことを宿屋の人に聞いてみる。


「すみません~」

「なんだい?」

「町の中心にある塔、あれはなんなんですか~?」

「あれはねぇ。エーク協会だよ」

「エーク?」

「冒険者、探検家、旅人に関係する組織らしい。あたしも詳しいことは分からないけど。行って損はないと思うよ。なにより上からの景色は絶景だからね!」

「へぇー!」


 町を探索しつつ、エーク協会の塔を目指した。町には小さな小道が無数にあり、まるで迷路のよう。この小道には全て名前があって、道の名前にちなんだ店が並ぶ。長靴小道、眼鏡小道、帽子小道などなど。小道を進むとときどき広場に出る。広場にはベンチがあったり噴水があったり、はたまた井戸なんかあったりする。たびたび子供達の遊び場になっている。話によるとこのような町のつくりはレンチュリス帝国を模しているらしい。ルル達は小道を行くといずれはエーク協会にたどり着いた。


「ここがエーク協会。近くで見ると、よりおっきい」


 エーク協会の塔のまわりはエーク広場と呼ばれ町の人達にとって憩いの場所となっている。エーク広場にはそれぞれお気に入りの武器と鎧を装備した冒険者や探検家、たのしそうに遊ぶ子供達が行き交っていた。エーク内部は一階と展望階のみ立ち入り可能で上への階段は四方にある。中央には受付があり、壁のいたるところに張り紙があった。


「あの張り紙、なんでしょう?」

「さぁ~?」

「ようこそエーク協会へ!なにかお困りですか?」


 張り紙を眺めていたら後ろからエークの人に声をかけられた。


「あ、この張り紙はなんなんですか?」

「こちらは全てエークに寄せられたテルペ市民からの依頼になります」

「依頼、ですか?」

「はい!こちらの依頼は全て内容に合わせた報酬をご用意してあります。これらの依頼はエークに登録している冒険者へ提供しております」

「登録していなければならないのか?」

「はい!」

「じゃあこの、依頼の下の方に書いてある狼推奨っていうのはなんですか~?」

「そちらは冒険者、探検家それぞれの実績に合わせエークによって与えられる階級のことですよ!もしお時間ありましたら登録してみませんか?」


 ルル達は女性に言われるがままにエーク受付まで案内された。女性の勧誘方法はそれはそれはなかなかに強引だった。


「エーク協会へようこそ!ご用件はなんでしょうか?依頼でしょうか?新規冒険者登録でしょうか?」

「あの~、冒険者はやっぱり戦いますか~?」

「もちろん、討伐依頼もありますが中にはもの探し、逃げた飼い猫探しなど戦闘以外もありますよ。どうですか!?」


 しばらく、どうするか悩んだルル達だが戦闘はコルーができるし旅の資金となる報酬も手に入るということで登録することになった。


「じゃあお願いします~」

「かしこまりました!それではこちらの紙に必要事項をご記入ください」


 それぞれ、名前、年齢、性別、出身、魔法が使えるかなどなど書いたあと魔法使いだけは特殊な砂時計のような形をした道具を使って魔力の強さや量を計るらしい。


「では、ハートマン様はこちらのエレムス魔力計で魔法を計りますので、」

「なに?エレムス…か」

「どうかなさいましたか?」

「コルーさん?」


 コルーはなぜかエレムス魔力計を使いたがらない。怖がっているというよりはただ近づくことを避けている。受付の人がエレムスを近づけても離れていく。


「我輩は以前、エレムス魔力計を壊してしまったことがあってな。触れただけで酷い大爆発を起こしたのだ」

「そんなことが…!」

「恐らく、その魔力計は古いものだったのでしょう。ご安心ください。この魔力計は新しいものなのでそのようなことは起こりません」

「しかしな…」

「なんじゃぁ?若いの、ビビっとるんか?大丈夫じゃよほれっ!」


 通りかかった冒険者の大男に背中を押されたコルーは思わず女性の持っていたエレムス魔力計に触れてしまった。


「しまっ…!」


 魔力計は異常な反応を見せた。本来、エレムス魔力計は中央の砂時計構造内部にある紫色の砂を魔力計に触れることで操り上へ動かす。砂を全て上へ動かしきるまでの時間で能力の高さを計る。しかし、今回はコルーの魔法に過剰反応し内部の紫の砂が硝子製の砂時計構造を破壊し強い魔力と反応することで爆発した。


「全員無事か!」


 咄嗟に展開したコルーの魔法防壁によって背後のルル達と大男は無事だった。さらに受付側へも展開していたため人への被害はなかった。だが。


「いた…くない?」

「今のは、いったい?!」

「まさか、本当にエレムスが爆発するとはの…」

「うぅ~」


 あたりはぼろぼろで黒焦げだ。当然だがエレムス魔力計は影も形もない。爆発音を聞き付けたひとがたくさん集まっていた。


「なんだ!いったいなにがあった!」


 壊れた受付は封鎖して、ルル達と大男そして受付の女性は二階の応接室に集められた。そこでエークの偉い人になにがあったかを話した。


「なるほど、それで魔力計が爆発したのですか。いやぁ、そんなこと初めてですよ」

「我輩のせいでいろいろと壊してしまった。本当に申し訳ない」

「いえいえ、誰にも怪我がなくて良かった。それはあなたの咄嗟の行動のおかげです」

「そうさぁ。あんたは悪かねぇ。ワシが押したのが原因じゃ。すまんかったの」

「にしても、弁償はせねば。しかし、我輩はあまり持ち合わせが…そうだ。なにか依頼はないか?報酬は全て修理代にあててくれ」

「そう言われましても、金貨三十枚の依頼となると階級は熊か大角鹿が対象のものばかり。報酬の少ない依頼をコツコツこなすのも時間がかかりますよ?」

「構わん」

「…分かりました。では、依頼をご用意しますので少々お待ちください」


 エークの偉い人と受付の女性は一旦応接室を出ていった。すると大男がコルーに話しかけてきた。よくよく見ると大男は筋骨隆々で背中にはコルーよりも大きい斧を背負っていた。まさに歴戦の冒険者という風格だ。


「さっきはすまんかったの」

「いや、気にするな」

「そういう訳にはいかん。ワシもお前さんの受ける依頼を手伝わせてくれんか?」

「それは心強いな!感謝する」

「ワシはレウス-ガーボ。冒険者で階級は銀の熊、よろしくな!」

「我輩はコルー-ハートマン。エークへの登録は冒険者なのだが階級は聞いていない」

「あの魔法の強さなら最低でも狼じゃろう。そっちのお前さん達は?」

「僕はロッダ-ウェンジャー。探検家の登録をしました~」

「ルル-アイリアです。お、同じく探検家です」


 レウスとちょっとだけ他愛もない話しをしていたら偉い人が大量の依頼を抱えて部屋に戻ってきた。机の上にドサッと置いて一息ついた。


「ふぅ~。こちらが依頼になります」

「な、これ全てか」

「あぁこちらはコツコツやる場合です。一度にというならこちらの依頼になります」


 そうして手渡された依頼の内容は、テルペ北東メレル森林およそ中央に縄張りをもつ強力な魔獣の討伐だった。


「階級は熊推奨。それはレウスさんがいらっしゃるので問題ないでしょう」

「それで、強力な魔獣とは?」

「クラスペリウスです」


 クラスペリウスとは高さ二メートル全長六メートルの超大型の蜥蜴。固い皮膚はあらゆる刃を弾き、鋭い爪と牙は鎧を紙のように引き裂く。知能は高くないが非常に好戦的で相手を殺すか自分が殺されるかするまで止まることはない。今回、問題となっているのは森を縦断する道がクラスペリウスの縄張りになってしまったこと。旅人や行商が襲われているとの報告が後を絶たないらしい。


「メレルに住み着いたクラスペリウス二体を討伐してください。報酬は金貨五十枚になりますが、弁償代金を差し引いて二十三枚となります」

「クラスペリウスとは骨が折れるの。じゃが、面白い相手じゃな!どうするよハートマン」

「もちろん、引き受けるとも」

「ありがとうございます。それと、そちらの方々はこちらをお受け取りください」


 動物の形をした銅製のバッジを手渡された。ロッダとルルにはひよこが、コルーには狼が渡された。


「なんですかこれ?」

「階級章になります。一番下から順に、ひよこ、猫、狼、熊、大角鹿となります。さらに階級それぞれを細かく分けると銅、銀、金、白銀があります」

「へぇ~」

「こちらもお受け取りください」


 今度はあの受付の女性から刃が十センチほどの剣がまたそれぞれに配られた。とくに変わったものではなさそうだが。


「魔剣レームになります。討伐した魔獣は必ずそちらの魔剣で一度突き刺してください」

「なんでですか~?」

「レームは突き刺した対象のことを記憶する特殊な剣です。もし、口頭のみの報告であった場合、虚偽の可能性もありますのでご了承ください。それと注意点として、魔剣レームは完全に死亡した生き物でないと記憶できませんのでお気をつけください」

「分かりました~」

「では、以上になります。質問はありますか?」

「問題ない。さっそく、行ってくるとしよう」


 そしてルル達は応接室をあとにしようとすると。


「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」


 エーク協会の塔を出てさらにテルペの外へ、北東にあるというメレル森林を目指した。のだが、町の出口付近でなにやら話し合いを始めた。


「ロッダ、ルル。二人は町に残っていても構わんぞ」

「えっ?」

「そうじゃな。戦えんお前さん達はその方がいいじゃろう」

「でも、」

「分かりました~。じゃあそうしますね~」

「ロッダさんが、そう言うなら」

「うむ。では、行ってくる」

「気をつけて」

「いってらっしゃい~」


 そうして二人は町に残り、コルーとレウスは改めてメレル森林へ向かった。ルルはコルー達に手を降って見送った。

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