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第8話 地下の先へ再度

 一階でみんなには待機してもらうなかで、奈美は地下室へと赴いた。


 目的地は地下室の奥にあるドアの先。まだ、毒ガスが蔓延している可能性が十分ある。その状態でドアを開けるとここの地下室にまで毒ガスが広がることが懸念されるため、この体制でいる。


 ドレスアップシステムのウエストポーチを腰に。顔にしっかりと装着したガスマスクを再度確かめ、ドアノブに手をかける。


 一度、大きく息を吸い込むとドアをそっと開いた。

 直後、開いた隙間から白いガスが漏れるのを確認。慌てて一度閉じてガスマスクを手で押さえた。


「……全然収まってないね……。大丈夫だよね……このマスク……」


 ふと脳裏によぎるのはすでに一度はっきりと体験し覚えている死。このガスが容赦なく奈美たちの死を招く恐ろしいものはしっかりと理解している。


 だが、今はガスマスクを信じて突き進むしかない。もう一度、息を大きく吸い込むと、最低限ドアを開けて体を入れ込んだ。

 その後、できる限りガスを漏らさないよう素早く閉め切る。


 中はまだ明かりがついていた。ただ、当然のように廊下にはガスが漂っている。空気よりは重たいのか、下のほうにたまっている感じか。


 とにかく、まっすぐ進んでいくと、分かれ道に差し掛かる。最初入ってきたときと同じだ。


 おそらく、奥につながる道と、反対側の地下室につながる道。あの時は奥にいこうとして毒ガスを浴びせられた。


 ひとまず、反対側の地下室につながるであろう方向の廊下を進んでいく。歩いた感じだとほぼほぼここは左右対称の形になっているらしい。

 ということは……ここを曲がった先は……地下室につながったドアだ。


 で、曲がった瞬間、目に飛び込んできたものに対して、奈美は目をまんまるにして思わず口に手を当てる仕草をした。

 が、当然ガスマスクに当たる。


「……」

 直後は言葉が出なかった。少しその場で立ち尽くしていたが、なんとか気持ちを落ち着かせると、前に進んでいく。

 そして、その者の前でしゃがみ込んだ。


 それは和田ライトだった。奈美たちの監視役であり、同時に救ってくれた命の恩人ともいえる存在。

 それが、今、……目の前でぐったりと倒れている。


 ロックの機械がつけられている壁の真下にもたれかかるように、静かに目を閉じている。


「……ライトくん……」

 声をかけるがピクリとも反応しない。息や脈を確かめてみるが、完全に停止しているのは……もう言うまでもない。


 そっと、ライトの髪に手を振れる。その表情はあまりに無。なにもなく、ただただ眠っている。


 ……なにがあったか、奈美にはわかりかねる。だけど、想像はできる。

 きっと、毒ガスを吸ったあと、最後の力を振り絞って奈美たちに最後の手段を残してくれたんだ。


 そして、服と……このガスマスクをドアの向こうに置いた後、ひとりで静かに息を引き取った。


 ライトは身を挺してチャンスをくれたというのに……奈美たちは、ライトにしてやれなかった。


 ……最後に味方になってくれてありがとう、その礼すら……言えないままだ。ただ、敵であるという認識をぬぐえないまま……。


「……ごめん……。君を助けられなかった……」

 そうつぶやいたが、同時にふと思う。


 奥に行けば……ライトのクローンがあるかもしれない。……いや、もしかしたら……どこかでライトのクローンが動いているかもしれない。


 そう考えだすと、すぐにその場から離れ、奥につながる廊下を突き進んでいった。毒ガスをまかれた先を行き、とにかく廊下をひた走る。


 途中、人の死体がいくらか転がっていた。奈美たちが攻撃した覚えはない……。ということは、ライトがやったのだろう。


 にしても……。

「……随分と静か……」

 立ち止まり、そう思った。


 普段も静かな時はあった。そもそもこの学校に六人七人だけだったのだから、静かな時のほうが多かったとも言える。


 だけど、この静けさはそれと比較にならない。


 なんやかんやで、周りに人がいただけ音はしたのだ。なのに、いまは本当になんの音もない。……まるで、人の気配がない。

 もぬけの殻、という言葉がこれほどふさわしいことはないと思えるほど。


 そうやって歩いていくと、やがて行き止まりに差し掛かってしまう。

 廊下なので各部屋とはつながっているが、廊下としては一本道だったはず。部屋が別の場所につながっているとも思えない。


 しばらく、目の前にある行き止まりの壁をたたいたりして、調べてみる。すると、それはなんとなく、絞められた扉なのだと気づいた。


 おそらくだが、ここは閉鎖されたんだ。毒ガスがばらまかれたことにより、ここを締め出そうとしたのだろう。ただ、この先にも人の気配はない。


 締め出そうとしたが、毒ガスを完全にシャットアウトできず、さらに先の扉で締め出したか……。いや……やはり……ここの人間はみな、外に逃げ出したか……。


「……」

 どちらにしても、この扉は壊れそうにない。そもそも、学校のガラスですら割れなかったのだ。この頑丈な緊急用扉など壊せるはずもない。


 この施設の地下……本当はもっと広いのだろう。……少なくとも、どこかにライトのクローンが生成されている部屋があるはず。

 だけど、閉鎖されたこの空間内には……たいしたものがない。


 完全に閉じ込められている……。この中では……なにもできない。


 ……地下から出口を探し出すのは……不可能か……。……まともな収穫は……得られそうにないかな。


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