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第6話 文音が助けに入れたわけ

 ヘリコプターの音が聞こえたため、開いていた屋上に突入した一樹だったが、時すでに遅し。ヘリコプターは上空へ飛び去っていく。


 しかし、これによってずっと出ることができなかった外へ、ついに顔を出すことができた。まぎれもなくこれは大きな一歩だ。


 だが、目の前に広がるものは、その気分を容赦なく打ち崩していく。

「……壁……?」


 この学校は壁によって完全に囲まれていたのだ。それも高さ二、三メートルの塀なんてレベルではない。学校の屋上よりさらに一回り高い。

 壁で視界が遮られているため、目に入るのは空と遠くの山だけ。


「……待って? ……? 窓から……こんなの……見えた? ……え? 待って……え?」


 全員、目の前にある実情に混乱を抱いていた。

 ずっと学校の中から窓の外を眺めてきていたが、こんな壁など見たことなかった。普通に……変哲もない景色が……。


 はじけるように喜巳花がドアをくぐり校舎の中へと入っていく。いてもたってもいられず、一樹もまた同じように校舎へと入った。


 まず、真っ先に目に入ってくる窓の外の景色は……中庭。まだ、ここは問題ない。……問題なのは……外側。


 教室に入って外の景色を見ようとする。……そして、今になってはっきりと気づいてしまう。


「……これ、……偽の景色だ…」

 窓に手を振れつつ確信した。


 頑丈なガラスの先にあるのは、本当の景色なんかではない。なにひとつとして変わることのない……見かけの風景。


 でも、気づけなかった。……当然だ。一樹たちは生まれてから一度も外に出ることないまま、……ここで生きて……死ぬ。そんななかで、この事実を知る術なんて……なかったんだ。


 続いて屋上から降りてきたほかのみんなもこの事実をすることになる。

 ただうなずいて納得するもの。まだ困惑し続けているもの。反応は人それぞれ。


 それでも、今まで起きていた衝撃に比べれば……もはや慣れたものか。


 腕を組みつつ最後に教室へと入ってくる文音。彼女が切り替えるようにトーンを高くして話し始めた。

「……ひとまず、ひとつの区切りは、これで付いたらしいな。おそらく、やつらもこの状況じゃ、すぐ手出しもできないだろう。

 なら、次はどうするか、……ってところになるな」


「それより先に聞いておきたいことがあるんだけど」

 文音の言葉を遮るように一樹が手を上げる。文音に手でうながされると、ひとり前に出て文音と向き合う。


「……文音ちゃん、僕らが校長室で捕まった時、助けてくれたよね? ……でも、先に殺されていた、って話だったはずだったのに……どうして?」


 おそらく、みんな少なからず抱いていた疑問だったはずだ。いろいろあるなかで忘れかけていたものもいるだろうが、どうしても納得できていなかった。


 一瞬、キョトンとした文音だったが、すぐに軽く笑みを浮かべた。

「……あぁ……、説明する暇もなかったな」

 そう言って、響輝と顔を合わせる。


「実は響輝に頼んで、ひとつ策を打たせてもらっていたんだ。裏をかけるタイミングを作り出すために」


「……裏?」


「あぁ。ライトの話の内容から、わたしたちが生き残っても結局、最後はなんらかの方法で殺されるだろうという予想はついていた。

 そして、今までのわたしたちはそのなんらかの方法を逃れることはできず、確実に死を迎えてきたのもおそらく事実。


 なら、これを変えるのなら、もっとリスクを負った賭けを挑まないと無理だろうと踏んだんだ」


 文音は声のトーンを落として答える。


「それは、死を偽装することだった。みんなが殺されるタイミングより先に、わたしが死んだということになれば、わたしはその処刑からは免れることができる。


 ただ、ここは実験場、まともな死角はないはず。下手な芝居じゃ無理。なら、……本当に自らをひん死に追い込めばいい。そして、響輝にはひん死になったわたしを見捨てて、みんなを引き連れてもらうことをお願いした。


 ちなみに、みんなが戻ってきたとき、響輝は奈美をわたしに触れさせないようにしていただろ? あの時、響輝はわたしの息がまだ残っていることを確認して、敢えてみんなを遠ざけるようにしてもらっていたんだ。


 ここから先が賭けだ。和田ライトが……わたしを助けてくれる可能性にかけた。


 実はわたし、ドレスアップシステム、ウエストポーチのやつをひとつ隠し持っていてな。おそらく、本来ライトが手にするはずだったシステムだ。


 ライトがわたしに近づいてきて、そのシステムを使用して回復させてもらえる可能性に……すべてを賭けた」


「……なんでライト? 完全に敵やったやん。うちらを騙して、陥れたやつやん。そんな可能性……あるわけ」

 そう、喜巳花が否定する。当然、一樹もそう思う。


「わたしもそう思った。可能性は低い。……でも、あいつもまたわたしたちと同じクローン。立場はむしろ、わたしたちに近い。


 それにライトはわたしたちと違って、今までの繰り返しをすべて記憶している。記憶をまともに引き継げないわたしたちより、イレギュラーな行動を起こせる可能性は高いと見ていた。


 なにより、やつらはわたしたちの行動を監視しているはず。まだ監視レベルが低いと思われるライトなら、チャンスがあるかもしれない。


 とにかく、やつらにとって、想定外の状況を作り出すには……、イレギュラーを引き起こさせるには、ライトにそのイレギュラーな行動を持ってもらうしかない。


 要は……、なんども繰り返して、何度も死んで来たわたしたちが……イレギュラーな行動など……。なら……、繰り返しをすべて知っているライト、って考えたってだけのことだった」


 ……、な、なんてむちゃくちゃな策……。まともじゃない。……今こうしてその策が成功しているのが奇跡みたいなものじゃないか。


 ライトが言っていた……「バグ」が起きたからって表現が、今になってその意味を理解する。バグ以外のなにものでもない。


 かなり神妙な空気になるなかで、奈美が声を上げる。

「……なんで、その策……あたしには教えてくれなかったの? なんで、響輝と文音だけで進めたの?」


「言ったら、奈美……君は絶対に止めてきたはずだ。響輝ですら渋ったんだ。君に言ったら、この策を遂行するチャンスすらもらえなくなる。

 だろ?」


「当然だよ! 今でも気づいて止められなかったこと、後悔すらしたほどだよ。なんて、無茶なことをするの? 一歩間違っていたら、死んでいたんだよ?」


「おかしなことを言う。その一歩を間違えなかったからこうして、みんな生きているんだろう? 間違っていたら……どうせみんな死んで、リセットだ。

 そして、繰り返しの中で、また同じ賭けをわたしはしていたんだろう」


 ……こればっかりは理不尽ではあるが、否定できるものはいないだろう。それどころか、この策自体、すでに何度もやっていて、やっと成功したのかもしれない。


 どちらにしても、ライトの心変わりが……現状を変えたわけだ。


 ……肝心のライトは……ここにはいないが。


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