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第5話 一樹たちを残して

 一回の死を経験しつつ、自分のクローン体へと記憶が引き継がれた一樹たち。無事、新しい……という実感もないまま、自分はここにいる。

 ただし、全員全裸と言う、まぁなかなかの光景ではあるが……。


 と言っても仕方あるまい。クローン体が服を着せられた状態で生成などされるはずもないのだから。


 ちなみに、ここは間違いなく地下だ。自分たちの体が完成されているのを見る限り、通常教室棟のほうの地下。

 最初に一樹たちが入った地下のほうであることは間違いないだろう。


「……なんか、気まずいね……」

 自分の裸体を手で隠しながらそっぽを向く奈美。ほかのみんなも似たような感じになっていた。

 だが、文音がひとり、部屋の奥へと歩いていく。


「ここに服……出てるんだけど?」

 文音は地下の奥にあるドアの前に立つと、服を摘まみ上げた。


 近くによって確認する。乱雑に積み上げられた感じだが、これは間違いなく服だ。しかも、さっきまで……前の一樹たちが来ていた服と同じもの。


「……どうやら、わたしたちに着せる服がここにばらまかれているらしいな……。さっさと着てしまおう」


 文音がみんなの分の服を投げ渡しつつ自分の服を探し当てる。

 とにかく、まずはそれぞれ、黙々と自分の服を着こんだ。



 全員、服を着終えると、改めて全員で顔を見合わせた。


「……みんな、……代わりはないのかな?」


 奈美に聞かれて、一樹は自分の体を見渡した。クルクルと両手を軽く振りまわして確信する。


「うん、まったく違和感ないね……。今までの話がなかったら、この体がクローンだったなんて……絶対気づかないね」


「……ま、みんなの顔も……なんも変わらんしな。飽きもせず、同じメンツで勢ぞろいしちゃってるねぇ」


 なんて会話をしたりしたが、結局、みんなの視線は別のところに移っていた。前に服が置かれていたそのドア。


 前から服が置かれていたはずがない。あったから気づく。なら、これはだれかの意図によって置かれたもの……。

 となれば……その相手は……ひとりしかない。


「……ライトが置いてくれたのか……」

 ふと、響輝がその相手の名を口にした。


「……このドア、……開けて見ても……いいかな……?」

 奈美がまたドアノブに手をかけようとする。むろん、それは絶対にやるべきではない。


 文音が真っ先に止めてくる。

「絶対にやめろ。今度こそ本当に……いや、また死んで、二度はまずないと思ったほうがいい」


「で、でもさ……脱出経路って……この地下以外……考えられないし……」


「だとすれば……十分時間が立って、毒ガスが引いてからのほうがいいだろうな。わたしたちが一度死んでから、どれくらいの時間が立ったのかまるでわかっていないんだ。もっと時間を空けるべきだ」


 そりゃそうだ。……せっかく一命をとりとめた……と言う表現で合っているのかはわからないが、こうして無事なんだ。

 そこでまた毒ガスを吸うかもしれない行為など……バカのやること。


 毒ガスの強力さは身に染みてわかっているんだ。無理に行動する理由はなにひとつとしてない。


「……それより一回、上に上がって休憩でもしない? まだ食料も残っていたはず。しばらく、のんびりできるんじゃ……ないかな?」


 一樹の提案に対して疑問を投げかけてきたのは綺星だった。

「……そ、そんな、のんびり……できるの?」


 響輝も綺星の話に対してうなずく。

「……まだ終わったわけじゃない。また襲ってくるかもしれないだろ?」


「いや……たぶん、しばらくは大丈夫だと思う」

 そう言ってみんなに顔を向けた。


「本来は校長室に閉じ込めた状態での毒殺がシナリオ。それに失敗したあと、直接戦闘に。でも失敗、おまけに本来、僕らは不可侵とされていた地下の奥にまで侵入を許してしまった。


 あの状況で投げられた毒ガスは僕たちの暴走を止める最終手段だったはず。

 あんなところに毒ガスをまくなんて、下手すりゃ地下全体にガスが広がりかねない。地下なんだから窓もなく、たまりやすいし」


「わたしも同様の考えだ」

 一樹に賛同するように文音が横に立つ。


「下手をすれば、やつらはこの施設を放棄する可能性すらあるかもしれない。少なくとも、やつらに取って最後の毒ガスで始末完了だと思ったはず。

 だが、こうして記憶が別個体に引き継がれている。

 ひとまず態勢を立て直して、……というのも考えられると思う」


 一見していい状況と言えるわけではない。ただ、今までから事は大きく変化し始めていることだけは絶対に間違いない。


 全員でひとまず、地下から出て一階へ上っていく。そして、一階の窓から外の光を体で受け取った時だった。


「……うん? なんか音がしねえか? 上だ……」

 ふと響輝が指を天井に向けて指さす。


 今までこういった時は地響きの音だったが……今回は違う……。……あまり聞きなれない音……。

 いや……これは……。


「……ヘリ……、……ヘリコプター?」

 とっさに思いついたと同時、一樹は真っ先に飛び出した。三階……いや、屋上に向かってひたすら階段を駆け上がっていく。

 みんなも遅れて一樹を付いてくる形で階段を上ってくる。


 階段を上り続けると、音も大きくなっていく。バラバラバラと、音は遠いが激しい、荒っぽい音だ。

 人生で聞いたことはない。でも、おそらく……間違いない。


 一気に三階まで上り、さらに先へ。屋上につながるであるドアは……。

「やった! 開いてる!」

 かすかに外の光が漏れていた。隙間があいている。


 やつらが締め忘れたのか? いや、そんな余裕もなかったわけか。どちらにしても好都合であることにこしたことはない。


 勢いよくドアを開けて屋上へと躍り出る。そのまま、とにかく首を辺りに振り回した。状況を確認……ヘリは?


「……あ……、くそ……」

 空を見上げて自分の膝を強くたたいた。


「……遅かったか……」

 少し遅れて一樹の横にやってきた文音がつぶやく。


 すでにヘリコプターは上空の先。

 おそらく、一樹たちが毒ガスでやられる前、地下に入ってこようとした人たちが屋上から脱出したのだろう。

 ……そしておそらく……地下の人たちも……。


 あわよくばヘリコプターを奪取して、なんて考えたが……さすがに甘すぎたか。


 落胆しつつ、建物の中に戻ろうとしたときだった。


 フラフラと屋上の柵に近づいていく奈美。そのまま柵に手をあて外をのぞきこむ。

「……なにこれ……。え? ……待って? ……え?」


 ずっと空を見上げていたため、一樹は気づかなかった。でも……視線を下ろせば……そこにはあった。


 この学校を取り囲むようにそびえたつ、壁が。


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