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第4話 死……からの

「毒ガス!!」

 一呼吸おいてから叫んだ一樹。


 足元に転がってきた缶からガスが噴射するなんて、真っ先に思いつくのがそれ。もし、ただの目くらまし用の煙ならありがたいが……。

 本物だったら手遅れか……。


「さがれ! さがれ!」

「騒ぐな! 黙って!」

 響輝と文音が続いて叫ぶ。それにより、全員口を手でふさぎつつ、来た廊下を戻っていった。


 すでにこの廊下にはどんどん白い煙が広がっていく。もうかなり吸っているが……。

 とにかく、みんなで元来た地下室に出ると素早く扉を閉めた。


「……ゲホッ……ゲホッ……、大丈夫? ……みんな?」

 奈美が何度もせき払いをしつつ顔を見合わせる。全員、ひとまず問題ないらしい。みんなせき込んではいるが大きく苦しんでいるものはまだいない。


 ドアからガスが漏れだしている感じもない。ロックは壊れても密閉力は健在らしい。と言っても……近くにいるのはまずいだろう。見えないレベルでもガスがもれている可能性は十分ある。


「とにかく……一旦、ここから離れよう」


「待って……ライトが……いない……」

 みんなで一階に上ろうと動き出した時、奈美がそんなことを言い出した。実際、あたりを見渡すと、ひとり、ライトの姿だけがない……。


「まずい……助けないと」

「お、おい! やめろ!」

 ドアノブに手をかけようとした奈美を慌てて止める響輝。


 危なかった……。これは間違いなく響輝の判断が正しい。


「さすがにここを開けるのは違うだろ……? ましてや……相手は和田ライト……。優先すべきことは……そこじゃない……」


 響輝の必死に言葉にも奈美は納得できないというように視線をそらす。その先はドアの向こう。


 動こうとしなかったが、だんだん奈美のせき込みが激しくなっていく。それにより奈美も観念したのか地下からやっと出てくれるようになった。


 おぼつかない足取りではあるものの、なんとか一階にはたどり着いた。とくにかく、今目指すべき場所は……。

「はやく……上に行こう……できるか……うっ……ガハッ……」


 急に大きいせきが出てきて、喉を震わせた。同時に胸元から熱いものがこみあげてきては……廊下に血が吐き出される。

「……と……吐血……」


 そのまま、視界が一瞬暗転。二階に差し掛かる階段に力なく崩れてしまった。


 残っている力で前を見る。そこには同じく吐血して倒れている文音と響輝。後ろのみんなもバタバタと倒れ始めた。


 視界がどんどんぼやけていき、ただみんなのせき込む音だけが聞こえてくる。もう、悟るしかなかった。

 ……終わりだ……。


 やっぱり、さっきのは毒ガスだ。……しかも即効性……。……一樹たち動物兵器の暴走を阻止することを前提に使用された化学兵器……。


「……み……みん……ゲホッ」


 奈美の声がかすれて聞こえてくるがもう返事する余裕もない。どんどん、意識が薄れていく……。結局……また……繰り返しに……。


『ピンポンパンポーン』


 ……?


『みなさん! ……記憶は……ゲホッ……引き継げます! 脅して……設定させました……! 生きて……ハァっ!? ……くだ……』


 ……放送……? ……校内放送……? この声は……ライト?


「……マジ……か……」

「……みんな……次に……来世で……」


 もう、だれの声かもわからなかった。もう、薄れていく意識をとどめる力もなく、ただただ暗闇の中に沈んでいく……。







 …………。

 心地いい……。最初に浮かび上がった感情がそれだった。


 暖かいものに全身が包まれ、気分が穏やかに……。いや……気分というものが……だんだん形づけられていく。

 それに合わせて、少しずつ感覚が生成されていく。


 コポコポと空気がもれる音がする……。これは……水の中……。自分は……、自分は……、自分は……。


 東一樹!


 一気に頭の中に記憶が流れ込みはじめ、その衝撃で脳が一気にフル回転し始めた。その情報量によってあふれ出すように目が開かれる。

 やはり、水の中……。


 違う!

 すべてを思い出し、こぶしをガラスにたたきつける。だけど、残念ながらガラスは割れない。出ないと……ここから……、出ないと……。


 だが、焦る必要はなかった。気が付けばどんどん周りにあった水がなくなっていく。下のほうへと吸い込まれていっている。


「はぁっ……!!」

 初めて大きく息を吸い込むと同時、一樹の体は地面へと転がり落ちた。ガラスもなくなって、体が完全に排出されている。


 残っているのはへそから機械につながっている一本の線? ……のみ。


「はぁっ!!」

「あぅ!」

 ほかのみんなも次々に転がるように出てくる。全員、最初は床にはいつくばってみんな荒い呼吸をしている。


「……みんな……生きてる……? ってか……覚えてる?」

 初めて声を上げたのは奈美だ。

 みんな、バラバラでありつつも首を立てに振る。


「……あぁ……なんとかな……」

 続いて響輝が頭をかかえつつ体を起こし始める。

「……なんだ、この糸? へその緒?」


「……邪魔やね……。えいっ!」


 ……なんか、後ろでなにが切れる音がした。


「あぁ、大丈夫。痛くないわ。みんな切っちゃえ」


 ……喜巳花は喜巳花か……。


「わたしたちも大丈夫だ」

「……うん、あたしも……」


 やがて全員が立ち上がり、みんなでこの部屋の中央によっていく。


「うちら……死んだよな?」

「……たぶんな……。ある意味、自分がクローンであることを痛感させられた感じだな」

 まだ感覚が完全に戻っておらず、おぼつかない足取りで集まる。


「……いろいろ話し合いたいことあるけど……まず言わせて……」

 奈美が一歩下がりつつそっと手を上げる。


「着るものないかなっ!?」


 全員、もれなく全裸だった。


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