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第3話 潜入

 ひとまず本当の人間だと言われたやつらとの初戦は一樹たちの快勝で終了するにいたる。


 その戦闘力の差と言ったら、まず正面から戦って負けるはずがないというレベルに一樹たちの力は高かった。


 随分と静かになった学校の三階に居座る一樹たち。また隙を見てやつらが襲ってくるかと思っていたがそのような気配もない。


「……おじけづいたのか? 和田の話を聞いて結構覚悟決めていたんだがな……。これじゃぁ、化け物との戦闘のほうがよっぽどだ」


 ……本当にそうだ。

 化け物なんて、ちょっとやそっとの攻撃じゃ起き上がってくる。的確に急所を打ち抜いてやっと倒せていたのに……。この人間たちは……なんなく倒せてしまう。


 ……別に物足りないとか、つまらないとか……、そんな狂気じみたことを考えているわけではない。

 ……でも……なんというか……拍子抜け、といった感じはいなめない。


「……ならいっそ……こっちから動いてみますか?」

 ふと、ライトが提案をしてきた。

「みなさんが見た地下にはまだ奥にドアがあるのですが、皆さんはご存じでしょうか?」


 一樹はそんなものに覚えはない。奈美もそのようだ。

 しかし、ほかの四人は覚えがあるのか、顔を見合わせてうなずいていた。


「たしかにあった。……クローンのほうに意識が集中して最初は見つけられなかったがな……。しかし、あのドアは開けられなかった」


「とうぜんです。柳生文音含めたみんなの技術で開けられるようには設計されていませんからね。

 ちなみに、みなさん。……倒した化け物の死体、どうなっているか、考えたこともないでしょう?」


「「……え?」」

 全員、間抜けな声を漏らした。


 最初はピンとすらこなかった。

 でも、冷静になって考えればそうだ……。倒した化け物……気が付かないうちに無くなっていたし、それを疑問視したこともなかった……。


「……まさか……回収されていたの?」


「ええ、その通りです。そしてその搬入口のドアも地下のドア。あそこは、いわばここのスタッフが出入りするドアなんです」


「……! ……ということは……出口に!?」

 その推測は正しいというようにライトが首を縦に振る。


「武装した集団が入ってきたのもおそらくあそこ。……であるなら、逆に言えば、いまこの瞬間は、ドアの向こうへ侵入できるチャンスとも言えます。

 出口を見つけるのは簡単ではないかもしれませんが……」


 最後、そう少し含みを持たしつつ話してくれるライト。……さしずめ、ライトもドアの向こう側をすべて把握しきれているわけではないのだろう。

 完全に未知の領域だ。


「だったら乗り込むしかねえだろ? 今の俺たちには選択肢なんてねぇ。……だろ?」


 響輝のセリフに一樹の悩んでいた部分はあっさりと消し飛んだ。……こっちの立場から考えれば悩むだけ無駄だ。……それに、人間と真っ向から戦っても勝てるということはわかっているのだから、分が悪いわけでもない。


「そうだよね……。生き抜くために……先を進んでみよう。光はきっと……その先にある……」

 奈美もライトの提案に賛成の意を見せる。ほかのみんなも異論はないらしい。



 全員の意見が一致したため、注意を向けつつ地下の部屋まで移動をおこなう。ふたつあるが、ひとまず目指すのは特別教室棟の地下だ。

 おそらく、どちらも地下ではつながっているのだろう。


 途中、相手と鉢合わせになることを恐れてはいたものの、そんなことはひとつとしてなく、地下までたどり着いた。


 細心の注意を払いつつ地下へ侵入。さらに奥にある扉に向けて歩んでいく。果たして……実際に開いているかどうか……。


「さ、下がれ! 下がれ下がれ! 地下にいる! 引け!」

 突如、後ろから声が聞こえてきて、慌てて振り返る。見たのは、地下に足を踏み入れようとしていた武装集団が、引き返すところだった。


 退却しようとしたが、一樹たちに地下を占領されていたため、ルートを変更したというところか……。


「……奈美! さっさと開けろ! 締め出されるぞ!」

 唖然としているなか、文音が叫ぶ。それと同時に奈美が一気にドアノブを手前に引いた。勢いあまってドアが壁にぶつかるほど大きく開かれる。

 無事、開いていた。


 開いた瞬間、文音が奈美を押しのけるようにドアの向こうへと入っていく。そして同時に、周りを見渡し、なにかに攻撃をかました。


 遅れて顔をのぞかせて確認する。壁に張り付いている機械が文音の爪によって破壊されている。……おそらく、パスワード式のロックシステムか……。

 こうやって破壊されれば、もう締められることはない。


 とにかく……。これで、やつらに取って不可侵と設定されていたエリアに一樹たちは踏み入れることができた。間違いなく、これは大きな前進だ。


「……なんか、警報がやったらとなってんな」

 喜巳花が耳をふさぎつつつぶやく。


 さっきから、辺りに赤いランプが点滅していたり、警報が響いていたり……、奥で人の叫び声が聞こえたり……。控えめに言って大騒ぎ。


「そりゃ、化け物に部屋侵入されたら慌てふためくだろうよ」

 響輝が自虐的に笑いながら先に伸びる廊下を歩き始めた。


 しばらく進んでいくと、割とすぐに分かれ道に到達した。二本に枝分かれしている。


「……方向から考えて……向こうは反対側の地下につながっているのかな……。先に進むなら……こっちかな?」

 アゴに手を当てつつ考え、右方向を指さす。


「とりあえず、進んでみようぜ」

 これまた響輝が真っ先に先頭を進みだす。


 だが、その直後、異変が起き始めた。


「……うん?」

 向こうからなにかをこちらに向かって数個、投げ入れられた。缶のようなそれは、音を立てて廊下を転がってくると、一樹たちの足元で次々と止まる。


「……なにこれ……?」


 そう疑問に思ったがつかの間。急に缶からガスが噴射し始める。それをまともに一呼吸吸い込んだ後、悟った。


「……毒ガス!!」


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