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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第4章 
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第7話 不穏な流れ

 一樹たちの戦闘によって、化け物の数が目に見えて減ってくるようなっていた。残すは一階いる残党と、ほかチラホラぐらい。


 ひとまず、化け物にやられて終わるというシナリオからは遠ざかっているように思えてきた。


「少しトイレに行かしてもらう」

 そんな中でふと立ち上がった文音がドアに向かって歩む。


「あ、俺も行く」

 それに合わせるように響輝も立ち上がった。

「お前らはどう? 行かないか?」


 響輝がほかのメンバーに声をかけてくる。だが、一樹としては特にもようしているわけではないので断る。


「あたしはいいかな。……正直、緊張しすぎて出そうにない」

 奈美が軽く笑いつつ首を横に振る。ほかのみんなも同じような意見だった。結果、文音と響輝だけが教室を出ていくことに。


 この教室は三の二教室。トイレは出て右を進んでいった突き当りにある。あのふたりだし、そう心配するようなこともないだろう。


 ちなみに同じ階にある四の二教室は化け物に侵入された場所。ドアが崩壊されているためこもれる場所ではもうない。


 また、ここは化け物の出現場所とされる三の一教室のとなりだが、この状況ではもう気にするようなことではなかった。


「……そう言えば、ここはまだ食料に手をつけてなかったよね? いくらか分配して持っていこうか」


 まだ開かれてもいなかったダンボールに手をかける奈美。一樹もこの状況では、ぼーっと待機するのはつらかったので、ダンボールに近寄っていった。


 中に入っているのは飽きもせずザ・非常食たち。こっちはとっくの昔に見飽きたし味も飽きている。自ら進んで食べようとはもう思えなくなっている。


 そう言ったこともあり、適当に水が入ったペットボトルだけを手に取った。


 そんな一樹の横から手を伸ばして同じくペットボトルを取ったのは喜巳花。持ち上げながら、となりで座っている奈美の肩をポンとたたく。


「やっぱうちもトイレ行ってくる」

「うん。わかった」

 本当に軽い感じで喜巳花が言い、奈美が流れるように答える。


 で、喜巳花がドアに手をかけこの教室から出ようとした瞬間。

「……ちょ、待った待った待った!? 軽いよ! 思わず適当にうなずいちゃったよ。この状況でひとりにさせるわけにはいかないよね!?」


 慌てて立ち上がり喜巳花に向かってかけていく。


「別にいいよ。うちひとりでも平気やって」

「そういうわけにはいかないから」


 喜巳花の話など完全に押さえつけてとなりに行く奈美。そのまま、ふとこちらに視線を向けてきて、指をさした。


「一樹くんと綺星ちゃんはここで待っていること。いいね? 動いちゃダメだから。絶対に動いちゃダメだからね?」

「つまり、動けってことやからな?」

「フリでもないから!」


 そんなことをヤイヤイというふたり。最後「絶対だからね」を連呼しながら奈美は喜巳花とともに教室を出ていった。


 残るは綺星と一樹のふたり。……なんというか……このメンバーは……たよりないな……。たぶん、奈美はそこまで考える余裕もなかったんだろう。


「急に静かになったね」

「……それな」

 で、以降の会話なし。沈黙。


 綺星はペットボトルを持って適当な椅子に座り込む。そのまま足を宙でブラブラさせながら水を飲み始めていた。


 静かな空気、そんな中なので、一樹の視線は自然と綺星の体へと向けられていた。今は変身を解除した姿ではあるが、やはり所どころ青い皮膚が残っている。

 自分の皮膚を比べてみれば、その違いに少しぎょっとさえしてしまう。


「……それ……青くなってる部分、痛くないの?」

 聞くと綺星は少し自分の首に手を当ててうなずく。

「……うん。いまは……」


「ちなみに力を使っているときは?」

「……痛みは……あんまりないかな」


 そうか……。

 文音が言うには体の変化が大きくなると痛みが伴うのだろうと予測していた。逆に言えば、痛みがないうちはまだ大丈夫なのだろうか……。


「……うん? 痛み“は”? ……もしかして、ほかになにか気になることがある?」

 少し言い方が気になったので尋ねると、綺星はあからさまに見開いた。


 しばらく黙り込んだ後、またうなずく。

「力を使っている時……ちょっと自分じゃないみたいになるようになってきている……。なんかこう……気分が高くなる感じ? わかんないけど」


 ……感情が高ぶるってことか? ……それはありえそうな副作用だな。戦闘意欲を向上させるものか……。このまま続けばどうなるのか……。


 なんて考えている時だった。

「ねえ! 文音ちゃんたち、戻ってきてない!?」


 急に声を張り上げてドアを開けたのは奈美。ズカズカと入ってきては教室の中を見渡し、落胆する。


「……文音ちゃん、トイレに居なかったの?」

「響輝くんもいなかった」

 ……マジか……男子トイレも入ったのか……いや、そこじゃないな。


「ほんま、どこいったんやろね? 愛の逃避行やろか?」

 のんきにそんなことを言いながら入ってくる喜巳花。残念ながら、やはり文音たちはいない様子。


「とにかく、手分けして探す……いや、ここで待つ? ……いやいや……」

 奈美が若干パニックになりながら手だけあわあわと動かしている。ダメだな、これは一旦全員で落ち着かないと。


「奈美ちゃん、とりあえず水でも……ん?」

 奈美にペットボトルを渡そうとしたその時だった。ふと、床下から地響きのようなものを感じた。


 それはこの場にいる全員感じ取ったらしい。みんなで顔を合わせる。


「……なにこれ……まだ続いている……」

 床に手を振れつつ振動を確かめる奈美。


 喜巳花が様子を確認しようとしたのか、教室を飛び出す。遅れて一樹たちも教室から出た。


 床からってことは……下の一階か、……地下か。どちらにしてもまずは階段で下に降りてみるところから……。

 そんなことを思いながら廊下を出て階段のところまで行ったが、そこですぐにその正体に気づいた。


「みんな! 逃げて! 速く!」

 そんな叫びを上げつつ階段を駆け上がってきたのは文音。特別棟のほうへ逃げるよう腕を振りながら上がってくる。

 そして、地響きの正体はその文音の後ろにあった。


 一言にいえば化け物たち。一階に残っていた化け物が文音を追いかけて、一斉に階段を駆け上がってきていたのだ。


「……え? なんで!? どういうこと!?」

 奈美がそんなことを叫ぶが、当然文音にその答えを出す余裕はなさそう。というか、もうすぐ後ろに化け物が迫ってきている。


「いいから、早く! はやっ」


 刹那だった。

 一樹も文音の指示に従い、逃げようと化け物たちから背を向けた時のこと。視界の端で急に崩れこむ文音の姿が入る。


 足を階段で踏み外したのか? 遅れて反応し首を文音のほうへ向けようとする。だが、一樹の体が動くより先……。


 文音の腹に深々と化け物の爪が食い込んでいた。


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