第5話 目に見え始めた代償
窓越しにライトと話し合っているなか、ライトが指さした先。三階からどんどん化け物が降りてきている真っ最中だった。
化け物たちから近い位置にいた一樹は喜巳花とともに少し後ろに下がり、臨戦態勢へと入る。
そこに並ぶように奈美と文音が入ってきた。
「おい、和田! 和田ライト!」
響輝が職員室の窓をたたきまくる。だけど、ライトはすでに窓から離れていた。響輝の叫びなど無視して奥の椅子にゆったりを座りこむ。
もう、話など聞く気はないらしい。
「くそっ! すかしやがって」
もうどれだけ言ってむ無駄だと思ったのだろう。響輝は最後、壁に乱暴な蹴りを入れた。
「とりあえず近くにいるやつらを全滅してやる」
そんな気合の入ったセリフとともにまたひとりで突っ走っていく響輝。一樹たちの横を一瞬ですり抜け、降りてきた化け物と戦い始める。
「響輝に続くよ。ひとまず、化け物を倒しきることができるのはわかったからね。さっさと全部倒すよ」
そう言うと爪を立てて化け物に向かって振りだしていく文音。それを合図とするように、みんな再び化け物の群れに向かって前進し始めた。
後衛にる一樹は最後、去り際に職員室をちらりと見る。やはり、ライトは職員室のずっと奥でただ座っているだけ。しかも、化け物の向かっていく一樹たちを観察するように見てきている。
「一樹くん! ぼーっとしないでよ!」
「あ、ごめん!」
一樹のすぐ近くまで迫ってきていた化け物の喉を鋭い蹴りで仕留める奈美。ちょうど、目の前で化け物が崩れ落ちる。
「……ごめん」
二回目の謝罪はかなり低いトーンになっていた。
今の一樹たちなら、やられずに化け物を倒しきれるだろうという思いはある。ライトが言ったようにおそらくそれは遂行可能。だけど、少しの油断がそれを不可能にさせるぐらいには危険であることは改めて理解できてしまった。
化け物との戦闘再開からしばらく。そのまま通常教室棟の三階に上がっていき、ひとまず近くの教室の入る。そのまま、一息をつけることにした。
一樹と奈美が持っていた水を取り出し、みんなに与える。
いくら余裕があると言っても、こんな状態。緊張が以上なレベルで続いていることは言うまでもない。全員、受け取るとすぐに水分補給を行った。
少し休憩すると、ふと喜巳花が立ち上がり窓の外を見る。
「どれぐらい減ったかな? たいぶ倒したと思うねんけど……」
横で腕を組みつつ文音が外を見る。
「安心していいだろう。確実に減っているよ。まだどの階も化け物がうろついているが、密度は低くなっていると見ていい」
文音の話になにか言葉を返そうとしたのか喜巳花が顔を文音に向ける。だが、口を開きかけてすぐピタリと止めて指を差した。
「……あれ? なぁ、文音? その首? どしたん?」
「……え? 首?」
急に切り替わった話に文音が自身の首を触る。変わった空気にみんなの視線も文音のほうに向けられていた。
その文音、今は変身した姿からもとに戻っている。いわゆる化け物じみた姿ではない。だけど、喜巳花が指さした首の部分はまだ変色したまま、つまり青色の皮膚のままだった。
文音も窓の反射を利用して気づいたらしい。まるでアザのようになっているその部分を触っている。
そうなれば、必然的にもう一人も動く。同じ力を手にしている綺星も窓の近くにより首あたりを確かめだす。しかし、綺星は首ではなく、右耳当たりにかけて変色している状態だった。
「戻りきれてない……」
ふと綺星がそんなことを口にした。その言葉に対して敏感に反応したのは奈美だった。
まっさきに飛び出し、綺星のもとへと駆け寄る。
「どういうこと? もしかして力の影響なの?」
奈美がぐっと綺星に迫っていく。それに対し綺星と文音は互いに顔を見合わせていた。なにか悩んでいる様子だったが、そのまま彼女たちが考えていることを教えてくれた。
内容として、大きく分けてふたつ。変身システムを使い続けることで化け物の近づいてきているらしいということ。そして、あの化け物の子、サラは綺星か文音の慣れの果てではないか、という推測。
奈美は聞いた後、ただ口をパクパクさせるだけで、なにも返さなかった。というより、かける言葉が思い至らなかったのだろう。
そんな中で一樹はできる限り冷静に分析していた。
ひとまず、文音たちが言うことに矛盾はない、話のつじつまとしては合う。
この決戦で長時間の変身状態維持ができているのを見ても言える。化け物の力になれた、もとい、化け物の体に変化しかけていると考えられる。
「もしかして、終わりって言うのは? あの姿になるってこと?」
「いや、それだけではないとは思うがな。少なくとも、君らの見た目は化け物になっていないし、これからもならないと思う。
終わりは……また別のなにかだろう」
……そう言われたらそうか……。一樹たちは別のシステム……、同じ道をたどるわけではない……。
「……それにまだ安心していてもいいとは思っている。まだ注射器が一本残っている状態だ。体の変化が顕著になり痛みが走り出した時が、最後の一本を打つタイミングなのだと思っている。
つまり、それまでは……大丈夫だろう」
「大丈夫? ……どういう意味での大丈夫なの? それって」
奈美が文音の詰め寄っていくが、その口をそっと手で閉じる文音。
「今は化け物退治が最優先。それこそ、わたしたちが化け物になりきる前にしなければならないことだ。
そうだろう?」
奈美はまだなにか言いたげだった。でも結局言い返すことはなく黙り続けた。




