第2話 進軍開始
みんなで意を決し一気に廊下へと躍り出る。まずは全員で背中を預けないながら会議室の近くにいる化け物のせん滅にかかる。
最初相手にしたのはほんの数体ではあった。だが、一樹たちの戦闘に気づいたらしい近くの化け物がこちらに向かってくる。
結果、いきなり混戦という形になりかけていた。
「みんな、大丈夫だから。落ち着いて行けば、今まで通りやればなんの心配もないから」
声をかけつつみんなに安心を与えてくれる奈美。先陣を切って勇ましく化け物を倒していく響輝と文音。
それ以外がサポートをしつつ、まずは近くの化け物を次々と倒していった。
やはり、化け物の数はまたさらに上がってきている。昨日よりさらに多いだろう。だけど、昨日と違い、万全の状態で挑んでいるので、ずっと安心感があった。
本当に奈美の言う通り、このままいけば問題なく進むことができそう。実際、ひとまず会議室の近くにいた化け物は一掃できていた。
「ここでひとまず、ここは安心だね」
襲ってきた残りの化け物が文音の一撃で倒されたことを確認した奈美。会議室の中にいるサラにチラリと目を向けていた。
「よし、みんな大丈夫だな? なら、このまま進むぞ」
化け物の近い姿となっている文音が強い口調で言う。そう言えば、体力は大丈夫なのだろうか……。
綺星も今のところ、疲労した様子は見えないが。
そんな疑問を抱きつつ、も前に進んでいく。そして階段に差し掛かるころ、ふと先頭を歩く響輝がみんなのほうに振り返った。
「ちなみに、これからはどうするよ? 二手に分かれていくか? 狭い廊下だと、この人数は逆に効率が悪いと思うんだが」
たしかに、響輝の言うことも一理ある。こうやって細長い廊下を端から攻めていくならば、後衛は言うほど仕事もない。
下手に銃で援護すれば、前で戦ってくれている響輝達に当たりかねないのもある。
文音の響輝のとなりでうなずいて答える。
「響輝の言いたいことはわかる。基本的にその通りだろう……」
そう、効率というのを考えれば当然、そうなるんだ。だけど、奈美ははっきりと首を横に振る。
「ここまま行こう。別にいまのあたしたちが求めるべきことは効率なんかじゃないよね? 時間がかかってもいい。
確実にみんなが助かる方法を選ぶべきだって思うけど」
その奈美の答えもまた一樹からすれば予想通りだった。響輝は少し納得いかないように表情をゆがめる。
だけど、文音はわかっていたかのように、笑みを浮かべて答えた。
「まぁ、奈美はそう言うだろうと思っていた。響輝、悪いけどここは奈美に賛成させてもらうよ」
奈美と文音の意見が合い、ほかのみんなもそれに賛成というように首を立てに振る。それを見ていた響輝は向かい側、通常教室棟の廊下を見つつ、うなずいた。
「……だったら、俺も従うよ。大丈夫、ひとりで飛び出すなんてことはするつもりのないからよ」
「それやったら、確実に死亡フラグやもんね」
喜巳花が状況に似合わずニヤニヤした顔で響輝を指さす。それに対して響輝はあからさまに「うっとうしい」といった風に手で払った。
そのまま階段を通りすぎ、そろそろ突き当たりの角に差し掛かるタイミングになってきた。
ここから先は一階の渡り廊下、鉄の壁で閉ざされた昇降口を通りすぎることとなる。
「なら、まず一階から制覇していくとしよう。全員に同時に進軍。絶対にはぐれないように。な、響輝?」
「……わざわざ念を押すなよな」
再び、文音と響輝を先頭に、全員戦闘準備に入る。全員でタイミングを合わせると一気に角を曲がっていく。
当然、そこには大量の化け物たち。一樹たちが角に出た瞬間、化け物どもの視線がこちらに集中する。
「オラオラオラオラオラァ!!」
そんな相手にひるみを全く見せない響輝が勢いに任せて先陣を切り突っ走り始めた。
「あ、あのバカ! 言ってるそばから」
遅れて文音が響輝の後をつくように走り出す。続いて奈美たちが後ろを進んでいった。
「先頭を走ってるだけだよ。別にひとりで行動しているわけじゃない! お前ら、遅れるんじゃねえぞ!」
響輝と文音が先陣を切って前にいる化け物を攻撃していく。どんどん走り抜けていくのはいいが、とどめを刺しきれていない化け物がどんどんこちらに流れてくるんだけど!?
「響輝くん……これでもかってくらいに、あたしの言ったことを正しく理解してくれているようでなによりだよ」
響輝と文音の二人からこぼれ落ちた化け物を処理しつつ悪態つく奈美。
うん、まぁ、……この状況は間違いなく奈美が望んでいたのとは真逆だろうな……。
「待って、うちもい、うげぇっ!?」
「はい、君はここに残って他を対処してね。知ってる? 廊下は走っちゃダメなんだよ?」
響輝の後を追おうとした喜巳花は奈美に襟元をつかまれていた。……なんというか、もう……しっちゃかめっちゃか。
「でも、ま……仕方がない……って言ってもいいんじゃないかな」
響輝たちの攻撃で弱った化け物にとどめを刺しつつ言う。
「たぶん、響輝くんも相当不安なんだろうね。その感情を……ああいう行動で気分、感情を高めて押し殺しているんだよ。あの性格じゃ、奈美ちゃんのように堅実に行こうとすると、余計なことを考えてしまうんじゃない?」
なんて話しているころ、壁や天井を駆け抜けつつ、まだピンピンしている化け物の首元を切り裂いていく綺星。
……なんか、あの動き……どっちが化け物なのかもわかんねえよ。
そんな感じでグダグダではあるが、一応この四人で連携を取りつつ、なんとか渡り廊下を占拠していた化け物を倒しきることはできた。
響輝たちが取り残した最後の化け物に喜巳花がトドメの一撃を蹴りで決める。それで化け物が廊下に崩れ落ちたころ、前のほうから声が聞こえてくる。
「おい、お前ら、早く来いよ」
手を振りつつそんなことを言う響輝。ちなみに、その後ろで文音が近くに潜んでいた化け物と対峙している状況。
「……あの響輝って子、しばいてもええかな?」
「……二発ならあたしが許可する」
ちょうど、奈美が喜巳花に響輝を二回殴ってもいい許可を下ろしたとき、文音も化け物を倒し終えた。




