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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第4章 
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第1話 決戦の夜明け

 一晩寝た次の朝。一樹が目を覚ました時には、すでに何人か起きていた。そして、その起きているだれもが視線を窓の外へと向けている。


 一樹も寝ぼけた目で窓を見ると、すぐにはっきりと目を覚ますことができた。そして、もはや大きく驚くようなこともなく声を漏らす。


「……来たわけだ」

「だね」


 落ち着いた声で返してくるのは奈美。窓から少し離れたところで立っている。やがて、まだ寝ていた綺星や喜巳花たちも目を覚ましだした。

 全員、起きてすぐ現状を理解したように立ち上がる。


「これが、最終ウェーブというわけだな」

 こぶしを握り締めた響輝が手首に付いたリストバンドを触る。プットオンの掛け声とともに、システムが形成したアーマーを装着。


 それを合図にみな、システムの力を身にまとった。アーマーにローブに、化け物の姿。後ろに下がって黙っている化け物の子、サラ。


 そして、目の前には数えきれないレベルの化け物がうろつく廊下。上を見上げて向かいの二階と三階も見る。

 そうすれば、この学校全体に化け物がいることがすぐに理解できる。


「……どうする? 化け物がドアを突き破ってくるまで待つ?」

 手をグーパーに動かしながら聞いてくる奈美。対して響輝は前に歩み出ると、この会議室のドアに手をかけた。


「いや、ちゃっちゃとこっちから仕掛けようぜ。どうせ、俺たちがやることはひとつだけなんだ。みんなも、準備はもういいだろ?

 それとも、まだこいつらをすべて倒す覚悟、できていないやついるか?」


 響輝の言葉で全員の視線に鋭いものが宿るのを感じられた。

 もう、逃げる必要はない。全力ですべてを倒す。そして終わらせる。みんながはっきりとその意思を持っている。


 その中で奈美はふと後ろを振り向いた。視線の先は会議室の奥、サラ。


「サラさんはどうする? 一応できる限り、ここのドアは締めるつもりだから、ここでこもるのもアリだし、あたしの後ろに付いてくるのもアリだよ。

 どっちもサラさんの身を保証できるものではないけど」


「この語に及んで、まだ他人……いや、人ですらないやつを心配するのかよ。三好、お前でどこまでお人よしなんだ?」


 響輝がすぐ後ろに化け物が潜んでいるドアにもたれかかり言う。すると、奈美は一樹の予想に反し、弱弱しく首を横に振った。


「いや、……たぶん、ここから先はあたしも自分のことだけで精一杯になると思う。サラさん、悪いけど君のことを見捨てる可能性もあると……考えてほしいかな……。

 それを踏まえて……どうする?」


 奈美ですらはっきりそう言うか……。無理もない、少なくともここから先は本気で一樹たちの命が危うくなるかもしれないのだ。終わりだと宣言されている以上、考えたくなくても、頭には最悪の結末がよぎってしまう。


 助かる方法はまず、生き残ること。その中で……戦えそうもないサラを守る術はない。


 しばらく静かな空気が流れたが、サラはゆっくりと指を床に向けて言った。

「ここで……残る……」


 サラの決めたことに内心うなずいていた。その選択肢は打倒だと思えたからだ。戦う奈美の後ろを下手について行くより、閉め切られたこの会議室で待っていた方が、まだ助かる可能性は高い。


「……そう……。わかった。サラさんも気を付けて」

 奈美もうなずきつつ視線を窓の方へと向けようとする。しかし、なにか思いついたらしく、パッとすぐに視線をもとにもどした。


「待って。ここにひとりだけ残るって選択肢もあるよね? だれか、サラさんをここで守っていれば」


「いくらなんでもお人よしがすぎるぞ、奈美」

 奈美の提案を厳しく一蹴したのは文音だった。


「これから大量の化け物を一掃しようと言うのに、戦力をひとり、ここに待機させるほどの余裕がわたしたちにあるとでも? むしろ、六人束になって挑んでも生き残れる可能性があるか、わからないのだぞ?


 それに、だれがここで守る? ここにこの化け物もどきを守るため待機しようとするやつがいると思うか? 君以外にいる? 

 残念だけど、最年長の戦力をここに置ける余裕は毛頭ない」


 すごく厳しい言いようだった。だけど、文音の言っていることはすべて正論だ。なにひとつとして間違っていない。


「あの……じゃ……あたしが……」

 そんな空気の中で恐る恐る手を挙げたのは綺星。

「ここで……このサラさんを……守っても」


「……言うとは思ったよ。でも、それも却下する。綺星は間違いなく戦力だ、ここに使えるものではない。化け物と戦うのを恐れて、ここでひきこもるというのであれば、かまわないけど」


「待って、それはひどくない? そんなの誘導尋問じゃない」

 綺星をかばうように文音に食って掛かる奈美。まるで少し前まであったふたりのギスギスした雰囲気がよみがえらんばかりの空気に。


 そんな中だった。

「かまわないで……」


 サラが今までで一番強くはっきりとした言い方で言葉を飛ばしてきた。ここまでサラの声をはっきり聴いたのは初めてかもしれない。

 みんなの視線がサラに集まるなか、サラは指を窓の外に向ける。


「行って。みんな。わたしのことはいいから」

 赤い髪を揺らし上げた顔で窓の外を見る。

「かまわないで行って!」


 サラの言葉が途切れた後、また沈黙が会議室に流れる。


 このサラというやつも……覚悟を決めたのか……。いや、空気を読んだのか……。どちらにしても……強いものが感じられたことに変わりはない。


 ずっとサラを見ていた奈美がうなずきつつ、優しい声を出した。


「……ありがとう、サラさん。……こんなところで、意見を食い違いさせている場合じゃなかったよね……うん。

 みんな……今度こそ……行こうか」


 響輝のとなり、ドアの前に並ぶ奈美が振り向き、みんなと顔を合わせてくる。

「じゃぁ、みんなで生き残るよ」


 その奈美の言葉に全員が大きく、そして強くうなずきあった。


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