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第9話 予兆

 新たな食糧場所、会議室。一樹たちがこの部屋に入った時には、すでにみんながそろっている状態にあった。


「よかった。みんな無事だったんだね」

「いや、当たり前やん! バッチリよ!」

 奈美が安堵したように言うと喜巳花が明るい声でガッツポーズをしてみせる。


 でもよかった。本当に……。……あれだけ急激な乱戦だったが、みなピンピンしている。一樹も疲労こそあれど、支障はとくになかった。


 腕を組みつつ奥から奈美に近づいて来る文音。

「一階、三階にいる化け物はみな倒した。二階は?」


 特に表情を変えることもなく奈美はうなずく。

「一通り、目に入ったのは倒してきてるよ。結構いたけど、かなり減らせたんじゃないかな」


 奈美の答えに対して満足したようにうなずく文音。すると、その視線は奈美から外れ、その後ろで隠れていたサラへと向けられた。


 視線に気づいたサラがビクリと体を反応させ奈美の背中に隠れる。視界から外れたのか文音は少し視線をうつむかせた。


「……サラさんになにか?」

 サラをかばいつつ文音に対して一歩前に出る奈美。


「いや……なにも」

 文音はそうつぶやくと近くにいた綺星と顔を合わせる。綺星もなにやら表情を少し曇らせたように見えた。


 ……このサラに対してなにわかったのか? いや、でも……サラと一緒に居たのか一樹たち。彼女らが知れることがあるのか……。

 いや、ほかのなにかから情報を?


「文音ちゃん、もしかしてなにか」

「そろそろ、晩御飯にしようじゃないか。みんな体力を減らしたことだろうしな」


 一樹がかけた声に対してかぶせるように文音が手を打って提案をしてきた。

 思わず一樹の口が閉じられたのが最後。みんなの気分はもう夕食へと移り変わっていった。


 無理もない、急な戦闘を長くおこなっていたんだ。あの化け物の数をみんな相手にしていたと考えれば、お腹がすいていないわけがない。


「うっしゃぁ、待ってました!」

 会議室の奥からぴょんと飛び跳ねるように移動しだした喜巳花。真っ先に食料が入っているダンボールへと近づく。


「うちもう、ペコペコ。ここはまだ手ぇつけてないし、いっぱいある……」

 そんなことを言いながらダンボールを開けていた喜巳花だったが、ふと手と口が止まる。しばらく、首をかしげてみんなに顔を向けてきた。


「だれや、つまみ食いしたやつ! 怒らへんから名乗り!」

 絶対名乗ったら怒られるパターンだからか知らんが、名乗り出るやつはいない。


 代わりに響輝が同じようにしゃがみ込み、ダンボールの中身を確認する。


「ほんとだな……。いくらか取られた形跡があるな……。まぁ、でもどうせ、あいつ……和田ライトなんじゃねえのか?

 あいつだってたぶん、食わなきゃ生きていけねえんだろ?」


 この中に犯人がいないのなら、そういうところだろう。少なくとも、この中にライトの動きを見張っていたやつはいない。ライトがどこでどう行動していたとしても、知る由はない。


 みんなもそれで納得したらしく、それぞれダンボールから食料を取り出していく。奈美はサラの分も含めて取り分け与えている。


 一樹も食料を取りつつ、少し静かな空気に言葉を刺す。

「話題次いで言うけど……さっき、僕らライトくんにあってきたんだよね……。それで言われたことがあるんだけど」


「待って! 一樹くん、わざわざ今、言わなくてもいいんじゃない?」

 サラに食料を渡し終えた奈美から急に声をかけられる。それで慌てて自分の口を手でふさいだ。


 わざわざ食事前に口出さなくてもよかった。終わって、みんな休憩が終わってからでも……。だけど、ライトの話題が出て、静かな空気に流れ思わず……。


「……いや、もう言っちまえ。むしろ、気になるだろうが」

 乾パンが入った缶のフタを開けながら言う響輝。実際、みんなも同じ意見らしく意識はもう、完全にこちらに向いていた。


 どうしたもんかと、奈美にヘルプを求める。奈美は一樹と目を合わせた後、ため息をつきつつもみんなのほうに寄ってきた。


「さっきの、化け物がたくさん出てきていたのはひとつのウェーブだってさ」

 奈美の説明に一樹以外の全員が「ウェーブ?」と聞きつつ首をかしげさせる。


 ただ、それについて説明できることは一樹にも……おそらく奈美にもない。奈美は無視して続ける。


「で、次に来るのが最終のウェーブだって。つまり……和田ライトくんが言うに……これで終わり、……だってさ」


 その説明を聞き終えた直後、みんなの表情は一定して疑問風だった。だけど、その後移り変わっていく表情はそれぞれで違っていた。


 ピンとこずに首を傾げ続けるもの、察して少し顔をうつむかせるもの、口をかみしめて向き合おうとするもの、悟ったように無言でうなずくもの。


 この空気は想定通りだった。奈美だってそのはず。だけど、その空気に耐え切れなかったのか無理やり明るい声を出す。

「……やったね。これで終わりだって」


「終わりがなにを意味するのか、わかって言っているよな?」

 文音がやたらと低い声のトーンで言う。


「いや……逆に考えてみようじゃねえか。……暗闇でまるで見えなかったゴールが見えてきたってことじゃねえか?」

 指を一本立ててそういう響輝。


「ようは……また襲ってくる大量の化け物を一層すればいいってことだろう? 最終ウェーブってのはそういうことのはずだ。それを退けることができれば、俺たちは……さきに行けるはず。だろ?」


「響輝の言う通り! 死ななきゃええんよ! 終わりって、死んで終わりならいややけど、生き残って終わりなら万々歳!」


 ……たしかに……言う通りだ。……まずは生き抜くこと……。終わりが見えていた……なら、いまは……あがいてみよう。


 表情が暗かった奈美も笑顔を作って見せた。

「じゃぁ、最後の戦いに向けて、しっかり栄養補給をしよう」


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