第8話 合流
職員室を出た奈美と一樹はサラを連れて理科室のほうへ戻ることにした。
近くにいた化け物を倒して周りの安全を確保しつつ、理科室の中へその身を潜めえる。
理科室の中も安全であることを確かめ、ようやく張りつめていた緊張を解くことが許された。
本当のことを言えば喉が渇いている。水を飲みたい。だけど、慌てて飛び出していたためペットボトルを持ち出す余裕もなく手元には飲み物もない。
だからといって、四の二教室……ましてや三の二教室に行く勇気もない。四の二教室は襲撃でドアが破壊されているし、三の二教室は化け物出現場所のすぐ横。
リスクが高すぎる。
ちなみに二階にある食糧場所はあと、多目的室だけだが、そこはすでに食料が尽きていた。
「……食料……着実に減っていているよね……」
一樹のつぶやきに対して奈美は特に反応を示さなかった。十分理解しているということか……。
「あ、……もしかして……蛇口……」
そこでふと、理科室の特徴を思い出す。長い机の中央にはシンクがついている。あの勢いが強い蛇口も当然、そこにはある。
だが、ひねっても願っているようなことは一切起きなかった。ただ無情に取っ手だけが回り続け、やがて取れてしまう。
水など一滴も出ない水道を前に、取れた三つの角がある何とも表現しずらい形の取っ手を見る。
「…………。喜巳花ちゃんに土産だと言ってあげてみよ」
「変なもの押し付けようとしないの」
「いや、だって……あの子ならワンチャン、喜ぶかもよ」
「……」
取っ手を見て妙に喜ぶ喜巳花の姿、奈美も容易に想像できたのかそのまま口を閉じた。
といっても一樹だって冗談半分。ちょっと気を紛らせようと思ってやったことに過ぎない。適当にウェストポーチに取っ手を突っ込むと机に思いっきりうつぶせた。
それからしばらく静かに時が過ぎる。奈美も同じように椅子に座り込んで休んでいる。サラは一樹たちからは離れたところでじっと座り続けていた。
いや……少し壁の時計をチラチラと見ているみたい。
時間がなにか気になるのか? ……見た目の相まって、やはりこのサラというやつの思考はまるで読めそうにない。
「ねぇ、一樹くん」
「……うん?」
奈美から声がかかり、ふと顔だけ上げて奈美のほうを見る。奈美はもう休憩は終わりと言わんばかりに背筋を伸ばしてた。
「一階に降りてみない? 食料もまだ一階の分はつけてないし、みんなも一階のどこかにいるのかも」
しばらく奈美のセリフを頭の中で整理したあとうなずく。
「それもそうだね」
食料もないここにずっと居座るのは絶対やめたほうがいい。となれば、行先として一階となるのは自然なこと。ほかのみんなも一階にいる可能性なら十分ある。
異論はない。
休憩で少しなまった体を背伸びで目覚めさせる。ヒョイッと椅子から降りると奈美の近くまで駆け寄った。
「じゃぁ、ごめんだけど、サラさんも……」
奈美が端っこにいるサラに声をかける。しかし、声をかけたその時には既に一樹のすぐ後ろにまでやってきていた。
振り向いたすぐそこにいたため、びっくりして少し後ろに下がる。そんな一樹の反応に対してサラはあからさまに目を背けた。
……気分でも害したのか? しかし、平然といる方が無理なもの。目の前に真っ赤な髪の毛をはやした青い顔があれば……。
「ドア開けるよ? 一樹くん準備はいい?」
一樹が顔を引き締めてうなずくと、奈美はドアの窓から辺りを見渡した。
「近くには化け物はいなさそう。行くよ」
奈美を先頭にして理科室から出ていく。そのまま、近くにある特別教室棟の階段を利用して一階へと降りていく。
「……化け物……ほぼほぼいなくなったね……」
一階に降り立ち、近くに転がる化け物を屍を見つつ言う奈美。ピストルを構えたまま、廊下左右の安全を確認しつつ前に進んでいく。
サラがあからさまに転がった化け物を避けるように動きつつ奈美の後ろをピタリとくっついていた。
一樹も床に転がった化け物に違和感を持ちつつも、周囲の確認を進めていく。
「うん。大丈夫そう。じゃぁ、このまま」
ガラッ
「「「ひぃっ!?」
唐突に近くのドアが開かれ、サラ含めてた三人同時に声を漏らしてしまう。奈美と一樹、同時に音がした方向へ銃を向ける。だが、そこにいたのは両手を挙げた響輝だった。
「おっと、俺俺! 撃つなよ?」
両手を挙げたままゆっくりと教室の中へと入っていく響輝。そこは会議室と書かれた部屋だった。
たしか、ここも食料があった場所のはずだ。
「……はぁ……びっくりした……。脅かさないでよ」
「いや、俺だってビビったわ。仮にも仲間に銃口は向けないでくれ」
奈美が先にピストルの口を床に向けて降ろす。続いて一樹も下ろすと、サラ含めた三人、教室の中へと入りこんだ。




