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第7話 助言

 ***


 トイレの前で防衛網を張る奈美と一樹。突き当りの角を背にして二人は並び、襲ってくる化け物と対峙する。


 最初はキリがないと嘆いていたが、それでも戦闘を続けていると終わりは見え始めていた。


 近くにいる化け物が一掃され、静かになったタイミング。後ろにあるトイレのドアがゆっくりと開けられ、中からサラが顔を出す。


 それに気づいたらしい奈美が振り返った。

「終わった? もうOK?」


 奈美の質問にサラは無言で小さくうなずく。さらに顔を伸ばして辺りを確認するしぐさを見せた。やがて周りは比較的安全であると確認できたのか、そっとトイレから出てくる。


 サラを見た奈美はニコリと笑みを返すと、まだ奥に化け物が残っている廊下に目を向けた。

「……さて、次はどうしたものかな。みんなはどこにいるんだろう?」


「それより休憩できない? ずっと気を張ってて疲れた」

 少し大げさに息を吐いて奈美に提案する。


 一度理科室で休憩は取ったものの、サラのトイレが近かったこともあり、結局すぐにトイレ前戦線を張ることに。結果、ほぼぶっ通しでの戦闘が続いていた。


「それもそうだよね……。まだ化け物も残ってるし……。うん、ひとまず近くの……そこの職員室にこもろっか」


 そういい、トイレのすぐ横にある職員室を指さす奈美。先にドアを開けて入っていくので、一樹も後について入っていく。最後、流されるようにサラも入ってきた後、奈美すぐにドアを閉め切った。


「よし……。食料がある場所ではないけど、ひとまず気を休めるなら十分でしょ……。じゃぁ……え?」


 奈美が急に言葉を詰まらせる。なにかと思えば、サラが急に奈美の後ろへ隠れるように移動してきていた。


 その反応を見て、職員室の中の警戒を怠っていたことに気づく。一度入ったことある教室でもあり、気を完全に緩めていた。


 途切れかけていた集中の糸をもう一度引っ張りなおし、職員室の中を見渡す。しかし、そこに化け物の姿は一切なかった。

 代わりに別のやつが居座っている。


「……ライトくん……」

 奈美がそっとそいつの名をつぶやく。


 そう言えば、文音がここでライトと会ったと話していたな。まさか、移動すらしていなかったとは……。


 休憩は出来そうにもないな、と思いながら警戒心をそのまま残す一樹。奈美はそっと後ろに隠れたサラに目を向けだす。


「大丈夫。敵じゃないから」

「いや、敵だよね……どう見積もっても」


 奈美にツッコミを入れつつピストルをライトに向ける。正直に言えば引き金を引く勇気などまるでなかった。

 しかし、状況が状況で相手が相手。半ば無意識のうちにこの行動を取っていた。


 対するライトが先生の椅子ひとつに座ったまま声をかけてくる。

「いや、三好奈美の言う通り、大丈夫ですよ。君たちの敵であるかもしれませんが、敵対する気は一切ないですから」


「……」

 ああは言っているが、信用できる要素はなにひとつとしてない。ピストルの構えを解くには心元がなさすぎる。


「奈美ちゃん、もう出ていこう。休憩は別の場所でいいから」

 ライトと一緒の空間にいる限り、まともな休息などできるはずもない。すぐにでも職員室を出るべく、後ろのドアに手をかける。


「うん。そうしようか……。でもその前に、ライトくん……。ひとつだけ質問があるんだけど、いいかな?」


「質問ならば、したいようにどうぞ。僕が答えるかは保証しかねますが」

 すかしたように右手を奈美に向けて促すライト。奈美はそれを聞いて、うなずきつつ後ろに隠れているサラに目を向けた。


「このサラさんって人……。ライトくんはなにか知っているよね? 教えてくれないかな?」

「教えられないですね」


 間髪入れず断りの返事をするライト。少しも悩む様子はなかった。ただ、これだけでもわかったことはある。


 ライトはサラのことについてもなにかを知っている。サラを見ても特に反応を見せなかった辺りから見て、繰り返しのなかで何度も見ているということだろう。


 奈美が黙りこくったので、代わりに一樹が質問をしてみる。

「ちなみに正体は知っているの?」

「ノーコメントにします」


 これまたすぐに返してきた。……この感じ……。

「これ、僕ら、何度も質問過去にしてたのか? で、君は毎回同じ答えを言っているだけ……なんだろうね」

「大正解です」


 今度は指を一本立ててはっきりした回答を返すライト。イラっとした気持ちを押さえつつ首を横に振った。こいつは……繰り返しのなかで決まった答えしか話さないロボットみたいなものなんだ。


 奈美は変わらずサラの前でかばうように立っている。

「ちなみにさ……、このあと、あたしたちがどうしたらいいのか、ってヒントはもらえたりするのかな?」


 ライトはしばらく首を傾かせる。

 そんな仕草をたっぷりした後、口を動かし始めた。


「……そうですね……。今、みなさんはひとつの大きなウェーブの真っただ中です」

「……ウェーブ?」


 一樹のオウム返しは無視して話を続けるライト。

「たぶん、もうすぐみなさんは切り抜けられます。そうすれば、あとは最後のウェーブを残すのみとなるでしょう。

 それが終われば、結果がどうであれ、みなさんはそこで終了ですね」


「だから、ウェーブってなに?」

 一樹はもう一度質問をするが、ライトは無表情でこちらを見てくるばかり。これ以上答える気はないと、はっきり示しているよう。


 にしても……もうすぐ終了……これが意味すること……。少なくとも自由ではないだろう……。というより……まず「死」ひとつか……。


「……あたしたちに残された時間はもうないって言いたいのかな?」

 奈美の質問に対してもライトは無表情を貫く。


 しかし、奈美はもう納得したらしくうなずくと急に体を回した。

「よくわかったよ、ありがとう。……じゃぁ、もうあたしは行こうか」

 そう言って奈美はドアを開ける。


 一樹たちを観察するようなライトの視線を背中で感じつつ、そのまま職員室をあとにした。


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