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第5話 もう一つの地下

 何体もの化け物が支配する廊下。その中を力の限りを尽くして片っ端から倒していく響輝と喜巳花。特別教室棟にある地下に向かって進み続ける。


 システムの力で取り出したマシンガン。それにパワーアシストにより数倍に跳ね上がったこぶしと足の技。ひたすらに駆使して化け物を倒す。


 しかし、それにひるむどころか恐れも知らず、襲い続けてくる化け物たち。


「おらぁっ! 寝てろ!」

 響輝が化け物の頭を強引につかみ取り、どうやっても割れない頑丈なガラスにたたきつける。すでに何発も弾丸を当てているが、その傷口は回復してきている。


 そんな化け物の後頭部に銃口を突き付け、至近距離からマシンガンを発砲。それでようやく、化け物は崩れこむ。


「っちくしょう……。ほんとうにきりがねえ! なんで、こんな急にどんどん湧き出てくるようになってんだよ!」


「せいやぁっ!」

 愚痴も漏らすその隙をついてきた化け物に横から蹴りをくらわす喜巳花。対して化け物はその攻撃を受け流すように跳躍していく。


「うちらのレベルが上がったから周りの敵も強うなる。これがゲームの基本なんとちゃうん?」


 再度仕掛けてくる化け物の攻撃を寸のところで避ける喜巳花。さらに続く攻撃をすべてよけきったあと、アッパー攻撃をそのアゴに食らわせる。

 最後、トドメとして頭に一発銃をたたきこんだ。


 息を吐いた喜巳花が響輝のとなりにやってきて立つ。何体の化け物を倒したかもうわからない。

 だが、その成果もあって無事目的の地下室へ続く階段までたどり着いた。


「っし……、んじゃ、ひとまず降りるか」

 直後、後ろで化け物の気配を感じ、ロールックでマシンガンを後ろへ乱射。喜巳花も同タイミングで攻撃を行う。

 結果、後ろにいた化け物はそのまま沈黙してくれた。


「そやね……。……にしても、この薄暗さはやっぱ、ちょっとやな感じ」

「ま、地下なんだし、窓もないんだから当然だろ」


 そんなことを話ながら薄暗い階段を降りていく。通常教室棟の地下と見た目はまったく変わらない。窓も付いてない鉄の扉が前にたたずんでいる。


 階段を完全に降りきり、目の前にある扉の数回ノックしてみた。

「うん。……同じ感じだな……。まともに壊せるドアではねえな」


「よっしゃ、ほら行こか……。すぅ……せぇの……」

「あ、そのネタはもういいよ。オチまでわかってるし」

「なんでやっ!」


 目の前にある鉄の扉に向けてこぶしを引く喜巳花を制止。そっとその腕に手を当て下ろしてやる。


「どうせ、殴ってビクともしなくてお前は痛がって終了だろ? どうしてもって言うなら、最後の痛がる演技だけでもしとけよ」


 そんな感じで適当に流しつつドアノブに手をかけた。ひねってみるとまるで抵抗なく回る。少し手前に引いてみると重さはあったものの、たしかに開いた。


「柳生の言った通り開いたな」

「痛っ! 痛っ! ……えぇ? あ痛い?」


「……本当に痛がる演技だけするやつがあるか」

 殴ってもないのに手を振りまくって痛がる素振りをする喜巳花。ほんとうになにがやりたいのか。


「ほら、開いたから。先入るぞ」

 そのまま扉を引き続け、体が入るぐらいに開けられるとそのまま、先に部屋の中へと体を入れ込んだ。


 真っ先に目に入ってきたのは闇。窓もなく電気も付いてないその部屋に明かりはない。

 近くの壁を手探り、スイッチを入れることで初めて照明がついた。


「……おぉ……、本当に同じやったね……」


 後ろからヒョイっと顔を出した喜巳花がそのまま前に乗り出し辺りを見渡す。


 この地下もまた、通常教室棟の地下にあった部屋と同じ感じだった。六本の筒があり、その中に例のアレが入っている。

 そして違う点もまた文音の言った通り。


「……これが……赤ちゃん? ……だれのやろ……」


 喜巳花は近くにあった筒に顔を近づかせのぞいている。その中にいるのはたしかにずっと小さい体のものだった。

 ただ、小さいがゆえに、こっちのクローンはだれがだれかわからない。


「……なんか、どいつもこいつも成長がまちまちだな」

 響輝も後ろの扉を閉め切り、地下の部屋を進んでいく。


 なかには、本当に赤ちゃんと言っても差し支えないのもある。だが、中には数センチ程度しかない大きさのものもある。これも人だと言われても、納得できないくらい。


 これを見れば、改めて自分たちが作られた存在なのだと、実感せざるを得ない。


 ましてや、この中のどれかひとつは、自分とまったく同じなんだと考えてしまえばいい気分にはなれない。


 なにより……自分の運命が決められているということを突き付けられている気分にさえなってしまう。


「寝てるんかな?」

 だが、喜巳花はそんなこと大して気にならないのか知らないが、つんつんと筒のガラスをつついている。本当よくやるやつ。


「にしても……この地下……、このクローン以外はなにもない……うん?」

 ふと、視界の端でなにかを発見した。同系色で同化しかけていたが、注意して見ればすぐにわかる。


「これ……扉だ……。まだ先があるみたいだぞ」

「……え? ……ウソやん」


 響輝がその扉に手を振れていると、後ろから喜巳花もやってきた。すぐ響輝のとなりに立ち、扉をじっと見る。


「ホンマや……。あっちの地下にもあったんかな? ってか、気づかへんだわ」


「そりゃまぁ、そうだろう……。だって、目の前にはそれよりもずっと衝撃的なものが六つのあるんだからな。そっちに意識が向くに決まってる」


 チラリと後ろにあるクローンに意識を向けた後、再度目の前にある扉を向き合う。試しにドアノブに手をかけるが、こっちはビクともしない。


「……やっぱ開かねえか……」

 想像通りだった……。しかし、実際にこの奥にあるものは……まるで想像もつかないな……。このクローンより、衝撃的なものがあるとでもいうのか?


「文音は気づいてんねやろか……。これは開けられへんのかな……」

 喜巳花がドアノブの鍵穴に目を細めて見たりしている。


「……いや、こここそ、高森の持ちネタチャンスだろうが」

「……おぉう! せやせや!」

「よおし、全力でかましてやれ」

「せぇ……の、……せいや!」


 その後、乾いた音が鳴り、痛がる喜巳花という決まったオチで終わるのは言うまでもなかった。


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