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第1話 今後はどうしよう?

 六人の児童が教室の中で朝食をとる。新垣綺星、東一樹、高森喜巳花、柳生文音、脇響輝、三好奈美。食料が入ったダンボールを囲むように円を作っていた。


 食べているものは変わらず、乾パンやら缶詰。目覚めてから……というより、おそらく生まれてからこれ以外の味を直接知ったことはない。

 そして、それは、いくら時が立とうと変わることはない。


 だが、今日はいつもと違うことがある。一樹たちの円から外れた教室の隅っこでうずくまっている存在がひとつ。


 青い皮膚に赤い髪の毛、衣服を身にまとった化け物の亜種みたいなやつ。一応、サラという名前を持っているらしいが。


 奈美がこの円に入るよう促したが、サラは首を横に振るだけ手そこから動こうとはしない。ただ、奈美によって渡された缶詰を食べている。


「……」


 みんながチラチラとそんな同じ空間にいる化け物に視線を向けている。一樹も含めたみんながみんな、気になっている。……というより、警戒か。


 少なくとも、奈美が誘ったとき、サラが拒否したのにかなりほっとしている自分がいた。どうやっても、あれを受け入れられる気分にはなれない。


 疑問に思うのは、奈美はあれを受け入れているのか、どうかだ。少なくとも表面的には受け入れているように見えるが……。ただ、奈美の性格、おせっかいがそうさせただけなのか、本当に受け入れたのか……。


「言っている間に……ここの食糧ももう終わりだな……」

 響輝がダンボールに顔を突っ込みつつそんなことを言う。


 この四の二教室に入ってから数日が立っていた。たしかにもう食料は尽きる時期か……。


 奈美が地図を広げつつ、口を開く。

「一番近くにあるパンマークは三の二教室、となりのとなりにある教室かな……。ただ、文音ちゃんが言うには、そのとなりの教室、三の一は化け物の出現場所ってことらしいけど……」


 そう言えば、そういう話だったな。夜中、化け物が三の一教室から飛び出したのを直接文音が見た……というより、襲われた……。


「……別の場所がいい」

 ボソリと綺星がそう口にする。不安そうに上目づかいで、奈美に訴えるように。奈美はそれに笑みで受け答えた。

 

「安心して、あたしも同じ気持ちだから。心がやすまりそうにないよ……」

「大した違いはないだろうがな」


 そんな空気を一ゼリフで一刀両断するのは文音。空になった缶詰をダンボールに投げ入れつつ立ち上がる。


「今後の食糧も大事な話だが、それより大切なこともあるだろう」


「今後どうしていくか、だよな?」

 響輝が文音にあわせて同じように立ち上がる。

「そろそろ本気で決めていかないと、本当にジリ貧になっちまう」


 その通りだ。もう、目をつむっていい話ではない。このまま、黙っていたら、これを仕組んだものの思惑通り、すべてが進み……終わる。


「……でも、具体的にどうしたらいいのかな? 年長のくせして悪いんだけど、……検討も付かないんだよね」


 奈美はそう言いつつ、後ろにいるサラに視線を送る。あの化け物に助けを求めようとしたのかもしれないが、サラはまるで反応なし。まるで、遠くから一樹たちを観察しているようにじっと見てくるだけ。


 ちなみに、これからどうすればいいか、検討も付かないというのは一樹も同じだ。もともと、他人に判断をゆだねるタイプ。とてもじゃないが、いい発想が浮かぶ気がしない。


「……でもまぁ、逆に言えばいまの俺たちにできることは限られてる。なら、できることを全力でやるしかないんじゃねえのか? むろん、あっとおどろく発想ができたなら、それに越したことはないが」


「……あっとおどろく発想は……わたしにもまだないな。すまない」

 らしくなく文音も少し小さめの声でそんなつぶやきをする。


「なぁ、いろいろあって聞きそびれたんやけど、気になってたことあんねん。文音、聞いてもえぇ?」


「……? なに?」


「地下ってさ、もうひとつもあるやん。入ったことあるんはここの下、通常教室棟の地下だけ。特別教室棟の地下はどないなってるん?」


「……あぁ……、ごめん。普通に言うの忘れてた。ほぼほぼ同じだったよ。違うとすれば、入っているわたしたちの成熟ぐあいが違うってくらい。おそらく、生成のスタート時期が違うのだろう。


 あんまり、想像したくはないが、わたしたちが死んだあと、わたしたちが見たもうひとりのわたしがここに投入されるってことじゃない? そして、その次のわたしたちが死ぬ頃、もう一方が成熟する」


 ……円滑に進めるためのサイクルというわけか……。

「僕らは出荷する野菜かよ……」


「主催者様は、ほんとうにそんな程度にしか考えてないのかもしれないね……。胸糞わるくて仕方がない」


 でもまぁ、一樹たちが小学生であることもそう考えれば合理的か……。たぶん、大人にまで成長させようとしたら、それだけ時間がかかる。さっさと進めるなら、途中で放り出せばいい。


「向こうの地下の鍵も開けてある。だれかが戸締りでもしてないかぎりまだ入れるはず。気になるなら、見に行くか?」


 文音の提案に対して、なぜか喜巳花は妙に目を輝かせた。

「うちの赤ちゃんが見てるってこと?」

「……それは……合ってるようで違うかな……」


「……いや、ぜったいそうじゃない」

 奈美がすかさず突っ込む。


「いや……合ってるのか? ……うん? 喜巳花ちゃんの赤ちゃ……喜巳花ちゃんの赤ちゃん姿ではあるけど、喜巳花ちゃんの赤ちゃんではないか……。いや、赤ちゃんってそもそも……喜巳花ちゃんの……ちゃん……」


 ちゃんちゃん言っていた奈美が次第にフリーズしてしまった。こんがらがったんだろう、そうとしておこう。

 それよりも……。


「……うん? 待って、ねぇ君。どこに行くの?」

 ふと、ちょうど視界にやつの姿が見えた。化け物のサラはこの教室のドアを今にも開けようとしていた。


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