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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第二章 
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第10話 サラと一樹たち

 奈美と喜巳花が連れてきたお客さん、もといサラとかいう化け物人間が教室に居座る子となった。


「これ、食べる?」

 奈美が差しだした缶詰に対して、無言で受け取り口にするサラ。どうやら、一樹たちと同じものを食べられるらしい。


「……で? 君は一体何者なんだ? 自分で自分がなんなのかはわかるのか?」


 少し離れたところで腕を組みつつ聞く文音。随分と口調に強いものが感じられる。それは鋭い目線からも感じられた。


 サラはその視線に気づくと食べる口をピタリと止める。そのまま、ブンブンと首を横に振る。


「……それもわからないと?」


「ゆうて自分も自分のこと知らんやん。自分で自分を棚にあげて、おかしいこといってるで自分」

「自分自分うるさい。自分みたいな顔して」

「どんな顔やねん! って、こんな顔か~」


 喜巳花がのんきな顔で窓に反射したその自分ののんきな顔を見ている。自分の頬を伸ばしたり髪を引っ張ったりしている彼女の姿にちょっと文音が絶句しかけてる。

 さんざんポカーンとしたあと、もう一度サラに顔を向けた。


「あの頭が可哀想な子ほどでなくても構わないが、少しは口を開いたらどうだ? 話せるんだろう? ここから追い出されたくはないだろう」


「ちょっと、文音ちゃん。それは脅しになってない? いくらなんでも、そんなこと言わなくても」

 奈美がすかさずフォローに入るべく文音とサラの間に入る。まぁまぁと文音の名だ寝るようにするが、ふとその奈美の後ろからボソリとつぶやきが聞こえてきた。


「記憶がない」


 ほんとうに短い一言。だけど、それがサラの口から放たれた言葉であることは明白だった。


 椅子に座って机に肘を置きつつ聞いていた響輝も口を開く。

「記憶がない? ……ちなにみ、それはどこからの話だ? 覚えている中で一番古い記憶ぐらいはあるんじゃねえのか?」


「君たちが来た部屋で目覚めた記憶がはじめ」


「……つまり、家庭科室で目覚めたんやね? それ以前の記憶はない……。うちらと一緒やん」


 喜巳花の言う通りだ。いや、少し違う点とすれば、仮という形ではあったが、目覚めた前の記憶は一応一樹たちにはあったけど。でも、たぶんそれは作り物、少なくとも実際に一樹が経験した記憶では一切ない。


 この目の前にいるサラも目覚める前の記憶はない……。となれば……この化け物も一樹たちと同じように作られてた存在。クローン。


 話としてはあり得るどころか、実にしっくりくるレベル。一樹たちクローンだったんだ、目の前のやつもクローンであったところでなんの不思議はない。それどころか、ほかの化け物だってクローン。


「……そうか、化け物もすべてクローンで。たくさん作成されているなかで、イレギュラーが発生したとか? そのイレギュラーがサラ……。

 そして、……記憶のデジャブを感じている文音ちゃん?」


 言ってから思ったことを構わず言い過ぎたかなと思ってしまう。文音と目をそらしつつ口を抑え込む。


「こいつがウソをついていなかったらの話ではあるけどな」

 しかし、文音は一樹に文句をつけるより、前提そのものにケチをつけ始めた。


「少なくとも目の前にいるこいつを信用できるだけの材料はまるでない。無条件に話を信じるのは危険だな」


 ……なんというか……。


「いや、質問したのも自分やん。それに信用できないって、その代表選手みたいな自分が言うん? それともボケなん? ツッコミ待ちやったりする?」


 ……あぁ……言っちゃった。思ったのに敢えて言わなかったのに、喜巳花が言っちゃった。


 心なしか、文音の唇がピクピク震えているように思える。

「……えぇ……と、……高森喜巳花……少し君は黙っていてもらえるかな? さっきから余計なお話が多いように思える」


「いやいやいや、めっちゃ図星って顔やん。焦ってるって顔に書いてるで……。え? 待って、どしたん? なに近づいてるん? ……ごふっ!?」


 …………。


「奈美に続いて文音も……ひどいって……。口あるやん。口で話そうや、な?」


 という最後のセリフと共に、二度腹パンを食らった喜巳花は沈黙した。もはや八つ当たりじゃね、っていうツッコミは喉のすぐそこまで上がってきていたが、しっかりと飲み込んでおく。


「ちなみに記憶って……なにもないってこと?」

 一樹が質問をするとサラはコクリとうなずく。


「じゃ、名前は?」

 一樹がその質問をさらに重ねると、みんなの表情になにかが走ったような空気を感じた。


 だけど、サラは動じることなく口を開く。

「わからない……。なんとなくわかった……。でも、それだけ……。それ以外のことは……なにも……」


 名前だけは頭に刻まれていたということか……。でも、たしかに……こんな化け物じみた姿をしたやつに、はっきりした住所を覚えていたらそれは逆に驚愕する。ぜひとも、そこに行ってみたい。


「都合よく名前だけが憶えていたのか? ますますウソの匂いがするな?」


「どうかな? 僕は信じてもいいとは思うけど。だって、僕らだって記憶は偽物らしいけど、たしかに自分の名前ははっきりと知ってて言えたよね? もちろん、僕の東一樹って名前も……作り物かもしれないけど」


「……、そ……それは……」


 少し口ごもる文音の横を綺星が通りすぎる。

「つ……つまり、このサラさんって人も……あたしたちと同じってこと?」


「うん。そう考えても……いいかもね。受け入れがたいのもわかるけど」

 というか、言っている一樹も受け入れきれているわけではないが……。なにしろ、随所に人間っぽさはあるものの、見た目はやっぱり化け物なんだし……。


「自分やって都合よく鍵開けの技覚えとったんやろ? やっぱ一緒やん。ごふっ! ……図星やからって腹パンすんのはやめよ? な?」


 起き上がった喜巳花がすぐまたいらないこと言ってうずくまる。その横で自分のこぶしをやさしくなでている文音の姿があった。


 理不尽だろ、とは口が裂けても突っ込まない。たぶん、言ったら自分も腹パンを食らう。回避できる危険は回避するとしよう。


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