第8話 帰ってくる”四人”たち
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一樹は残ったみんなと一緒に三の二教室で待機していた。残りと言っても、綺星と響輝と自分の三人だけだが。
文音はトイレに行くといって出ていった。奈美はひとりにしてほしいと言って出た。それを黙って送るのは不安があったため、喜巳花が付き添い。
「奈美ちゃん……大丈夫かな……」
綺星が教室の窓からチラチラと辺りを見ている。その感じだと見えるところにはその姿がないらしい。
「ま、あいつは大丈夫だろうよ。すぐに覚悟決めて帰ってくるんじゃねえか? それよりは、喜巳花のやつが面倒ごと起こしてないかのほうが、心配なぐらいだ」
……まぁ、それも一理る。だけど、その原因はほかにある。
「いや、だったら、なんで喜巳花ちゃんに行かせたの? 「尾行だ、尾行だ」なんて言って教室出ていくとき、止めたら良かったのに」
「いや、でもあんな様子の三好を放ったら貸すわけにはいかなかったしな……。でも、俺や東みたいな男子よりは女子のほうがいいだろうし……って、感じで消去法になったんだ。しょうがねえだろ」
うん、まぁ……そうなんだよね……。本当に、消去法だった……。本来なら、この役は奈美が一番ふさわしいが、その相手が張本人だから必然的にこうなる。
「ま、高森よか、まだ新垣のほうがマシだった可能性はあるけどな」
なんて意地悪そうな顔で綺星のほうを見る響輝。だが、本人はそんなこと聞いておらずまだずっと窓に顔をのぞかせていた。
「あっ、文音ちゃん! 帰ってきた」
窓から文音の姿をとらえたらしい。綺星はそう言うと、真っ先にドアに駆け寄っていった。
ドアが開けられ中に文音が入ってくると同時、のぞかせるように顔を前に出す。
「おかえり」
「え? あ、おう……ただいま」
「えへ」
唐突な綺星のあいさつに文音が戸惑いを見せつつ、後ろのドアを閉める。そして、不器用な感じで綺星に笑みを向けるとあたりを見渡した。
「……奈美と喜巳花は?」
「お散歩中」
「……そうか……。……え?」
響輝のポンといった回答に対して、文音は一回うなずいた後、遅れて疑問符を投げる。
「ま、校舎内なら安全だし、心配ないんじゃねえか?」
「絶対そうじゃない」
文音のツッコミのとおり。校舎内は安全だってのは、この条件じゃ当てはまらないんだかな、これが。むろん、響輝だって理解してる。ただ、場を和ませる話を喜巳花の代わりにしただけだろう。
「……どこまで行ったかもわからないのか? 出ていってから、いくら時間がたった?」
文音は窓から廊下や外をのぞきみしつつ聞いてくる。心なしか、その様子に少しばかり慌てた雰囲気を感じられる。
「……うん? やけに強く心配しているじゃねえか? 気持ちはわかるが……、なんかあったのか? 言っておくが、お前がここを離れてた時間のほうがまだ長いくらいだぞ?」
響輝が床を指さしつつ文音に近づく。
たしかに、響輝の言う通り。文音の行動にはなにか違和感がある。自分だってそれなりの時間、留守をしていたのに、まるでそれを棚にあげるような。
文音は窓の外へ視線を向けたまま答えた。
「別にたいしたことじゃない。ただ、職員室で和田ライトをあってきただけだ」
「……え?」
「いや、大したことあるじゃねえか!」
ほんとだよ。普通にイベントひとつ重ねてきてたよ、この子。それを平然とした顔で言っちゃうのだからこっちもどう反応していいやら。
でも、あったことをはっきり言ってくれただけマシか。今までの文音なら、適当に流してごまかしかねない雰囲気だったのだから。
「まぁ、いいよ。で? 具体的にはなにがあったんだ?」
近くの椅子に座り込みつつ手を文音に向けてうながす響輝。ただ、文音はそれを気にも止めず窓を見続けている。
このまま無視するのかとすら思ったが、ふと文音の表情に変化が見られた。窓からなにかを見たらしい。少し、目を細めたりしていたが、やがてクルリと髪を揺らしつつ、体を教室の内側へと向けた。
「ふたりが帰ってきた。みんながそろってから話すよ。まぁ、でも……わたしの話など、これから見るのに比べれば、あくびが出るほどつまらなくなるのが確定してしまったけどね」
「……どういうこと?」
文音のやたらと遠回しな言い方に釈然としなかった一樹。その疑問に文音が答えるより先、教室のドアが少しだけ開けられた。
「あの……ただいま……」
ひょっこりと細く開けた隙間から顔をのぞかせる奈美。後ろには喜巳花の顔も見えたのだが、すぐに教室の中へ入ってこようとしない。
「どうした奈美? さっさと入って来いよ」
響輝は椅子に座ったまま、奈美に向かって手招きをする。すると、奈美はゆっくりとドアをさらに開けつつ、少し中へ入ってくる。
「実はね……お客さんがいるんだよね。みんな……手厚いおもてなしを頼むね」
「「「お客?」」」
綺星、響輝、一樹。三人同時に疑問が浮かぶ。ひとり窓にもたれかかっている文音は少しこぶしに力を手に入れている。
そんな中で、まず奈美、続いて喜巳花が入ってくる。そして……三人目のお客さんがほんとうに教室の中へと入ってきた。
瞬間、完全に硬直する。
そのお客さんは、一言にいえば化け物だった。青い皮膚に赤い毛がまさにそれ。ただし、赤い毛は頭部……すなわち髪の毛の部分しかなく、あとは青い皮膚。なにより、衣服をきた姿をしている。
その姿に一瞬人間かとすら思ったほどだ。しかし、やはり化け物よりの姿。奈美の後ろに隠れるように立っているが、そもそも身長の核が違う。ずっと大人なそいつは、奈美の背丈よりずっと高い。
このものを見たみんなの反応は大きく二つに分かれる。ひとつは一樹と綺星。どうしたらいいのか理解しかねて、声も出ずに固まる。
そして、響輝と文音はシステムを使用した姿になると、同時に臨戦態勢に入っていた。




