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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第二章 
64/168

第4話 奈美と喜巳花

 ***


 三好奈美はひとり、みんながいる三の二教室から離れ、廊下から窓の外を眺めていた。


 別段、変わったことは何もない風景。なんの異常もないはずなのに、いま自分が置かれている状況は果てしないレベルに異常。そんなことを考えたら、腹立たしくなる、というか……なんというか……。


「……ひとりにして、って言わなかった?」


 視界の端から人の気配を感じ、顔も向けないまま言葉を出す。言ってから、窓の反射を見てその子が喜巳花であることを認識する。


 奈美はみんながいる教室でずっとどうしたらいいのか、わからずボーっとしていた。だけど、このままではさすがにダメだということは嫌って程にわかってもいた。

 このままだとまた文音に怒られる。


 とにかく、気晴らしにと思って、ひとりにさせてもらうようお願いして、教室をでてきたつもりだった。


 しかし、となりで喜巳花が窓のサッシに肘を乗せて言う。


「うん、ゆうてたな。せやけど、いまの奈美をひとりにしたら、自分なにするかわからんやろ? 間違っても変な気は起こさへんようにって、うちがお目付け役になったわけよ」


「変な気? あたしが自殺でもすると思った?」


 少し笑みを浮かべてそう切り返すと、喜巳花の表情に驚きが見られた。

「自殺っ? ……考えてたん?」

「……え?」


「いや、うちが思ってたのは、ひとりでようさんおる化け物に突っ込むとか、地下のクローンを……とかをイメージしてただけやけど……」


 ……どう言葉を返したらいいのかわからず、奈美は黙るしかなかった。こうなってしまえば、自分でも無意識のうちに自殺が……選択肢に……。

 いやいや……それは……ないよ……ない。


「まぁ、でも。奈美をひとりにしてもええことはないやろ、って。で、響輝がこの中で一番ふさわしいゆうてうちが来ただけ。

 でも、気にせんでええよ。ひとりでいたいって言うなら、うちは離れてるよ」


 響輝がか……。たしかに、あの中じゃ喜巳花が一番ふさわしい立ち位置なのかな。というか、同じ女子同士……、だけどほかは文音と綺星だから……。

「大役ご苦労様。消去法でぶじ、選ばれたってことだね」


「……ひどない? うちも思ったけど」

 本人が思っちゃってたか……。


「冗談だよ。きっと君の明るさが選ばれた理由だから。そして、ありがとう。やっぱり、ひとりでいるよりは、誰かと話しているほうがいいや。ひとりで考え込んでいると、どうしても悪い方向へ考えてしまうし」


「あっ、ちょうちょ」

 聞いてなかった。

「違った。葉っぱやった」

 違ってすらいた。


 ……この喜巳花の態度は……変に空気を重くさせないため、わざとやっていることなのだろうか……。本当に天然なのか……。


「……なぁ、喜巳花ちゃん。聞いてもいい?」

「うん? なに?」

 窓に顔を近づけていた喜巳花が首だけこちらに向ける。


「喜巳花ちゃんは……、あの地下にいるもうひとりの自分を見て……その……どう思った?」

 本当は聞くべきことじゃないのはわかる。誰もが受け入れようと、または忘れようと奮闘しているのに、そこを付し返すような質問だ。無粋にもほどがある。

 だけど、どうしてもこの喜巳花に聞いてみたくなった。


「どう思った? どう……って、言われても……」

 喜巳花は少し難しそうに表情をゆがませる。答え方になやんでいるみたいだったが、直後にはサラリとこういった。


「さぁ? よ~わからん」

「……へ?」


「いやだって……実際にそやし。あぁ、うちがもうひとりいるなぁ、って。クローンだとか、あとから聞いて意味は知っただけど、ふ~んって感じ」


 ……あまりにスッカラカンな返答だった。さすがに想定外。だけど、本人はわざとではなく、これはほんとうに本心で言っていることらしい。そっけない顔でなんの苦もなく言う。


「いや、……だって……自分も?」


「うちもクローン? 作られたもん? やから、どうやってゆうん? だって、うちはうちやん」


「……っ!」


「うちがクローンやろうと、ロボットやろうと、結局のところ、自分はかわらんもん。どうしょうもないし。だったら、ふ~ん、そうかい。でええんとちゃう?

 それよりはむしろ、問題は「これからどないしょう?」やろ?」


「……あ……ぉ……うん……。いや……まぁ……たしかに……」

 またもや、返す言葉が見つからなかった。


 ほんとうに喜巳花の言う通りだ……。自分がどうかなんかおり、これからのことを考えないと……。

 文音に言われて、前に向き合えって言われてたのに……、まだ出来ていなかったんだ……自分は……。


「ふふっ、……ハハッ……アッハハ!」


「……ど、どないしたん? 壊れた?」

「壊れるか!」


 いったん、ツッコミを入れた後、大きく息を吸い込んだ。


「いやぁ、ね。あたしも喜巳花ちゃんみたいに、必要以上に深く考えなくてもいいかなって。ここであたしがどれだけ考えて悩んでも、自分がクローンであることは変わらないんだったら、そんなの無意味だよね。

 大切なのはこれから、だよね?」


「まぁ、でも。そのこれからも。どうしょうもないくらい絶望しか今んところないんやけどね」


「……喜巳花ちゃんはあたしをジェットコースターに乗せたいの?」

「ええなぁ。うちも乗りたい」

「乗らせねえよ」


 あぁ、やっぱりこうやってだれかと話をしているだけで気がまぎれる。なにより、ほんとうにこれだけで、心が落ち着いてくる。いまなら、絶望でも笑って吹き飛ばせそう。

 これは……きっと、喜巳花の人柄が持つ力なのだろう。


「喜巳花ちゃん。本当にありがとう。あたしはもう大丈夫かも。一緒に戻ろう」

「……うん? ちょ、待って」

「え?」


 ふと、会話と止めてくる喜巳花。さっきまでの雰囲気から一転、不思議そうな顔で奈美の後ろに視線を向けている。


「……あれ、なんやろ?」


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