第2話 六人という推測
喜巳花が文音にふたつ質問があると言っていた。そのふたつ目の質問。
「ふたつ目な。まだ、奈美とヤーヤー言ってた時、うちらの中にひとり裏切り者がいるゆうてたやん。あの時って、もう地下に文音は入ってたん?」
文音がこの中に裏切り者がいると言ったのは、たしか目覚めてから二日目か。綺星が夜中トイレに行って……。
まさか、あんなに早いタイミングで?
「いや、その時はまだそんなことまで知らなかった……。それどころか、地下の存在すらまだ知らない時期だったな……」
……なんだ、さすがにそうか……。……ってことは……まてよ。
「やったら、なんで裏切り者の存在がわかってたん?」
そうだ、そういうことになる。あの地下のクローン六体を見たら、その可能性はあがるだろうが……。それを見ていない状況では……?
文音はあの時、システムが六つしかないから、という理由を上げてはいたが……。
「実際はシステム、七つあったんよね? 変身システムのケースふたつと、ウエストポーチのやつひとつを」
たしかにそう言う話になっていた。……となれば、とうぜんあの時、文音が自分で言った理屈を自ら矛盾させることになる。
「……ほんとうは確証なんてなにもなかった。ただ、その可能性が浮上し始めていた以上、無視するわけにもいかなかったんだよ」
文音は少し顔をうつむかせつつ、答え出す。
「だから、君たちにもっとも理解しやすい理屈を勝手に作ってあおった。これは、ほんとうに奈美の言う通り、みんなの不安をあおる行為だったとは思っている。遅いが謝っておくよ」
「いや、謝る必要はもうねえんじゃねえか? それより喜巳花が聞きてえのは、その可能性が浮上したっていう理由のほうだろ? その感じだと、当時の俺たちには到底納得できそうにない理由みたいだが?」
こんどは響輝も話に参加してきた。
現在、和田ライトが裏切り者で自分たちとは違う存在であるということは明かされた。だけど、それが文音という存在を無条件に信じられることにはつながらない。
先の別行動の印象がどうしても強い一樹たちから見れば、今なお文音はえたいがしれないあやしい存在なのだ。文音は一応、一樹たちに説明をしてくれてはいるが、それがほんとうであると証明する手立てもまずない。
「う~ん、あんまり口で説明はしずらい部分ではあるなぁ。なにしろ、直観という要素がかなり大きいからな……。と言ってもそれだけじゃとうぜん納得はしてくれないのだろう」
文音は少し目を閉じ頭に手を当てる。そして、少し考えた後口をまた開き始める。
「まず、すでに説明した三の一教室の前にあった星マークの傷。あれ、六芒星だったんだよね。ほらあの……角が五つじゃなくて六つあるやつ。ほかにも、いろいろ見ていったところ、なにかと六という数値があったんだ。
たぶん、この六という数値はわたしがわたしになにかを伝えようとしていると思った。それが第一の直感だ」
なるほど、六という数値か……。七人ではなく六人だと……、まぁ理屈はわかる。なにより、当時の一樹たちじゃまず納得でいないことでもあった。
喜巳花たちもうなずいているなか、文音は指を一本立てて聞いてきた。
「で、もうひとつあるんだが……、君たちはどの教室で目が覚めたが覚えているか?」
「……目覚めた教室……?」
覚えてない。そんなこと、もういろいろありすぎて、とうの昔に忘れてる。いちおう、みんなにも顔を向けるが、全員ピンと来ていない様子。
「どこやったっけ?」
「……それどころじゃなかったしな……。まだ覚醒途中でぼーっとしてたし、あんまはっきりと考えてはなかったな」
全員、首を横に振っていた。
だが、そこに対して文音が地図を広げつつ言う。
「でも、少なくとも、三階の通常教室棟のどこかであったことは……覚えているんじゃないのか? つまり、五の一教室から六の三教室、この六つある教室のうちのどれかに最初入っていたはず」
言われてピンと来た。
「……ぉぉう。それは間違いないと思う」
目覚めて廊下に出た後、右手にすぐ視聴覚室が見えた。そうだ、集合先が決められていたのだから、廊下に出てすぐ視聴覚室が見える位置の教室で目覚めたのもわかる。
「うちもせやった。ってか、たぶん、六年の教室のどっかやったと思うわ。思い出した、思い出したで」
「あたし、たぶん六年三組、一番視聴覚室に近かった」
やはり、これはまた全員が同じということらしい。この結果に文音は満足したのか、うんうんとうなずいて見せる。
「わたしが目覚めたのは五年三組の教室だった。ほかのみんなも同じ境遇なら、近くで目が覚めたと考えても不思議はない。
そして、全員違う教室で目覚めたのもたしかだと思っていた。
もし、わたしと同じ教室で先にだれかが目覚めていたなら、どう考えてもまず真っ先にわたしを起こしにくるだろう。ましてや何人も合わさっていたらなおさら。
しかし、この回にある通常教室は六つ。対してわたしたちは七人。ひとりだけ特別教室で目覚めた、としたらそれでも変だ。なにより、わたしたちは小学生、学年も六つ。一フロアに教室の六つ。
この状況じゃ、六人であることのほうが自然。ひとりわたしたちと違うものがいるという仮説を立てることは……十分できるだろう」
……この子もまた分析がすごいな……。この状況下で、ここまでよく分析して可能性をはじき出せる思考力を持っているのか……。小学三年生の自分がいうのもなんだが、五年生の思考回路を……超えているだろ……。
いやもっとも、クローンである一樹たちに年齢と思考のリンクに意味があるのかすら、いまとなっては疑問だが。
「ちなみに、そういう仮説が立てていたから、奈美と響輝、六年生ふたりのうちどちらかが、もっともあやしいとも思っていたんだけどな。
あの地下室をみるまでは、奈美があやしいとは思っていたことははっきりと言っておくよ。隠しても意味はない。
スパイとして考えればバカみたいに目立っていた。だが、みんなを誘導する立場として考えたら、和田ライトとは正反対ではあるものの立場としては同等に理想的だと思っていたんだ」
相変わらずずっと抜け殻みたいな感じの奈美。文音も彼女なりに気を使っているみたいだが、やはり反応はなかった。




