第6話 異質な存在
「……君は……何者なのかな? 言葉はわかる? ……君は……人間なの?」
最初に助けた女子児童がそんなふうに聞いてきた。そのしゃべり方は明らかに恐怖が混じっている。……にしても……人間なのか、っていう質問にはさすがにショックだな。そこまで化け物じみた姿をしているということなのか。
「……たぶんな。わたしも自分が人間だとは思っている」
だけど、それが文音がただ思い込んでいるだけ、なのかもしれないが。真相はわかるはずもない。むろん、人間だと……思いたいという願望も大きい。
「で、お前はなんなんだよ?」
こんどは男子児童も声をかけてきた。
雰囲気的にこのふたりが最年少ってところか……。たぶん、この感じだと文音も含めて全員が小学生。
「わたしは柳生文音……五年生。何者かという質問には答えられるほどのものはない。
言えるのは、君たちの立場とたいして違いはない存在だ、というぐらいだな」
この感じはどうなのだろう。この子たちは文音と同じようにデジャブを感じているのだろうか。しかし、やはりこの雰囲気だと、文音は完全によそ者という扱いになっているか。
ただ、文音としてはこういうしかない。実際、同じように知らぬ間に目を覚ましてこの状況に放り込まれたことに変わりはないのだから。
「あっ、後ろ!?」
「知っている」
真ん中ぐらいの年らしい男子児童が後ろを指さして指摘してきたが、文音はすでに察していた。後ろから化け物が一体迫っているということだろう。
こうやって化け物の力を使っていることで、自然と闘い方がわかってくる。知らないうちに、体に染みついているということか。
左足を踏み込み、右足を大きく後ろに振り上げる。その回し蹴りは予想通り化け物の首をとらえ倒せていた。ほんとうに自分でやって自分で驚くほどの戦闘スキル。正直、言えば自分で自分がこわいレベル。
これで回りにいる化け物はすべて倒しきれた。さっさと変身姿を解いて、みんなと同じ姿に戻る。やはり、相当に体力が減った。どう考えてもこの力は体力をどんどん奪い取っていく代物だ。
呼吸を整え、ほかの人たちに顔を向ける。一応自己紹介もしたことだし、合流を図ろうと考えていた。だが、彼らの表情を見ればその思いはすぐに消えてしまった。
ここには六人いるが、全員が全員、明らかに文音に対して恐怖感を抱いているのが手に取るようにわかったからだ。中にはその感情を隠そうとするものも見受けられたが、残念ながら隠しきれてはいない。
いまの姿はみんなとそうは変わらないはずだ。お互い、肌色……ペールオレンジ系統だし、髪は黒系統。当然、赤い毛や長い爪はもう生えてなどいない。
しかし、文音は彼らの前でそんな姿に“なって戻った”。それだけで、ほかのみんなとは異質の存在であると決めつけられ、拒絶されているのだ。
「……じゃあな。……十分に気をつけろよ」
とてもじゃないが、ここから彼らと合流して一緒になんて言える気分にはなれなかった。子が割られている中で入るほど図太くはなれない。
「待って! あ、文音ちゃん……だよね? 君もあたしたちと同じなんだよね? じゃぁ、一緒に行動しようよ」
驚いた、まさか向こうから誘ってくるとは……。しかし、その声を上げた本人の顔はなんとも言えない表情。
あぁ、そうか……。この行動は責任感によるものか。
文音という存在に恐怖し、異質の存在であると認識している。だが、文音本人が同じである言ったため、年上としてするべき行動をとると……。まぁ、いわゆる模範というやつだ。
しかし、その模範的な行動も、この状況では残念ながら周りの人たちからは認められている感じはない。
「……わたしのさっきの姿を見て、一番恐怖を抱いていた君が言うのか?」
「……そ、それは……」
実際、こうやって言い返せば、その子はこんな風に戸惑ってしまう。まぁ、結局はそういうことなんだ。
「待てよ三好……。悪いけど、俺はそれに賛成なんてできないぞ?」
おそらくもうひとりの最年長らしき男子が止めるように割って入ってくる。
「そもそも、あのさっきの化けた姿はなんだったんだ?」
……むしろこれくらいはっきり警戒心を見せてくるほうが、ありがたいのかも。こいつが文音をどうみているのか、はっきりとわかる。こっちもどう対応すればいいのかもわかりやすい。
「君たちだって似たような力を持っているだろ? それと同じだ」
「同じ? あまりに毛色が違いすぎじゃねえか?」
……それを言われたら返す言葉はなかった。明らかに雰囲気が違うのは自分だって思っているんだもの。
「俺たちはまだなにもわかってない状況だしな。油断させて……」
「ちょっと、響輝くん。……勝手になに言っているの?」
……文音が登場したことで、彼らは見るからにギスギスしだしていた。この状況はとてもじゃないが良いとはいえない。
……一緒に行動するのは……あきらめよう。
「安心しろ。そもそもわたしは君たちと行動をともにする気はない。君たちはきみたちでがんばるといいさ。
わたしはわたしのやり方をするだけのこと」
そういって無理やり分かれの言葉を告げると、ひとりで図工室に戻っていった。




