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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第二部 第1章 記憶と繰り返しの産物
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第3話 手にある対処方法

 文音は三階の階段近くで立ち往生という状態に陥っていた。後ろに伸びる廊下の先、視聴覚室のドアは化け物がたたいている。しかも、二階からこっちに上がってこようとする化け物までいる始末。


 移動する先として真っ先に思い浮かぶのは、視聴覚室とは反対に伸びるほうの廊下だ。だが、そちらはすぐ先が行き止まり。それがいいとは思えない。


 だが、そんなことを考えている瞬間だった。その視聴覚室がある方向からドアの開く音が聞こえてくる。

 まさか、あの状況で開けたのか?


 首だけのぞかせて角から確認。実際、ドアは開けられており、化け物が視聴覚室内部に侵入している。


「……チャンスか」

 中に居た人たちが逆にピンチに陥っているのだろうが、そんなことは言っていられない。もうすぐそこまで登ってきていたもう一体の化け物から逃げるべく、走り出した。


 視聴覚室の前を横切り、左へ曲がる。そのまま一気に特別棟につながる廊下を駆け抜けていく。


 あの化け物がなんなのかはまるでわからない。だけど、危険なにおいはたしかに感じる。まともに対処できるはずなど。


 廊下を走り抜けつつ、実質化け物を押し付けた形になった現状に後悔がよぎる。同時にかれらの身の危うさも感じていた。実際、かれらの叫び声も聞こえてきたためなおさら、それを実感させられる。


 しかし、そんな文音の想定とはかけ離れた音も同時に後ろから聞こえてきた。それは一言にいえば盛大な破裂音。実際にその音の発生現場を見れたわけではないため、確証なんてない。経験のしたことのない音。


 でも、なんとなく想像できてしまう。

「……銃声!?」


 信じがたい発想だ。どうなったら、そういう想像につながるのか。だけど、それは妙に心のどこかで確信に近いなにかをもっている気がする。

 そして、それは振り向いた直後、はっきりと認めることとなる。


 それは、もう一体の化け物が視聴覚室のドアの前まで来ていた時のこと。化け物は開いた視聴覚室のドアに入っていこうとする。そんなところ、大きな音と光が視聴覚室内から発生したかと思えば、化け物の体は跳ね上がり、崩れ落ちた。


「……うそ……だよね……」

 あの音は本当に銃声だったのか? だとすれば、かれらが、……あの視聴覚室にいた同年代の子たちが撃ったとでも?


 確認したいという気持ちもたしかにあったが、それより銃声というものの恐怖が勝る。今の自分には視聴覚室へ再度向かう勇気は……ない。


 だとすれば、自分の選択肢はもう一つ。とにかく進むしかない。なら、せめてパンマークがついていた図工室を目的地にして。


「……っ!?」

 だが、走り抜ける勢いで死特別教室棟につながる角を曲がった直後、全身が凍り付いてしまう。同時に頭の中が真っ白に。


 曲がった先にある特別教室棟に廊下には化け物が数体先に待ち構えていたのだ。


 化け物の視線が一斉にこちらへと向けられる。

「べぇぇ~~~~」


 全身が赤い毛でおおわれた、不気味で大きなサルみたい化け物。その存在は近くで見ればより一層異質さを見せつけられる。こいつに対抗できる手段など……。


 どうしようかとあたりを見渡す。

「……ランチルーム!?」

 すぐ、近くにあったドアに目がいった。同時に、この場の解決策を見出すと同時、ランチルームの中へと飛び込んだ。


 だが、入ったあと、ドアを閉めようとしたのだが、それより先に化け物の手が侵入し始めている。ドアは閉め切ることは出来ず、たちまち開けられてしまう。


 化け物が同じようにランチルームになだれ込んできて、文音はとっさに次の行動を余儀なくさせる。しかし、その取った行動は考えもなしに部屋の奥へと走ることになってしまった。


 当然、逃げ場はない。

「……やばいやばいやばいやばい……」


 ランチルームを見渡すが、本当に逃げ場はない。化け物がゆっくりとこちらに顔を向けて接近してくる。脱出先となるドアはふたつある。だが、どちらも化け物のいる場所の向こう側。


 ほんとうに、わけわかんない……。なんの理解もないまま、大ピンチ。せめてもうちょっと説明が欲しかった……。さっきまであったデジャブに頼って切り抜け方を模索しようとする。だけど、焦ったこの状況ではまともなものが浮かばない。


「っていうか! なんで、わたし、夢に頼ろうとているの!?」

 あまりに不可思議な状況にパニックはどんどん大きくなっていく。もうそろそろ、冷静を装うことも……。


「……うん?」

 なにかないか、なんでもいいと、体中をあさっていると、ふとあのケースを思い出した。そして、ポーチに収納していた注射器が入ったケースのひとつを取り出す。


「……ワンチャン……ある?」

 震える手でケースを開けながら、一本の注射器を取り出した。針先は本当に細く短い。たぶん、自分でも刺すことはできる……そして、中には液体が……、たぶんなにかの薬……。


「……いいの……これ……」

 これを体に打ったところでなにかが起こる保証などない。ましてや、この状況を打破できるなんて……。


 でも、……いますがるならば、ここしかない。あの準備室にあった注射器。彼らは銃かなにかで化け物と応戦していた。ならば、この注射器には……、同じように対応できるなにかが……。


「……くっそ、……ええい。ままよ!!」


 そして、腕に注射針を差し込み、体内に薬を注入した直後だった。


 一気に心臓が大きく跳ね上がる感覚に陥った。鼓動が……。全身が熱くなってくる……。そして、再び感じるデジャブ。この感覚、前にも味わっている……。


 ……これ……そうだ……。

「変身」


 気づけば、文音の口からそんなセリフが吐かれていた。


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