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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第二部 第1章 記憶と繰り返しの産物
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第1話 目覚めーー柳生文音ーー

 ***

 時は過去にさかのぼる。


 柳生文音は深い眠りから目を覚ましていた。あたりを見渡して教室の中であることはすぐ理解する。だけど、自分がなぜここにいてこの状況になっているのかはわからなかった。


 記憶をさかのぼってみようとするが、よくわからなくなり気が付けばそんな思考をするのはやめていた。


 とにかく教室の中をしっかりと見渡してみる。だれもいない静かな点を除けば、ふつうの教室みたいだ。いや……違う。


「……視聴覚室……まで?」

 黒板につづられていた文字。


 これが意味していること。深く考えないなら、とりあえず視聴覚室に行けということになるが……はたして……。


 ほかには、なにかないか? このままだと、視聴覚室に行く以外の選択肢はないのだが……。

「……?」


 ふと、また別の違和感が見つかった。教室の壁に伸びている柱のひとつ。そこには、傷跡らしきものが何本か入っている。


 たぶん、一度掘られたあと、それがなにかで埋められて修復されている状態。線の数は……十八本……。


 しょせんただの傷だとしてスルーすればそれまでだが……。なにか、かすかな引っかかりを感じる。児童がバカやって傷ついた跡、というよりは……なにかの意図をもってつけられた感じ。


 だが、しばらく傷とにらめっこしたところで、なんの意味もないことをすぐに悟る。すくなくとも現状を知るうえで助けとなるものではないだろう。


 であるならば……、

「……視聴覚室……言ってみるか」


 そんな、とりあえずといった感覚で教室の扉を開こうとした。だが、その瞬間、文音の脳内に一気に違和感が膨らんだ。


 はっきりとしたものではない。直感もいいところだ。なんの確証もないし、あまりにばかげていると思う。

 だが、それでも頭の中には思い浮かんだのだ。


「……デジャブ……」

 前にも視聴覚室の文字を見た記憶。傷を見て首を傾げた記憶。そして、そのまま教室を出て視聴覚室に向かおうとした記憶。


「……繰り返しが起きている? ……いやいやいやいや……」


 いったん、ドアから手を離しもう一度教室の中を見渡した。教室は見覚えがある。だけど、それは普段から使っている教室であるから……。

 ほんとうにそうか……?


 たしかにこういう教室で授業を受けていたような気がする。だけど、その記憶も……妙に……。いや、そんなことはないか……。


 いや、この柱の傷は……。


 そんなことをいろいろ思考しているときだった。ふと、教室の外からドアの開く音が聞こえてくる。

「……っ!」


 ほかにもだれかいる。そう確信する。ひとまずこっそりとドアを開けて顔だけ小さくのぞかせてみた。


 そこにはひとりの男子児童。奥にある視聴覚室に向けて歩いていく。

 この行動を見る限り、あの子もここと同じく「視聴覚室まで」の文字が黒板に書かれていたということか。


 視聴覚室には明かりがついている。かろうじて人のけはいも中からする。……ほかにも何人かこの境遇にあっているものがいるわけだ。


 このままのぞいていていいものか……。いや、視聴覚室の中にも人がいて、あの子は入るため扉を開けようとする。

 そのとき、中の人たちから自分ののぞきがばれる……。


「…………」

 なんとなく、いったん顔を引っ込めた。


 それとほぼ同時、またドアの開く音が聞こえてくる。タイミングからして視聴覚室のドアだ。


「おっ、またひとり来た……これで六人目だね」


 声質的には女子か……。小さめの男子児童の声も似通ったものだと思うが、たぶん廊下を歩いていた子ではない。


「あたしは六年の三好奈美。君は?」


 そんな感じで会話が進められていく。話からもうひとり、響輝という男子生徒もいることがわかった。やっぱり、何人かいるわけだ。


 その後、しばらく待っている視聴覚室のドアが締められる音が聞こえてきた。その後、結構大きかったふたりの会話も聞こえなくなる。


 視聴覚室ということはおそらく防音室。……中の音は遮断されているのだろう。これ以上、ここにいてもなにもわからなそうだ。


 もう一度、できる限り慎重になって音を立てずの扉を開ける。そのまま、視聴覚室の扉の前までたどり着いた。


 そのまま扉を開けようとしたが踏みとどまる。ものすごいデジャブが脳内を襲う。……そして、このままで……良いとは……あまり思えない。


 かわりに近くの扉へと目をやった。そこには視聴覚準備室のプレートが上に貼られたドア。ためしに手をふれると、扉はちゃんと開くことがわかった。


 ちょっと、ひねくれてみるか……。視聴覚室に入るのはそのあとでも……別に遅くはない。とにかく、できる限り直感的に嫌な感じがすることを避けているような感じもしつつ、視聴覚準備室の中へと入った。


 それと同時だった。


「……え? なに? なんなん!?」

「だれが消した!?」


 視聴覚室のほうから声が聞こえてくる。

 かなり慌てている様子。一瞬、準備室に入った文音のことをいっているのかと思ったが、それも違うことをすぐに理解する。


 準備室の壁に備わっている窓。視聴覚室の中をのぞくための窓らしいが、そこから光は入ってきていない。


 どうやら、急に照明が消えたらしい。一応自分の身の回りを確認するが、電源スイッチに触れた感じは一切ない。


 視聴覚室の中にいる人たちと同様、少し混乱しかける文音。しかし、同時に聞こえてくる機械音が止まったあと、急に映し出されたスクリーンの映像が視界に入れば、たちまちデジャブという感覚が強くなっていった。


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