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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第7章 現実と真実の一部
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第3話 呼び出し

 綺星がひとりで出ていったあとの教室。残された五人は瞬間的に沈黙をしていた。しかし、その中で響輝が真っ先に動く。


「……俺、ついてく」


「うちも」

 すぐ、響輝のあとを追うように動き出す喜巳花。


「ちょっと、待ってよ」

 奈美はふたりを制止させようと試みたが、ふたりは止まることなどせず、教室を出ていく。


 結果、ライトと奈美、そして一樹の三人が教室に残されるという形で落ち着いてしまう。


 奈美は三人が出ていった教室のドアの前でただ立ち尽くしている。後ろからではその表情が見えない。それも相まって、いまの奈美がなにを思っているのか、一樹には図りえない。


「……君たちはどうするの?」

 ドアに顔を向けたまま、こちらを見ることもなくそんなことを聞いてくる。


 一樹ははっきりと返事をすることができなかった。

 綺星が言いたいことはわかるし、それについて行こうと動いた響輝たちの考えも理解はできるつもりだ。


 だけど、そこまで頭でわかっていてもなお、踏み切れないものがそこにはある。


 じゃぁ、どうしたいのか、と言われれば、それはそれで困る。自分はいま、なにをすべきなのか、自分にもわからない。

「……奈美ちゃんは……どうするつもり? 僕は……奈美ちゃんに……ついていきたいかな」


 言ってしまえば他人任せ、自分の考えを持たないやり方……。文音が見れば、さぞかしバカにしてくる光景だろう。

 しかし、奈美というキャラからしてみれば、むしろそうやって頼られるのはかなり刺激させられるものだろう。


 ライトも、基本的には一樹と同じ考えらしい。一樹の横に立ったライトは、同じくドアと向き合っている奈美に声をかける。

 

「……僕も……三好さんについて行きますよ。三好さんは、どうされたいのですか? 脇さんたちを止めますか? 新垣さんを説得しますか?」


 奈美はまだ一樹たちには背を向けたままだった。だけど、ゆっくりと顔を向けてきては、一樹たちとしっかり、視線を合わせてきた。


「いや……柳生文音を……止めようと思う」


 へぇ……そう答えるか……。

 割と意外な提案だった。


「この不安の原因にあるのはあの子。なら、あの子を説得するしかないよね……。あたしに考えがある……、っていっても……単純だけど」



 言われるまま、奈美についていく一樹とライト。奈美は三階に向かって階段を昇っていくと、ある教室のドアの前で立ち止まった。


 ドアの上に貼りつけられたプレートに書かれた文字は「放送室」。……ということは……だいたい、やりたいことはわかった。


「まさか……柳生さんに呼び出しを食らわせるおつもりですか?」


「むろん、そのつもりだよ。まぁ、放送設備がちゃんと機能していたらの話だけどね……。そもそも、開いてなかったら話にもならないけど……」

 そう言いつつ、奈美は放送室のドアにつけられたドアノブに手をかけた。


「その心配はする必要がなくなったみたいだね」

 しっかりと、放送室のドアは開けられた。


 さっそく中に入って、設備を確認。といっても、一樹はどこがどうなっているのか、さっぱりだ。ボタンがやったらと付きまくった機械があるが、操作方法など知らない。適当にポチポチやったらつながるものなのか?


 だけど、奈美はとくに迷いもせず、機械に近寄った。ボタンやつまみ、声を入れるのであろうマイクを触ったりして確認している。

 奈美は放送の経験でもあるのだろうか。……少なくとも、こういうアイデアを出してきたのだから、理解しているのだろう。


「で、これどうやったらいいの? 君たちはわかる?」

 一樹とライトふたり、同時にずっこけた。


「ほんとうに頼りになりますよ」

「いや、それほどでも~。でも、実際大丈夫だけどね、なんとなくならわかるよ」


 そう言って、奈美はまっすぐ、あるボタンを押した。『電源』とはっきり書かれたボダン。


「まぁ、だれが見てもまずこれだよね。ほら……ほかのボタンに明かりがついた。ビンゴだね」


 どうやら、電気が通っているらしい。機械の完全な故障もなさそう。


 続いて、奈美は別のボタンに手をかける。

 『校内全体』と書かれたボタン。その横には、『教室』やら『職員室』やら『廊下』やら、いろいろなボタンが配置されている。


「たぶん、これが放送区域の設定ボダンだよね? で、これがボリュームか」

 上下に動かせる摘みを一番上に引き上げる奈美。


 で、マイクに手を添えつつ、その近くにあるボタンに手をかけようとする。『放送』という名がついたボタン。


 だけど、そのボタンに手をかける奈美を一樹は止めた。

「奈美ちゃん。そのまえにまずは、……お約束のこれだね」

 そう言って、『チャイム』のボタンを押した。


『ピンポンパンポーン!』

「これだよ、これ」

 想定通りの音が放送室の中からでも聞こえてきた。


 奈美も「ナイス」と言って、グッドサインを一樹に向けた後、放送のボタンを押した。そして、マイクに近づけ言い放つ。


「五年、柳生文音! 今すぐ職員室に来なさい! 以上!」


 ……。

「「え、以上!?」」


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