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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第6章 謎と高まる難易度
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第7話 ささやかな贅沢

 ***


 四の二教室の中にあった食料の確認が終わりそのまま、お昼ごはんを食べる流れになった。そのみんなの食べっぷりは、……いつも以上な気がする。


 新垣綺星はそんな中で小さく乾パンをかじっていた。


「綺星ちゃん? お腹すいてないの?」

 ふと奈美が綺星のほうに近づいてくる。


「すいてるよ。ほら、食べている」

 綺星は近くにあった缶に手を突っ込み、乾パンふたつ取り出す。大きく口を開けて同時に口の中に突っ込んだ。


「ほぁ。おいひい……ぁぁ……うぅ……」

 たぶん、いまの自分のほっぺはパンパンに張れている。かんで飲み込もうとするが、なかなか飲み込めない。……二個同時は無謀だったか……。


「はい水。別に慌てて食べることないよ」

 渡されたペットボトルは、すでに奈美によって開けられている。そのまま中にたまったパサパサな乾パンたちを奥へと水で流し込んだ。


「……ふぅ……、あぁ……おいしいぃ」

「めっちゃウソついてるやん」

「……っ!」


 ふいに横から声をかけてくる喜巳花。それはズバリ的中だったので、結構びっくりした。でも、こんな状況で「おいしくない」なんてもう言えない。それは、綺星でも十分理解しているつもり。


「ほら、クラッカーもまだまだあるよ? こっちをどうぞ」

 奈美は乾パンが入った缶を奥へ引っ張る。代わりにクラッカーが入った袋を綺星の前に持ってきた。実際、いまでも間違いなく食べやすいのはこのクラッカーだ。缶詰と一緒に食べるとなおよし。


 でも、それを受け取ろうとしてやめ、首を大きく横に振る。クラッカーはみんな食べたいもののはず。自分だけ優先されるのは違う。


 奈美は綺星の取った行動が意外だったのか、目をまんまるにして見せた。


「……綺星ちゃん? どうしたの? もしかして、食べ物の心配でもしてる? 大丈夫だよ。まだまだあるもん。綺星ちゃんはなんにも気にせず、好きなものを好きなだけ食べていたらいいんだよ?」


「……で……でも、文音ちゃんが……。それに……食べ物がある場所って決まってるんだよね? やっぱり、大切にしたほうが」


 奈美がこのことをできるだけ意識しないようにしているんだと文音は言っていた。そして、たぶん、その相手はこの自分、綺星のような年下。

 でも、結局それに甘えたら……、文音に会う前の自分と変わらない。


 しかし、奈美はうなずくことなど見せず、クイッと親指を後ろに向けた。

「でも、後ろにいる響輝くんも喜巳花ちゃんも豪快に食べてるよ?」


「……」

 奈美が指さした後ろには本当に中での人一番パクパクパクパク食べている年上ふたりの姿があった。


 と……年下が甘えて……ごはんを恵んで……もらって……。あれぇ? おっかしいな……。結構、思い詰めて言ったセリフのつもりだったんだけどな。


「……いや……あれは……別だし……例外……そう、例外ってやつ……。……ちょっと……変な子……いや、違う……そうじゃなくて」

 

「うちらは例外か! 綺星、よう言うようなったやん。あっはっは、ほら、綺星。旨いで、こっちこぉへんか? おじさんがおごったろ」

「いいねえ。お嬢ちゃん、変なおじさんと楽しいことしようね」


「……」

「……」

 奈美と綺星、もう言葉にできなかった。で、もう遠慮をするのはやめてクラッカーをやけくそに放り込んだ。

 ……うん、うまいや。


「新垣さん。君と脇さんや高森さんと、どちらがというと、君のほうが正しいこと言っているとは思いますよ。うん……」

 ……なんか、ライトにポンと肩をたたかれ励まされた。


 すると奈美も同じように綺星の両肩にそっと手を置いてきた。

「でも本当に大丈夫だから。綺星ちゃんが心配することはなにもないよ」

 奈美は綺星の前に立って堂々と自身の胸をたたく。

「お姉さんに任せなさい」


「え? おばさんがどうしたって?」

「オイゴォラ、響輝! ちょっと面かせや、おう?」


「……」

 奈美が変わっちゃった。六年生のおじさんとおばさんが、教室のど真ん中でわちゃわちゃやりだす。


 近くにいた一樹が口に乾パンをくわえつつ、そっと離れる。そのまま避難するように綺星たちの近くで座り込んだ。


 くわえていた乾パンを外して言う。

「……奈美ちゃん風に言うなら……奈美ちゃんは実に頼りになる上級生だね」


 良くわからないけど、奈美がよく使う言い回しを一樹が使ったような気がする。


「あっ、綺星ちゃん、ライトくん? これ食べる? さば味噌缶」

「いただきます」

「……食べる」


 ……なんやかんやで、こういうのもおいしいのはおいしいんだよね……。いや……本当に……おいしい。

 食べ物の数もまだ……確かにあるよ……あるし……。


「……ごめん……、ちょっと」

 ふと、もようして思い立ち上がった。


「え? 綺星ちゃん? どうした?」

「……うん。ちょっと」

 適当に言って教室のドアを開けようとする。しかし、後ろでワイワイやっていた奈美はしっかりと綺星のことを気づいてきた。


「綺星ちゃん? どこ行くの?」

 ……奈美相手じゃ適当に言わなくてもいいか。

「……トイレ」

 少し下の方を押さえつつ言う。


「あそう。じゃあ、待って。あたしがついて行くから」

「いや、いいよ。あたしひとりでいい」

 奈美が立ち上がってきたところを、手を前に断った。


 そのセリフは想像以上にみんなを驚かせてしまったらしい。みんな、ポカンとして綺星に視線を向けに来ていた。


「あっ、……いや。ほら、明るいし……。ここ四の二だから、トイレもすぐそこだし」

 実際、トイレとは目と鼻の先。出て右に曲がればすぐ。ちょっと声を上げれば一秒で駆け付けられる場所だ。わざわざ、そこまでしてもらわなくても。


「……そう、わかった。気を付けて。寄り道しちゃだめだよ? 明るいうちに帰っておいでよ?」

「わかってるよ。おつかいよりずっと簡単だよ」


 そういって、ひとりで教室の扉を出た。


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