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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第一部 第1章 少年少女と意味不明な実情
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第4話 化け物という敵

 脇響輝の服の上から自動的に装着された機械的なよろい。まさしく変身といったそれに一樹は思わず目を輝かせていた。


「……ぉお……うぉおお! カッケーッ! 俺、かっけー!!」

 脇響輝自身も同様の感想を抱いたようで、勝手にポーズをとりだす。


「なにこのオモチャ!? すげえんだけど!?」

「これは……実に……いい!!」

「さすが! 東もわかるよな、これ!」


「ちょっと男子! 勝手にテンション上げない!」

「なんやこれ? めっちゃええやん。テンション上がるわ~」

「いや、お前もかい!」


 脇響輝を中心にして一樹と高森喜巳花がマジマジとそのアーマーを見る。


「っていうか。響輝くん。机の上に立つのはやめようか、うん」

 そういいつつ、三好奈美が机の上に立つ脇響輝を下ろそうと手を引っ張る。だが、

「……うん? ちょ……」


 三好奈美がいくら押そうが引っ張ろうが脇響輝はびくともしない。

「待って。そんなかたくなに立ち続けなくてもよくない!? ほら、低学年もいるんだし、行儀悪いって」


「あ? ……三好が力を入れて押さないだけだろ?」


 うん? これはどういう話だ?

 少し疑問を抱きかけたが、それを遮るように高森喜巳花がポンと手をたたく。


「あっ、ってことはもうひとつのDVDもおもしろいオモチャの説明なんちゃうん!? うち、もうひとつ取ってくるわ」

 そういい、準備室に向かって駆けだした。


 そのときだった。本当にいきなり、ドアからドンという物音がしたのだ。まぎれもなくドアがたたかれた音。一樹が入ってきた廊下視聴覚室を隔てるドア。

 その音はあまりに不自然で異様。


「……うん? なに? なんの音?」

 駆けだした高森喜巳花がその足を止めてドアのほうへ顔を向ける。


 ドアにはガラス窓がついているのだが、すりガラスになっているためはっきり外の様子がわかるわけではない。ただ、そこに人影が映っているのはわかる。


 しばらく無言でみんなが待っていると、さらにドアが強くたたかれる。


「……えっと……あの……あれだよね? たぶん、あたしたち以外にもまだいるんだよね?」

 三好奈美がそういいつつ、少しだけドアのほうへと近づく。


「大丈夫だよ。ここに集まってるから……入っておいでよ」

 ドアに向けて明るい声をかける。


 だが、ドアが開けられる感じがない……。それどころか、ドアをたたく回数がみるみる増えていく……。ドアはそのたびに音を立てて揺れ動く。


「……おい、……なんか、おかしくないか……」

 アーマーをつけた脇響輝が机から飛び降りる。


「……そういえば……さっき響輝くん、準備室でけはいを感じたって言ってたよね? それが……あれなんじゃ?」


 脇響輝が当然そう思っていたというように、首を縦に振る。

「……で……具体的になんだと思う?」

 それは……わかるわけない……。


 いまだにたたかれ続けるドア。それは間違いなく一樹たちの心に恐怖を植え付けていく……。


「あ……あれやって。たぶん、おとなやって。先生やで先生! ほら……ここ視聴覚室やから、防音なってるし……うちらの声が聞こえてないんやって。

 だから……開けて……みいひん?」


 ちょっとずつドアに近づいていく高森喜巳花。それに対して一樹と、そして三好奈美が全力で首を横に振り否定する。

 どう考えても、それフラグ……。


「だ……大丈夫やって……。な? 開けるで? いや……このままやと……どうしようもないやん」

 高森喜巳花の手が震えながらもドアにかけられる。


 それはなんとしてでも止めたい。止めるべきだ。だけど……恐怖がその行動を起こすことすら拒否される……。震える体はなにかをすることすら許さない……。


「い……いくで! ……せぇ……の」

 ガラッと勢いよくドアが開けられる。と、同時に“それ”はドアに全体重をかけていたみたいに前のめりになりつつ入ってきた。

 が……“それ”は……。


「……えっと……ドチラサマデ?」

 完全に裏返った声でそんなことを口にする高森喜巳花。


 一樹たちの前に現れた“それ”は一言に言えば化け物だった。


 いや、人型ではある。だけど、全身が赤色の毛でおおわれており、手の裏などに見られる皮膚は青色。猫背で前のめりになっており、手を力なくだらけさせている。顔はまるで笑顔が張り付けられた仮面のよう。

 定期的に顔を揺らし「キキッ」というような鳴き声を漏らす。


 この教室にいるだれもが硬直していた。間違いなく初めて見るものだった。同時に果てしない嫌悪感が全身に走る。直観で悟れるとすれば、これは自分たちとは明らかに違うもの、ということ。


「べぇぇぇぇ~~~~……」

 化け物は鳴き声を変えて、見渡すように首を回す。ただし、定期的に揺れる。やがてその回る首が高森喜巳花の前で止まった。


 刹那だった。化け物が長い手を目に見えないほどすばやく振り上げ始める。それと同じく一樹の横を通り過ぎるだれか。


「プットオン」

 高森喜巳花の襟首をつかみ後ろに引きはがすと同時。

『アーマースタンバイ。システムオールグリーン。プットオンスタート』


 空中に突然現れた銃を手にして化け物へ銃口を向ける。そのまま一発その銃を撃ったのは、ずっと一番手前でひとり座っていた男子児童だった。


 銃口から放たれた発光に慣れない一樹の視界を瞬間的に奪う。同時にはじける音は容赦なく鼓膜を揺らす。化け物はその音のたびに全身を大きくのけぞらせた。


 瞬間的に、びっくりするくらい沈黙が起きる。

 明らかに非日常の光景に思考が全面的に停止してしまう。だけど、化け物がその一発でひるむのを見てしまえば、それが本物である事実を認めざるを得ない。


 最初の一発では、ひるむ程度だった。だが、追い打ちをかけるように放たれた数発が、化け物は背中から重い音を立てて倒れこんだ。


「……あっ? え? ……なに?」

 目の前で起こったことの理解が追い付かないでいる高森喜巳花。一樹もほとんど理解が追い付かなかったが、ひとつだけわかったことがある……。

 それは、映像のお姉さんが口にしていた“敵”という言葉がさすもの。


 荒い呼吸をしつつ倒れたやつに銃口を突き付ける男子。そいつに初めて声をかけたのは三好奈美だった。

「……ら……ライトくん……ありがとう……。で……でもよく……」


 アーマーをつけたその子は荒い呼吸を整えつつ、銃口を下ろす。

「……まぁ……みなさんがはしゃいでいる間、説明聞いてたので」


 ……あっ、それは、すみません。ほんと。


 その場にいる全員が全員、立ちすくんでいるような状況。だけど、その中のひとり、脇響輝は小さく舌打ちをして駆けだす。

「うぅわぁあああああああああああああッ!!!?」


 突然叫びつつ振われたこぶしはドアの外へと向かう。それはいまにもこの部屋に入りこまんとしていた化け物の顔をぶち抜いた。


「はっ!?」

 遅れて反応したライトと呼ばれる男子は再び銃を構えドアに向かう。そのまま引き金を何度も引く。その間に脇響輝はドアに手をかけ勢いよくその戸を閉め切った。


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