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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第6章 謎と高まる難易度
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第5話 不安は吹き飛ばせ

 鍵探しは断念し、多目的ホールへ戻る一同。綺星の目覚めと響輝のケガ、おまけに明らかに戦闘能力が高い化け物の出現に、移動中も警戒と緊張の空気が……。


「……あぁ、ハラ減った~。はよ帰ってご飯やね」

「うん。うん。うん」

「マジでな」


 ……そんなことはなかった。


 ガッツリお腹を鳴らす喜巳花と、ひたすらクンクンと首をうなずかせる綺星。響輝もそれに同意するようあいづちを打っている。


 喜巳花はまだしも、もう、ケガや失神した張本人たちがこうなんだから、本当に世話がない。


「そうだね。さっさと帰ろうか」

 奈美も特に突っ込むようなことはなかった。代わりに苦笑いに近い笑みを浮かべつつそんなことを言う。この空気を大事にしたいという奈美も思いもまた十分わかる。


 ……よし。

「響輝くん。ケガってどうなったの?」


「あ? ケガ? おう、もう大丈夫みたいだな。お前のおかげだよ、……いや、システムのおかげというべきなのか? まぁ、ありがとよ」


 響輝は負傷していた服を着ているので見えないが、今も包帯が巻かれているはずの右片をぐるっと一周回した。


 あら……本当に治ったのか……。

「……えいっ」

 もう一回、指で響輝の肩をつついてみる。だが、とくに痛みを感じた様子はなかった。響輝はしばらく一樹がつついた肩を見たあと、一樹と視線を合わせてくる。


「そういや、さっきは痛いのわかってるくせに、よくつついてくれたな? ぜひお返しさせてくれ」

 そういった次の瞬間にはすばやく腕を一樹の首に回してきた。


「ちょっ、ごめん! ごめんって! タンマ! 入ってる! 入ってるから」

「おう、当たり前だろ。ガチで締めにいったんだからよ」

「おっけ……おっけ……ぐぇぇ……」


 ほんとガッツリと絞められたあと、ようやく解放された。いやぁ……本当にゆかい。……なんか違う気がする。


 でも、これが現在の雰囲気を和ませる大きな役割を持てたということで、よしとしておこう。こんな風にとにかく、みんなで少しでも笑いながら過ごしていけることが……いまはなによりも大切なのだと思う。


 鍵がまったくない職員室に、開けられない部屋、わからないことはまだまだ増えていく。だけど、それにのまれないよう、必死にあらがう手段として……一樹たちは……無理やりにでも笑顔を絶やさないように……。

 負けないように。



 それから、またしばらく、多目的ホールで日々を過ごすことになっていた。脱出方法の模索を第一と考えていた響輝を中心に、探索を少しは続けた。だが、まともな成果は得られない日々が続くだけ。


 だけど、それに落胆するような者はこの中におらず、むしろ当然だよね、といった雰囲気で受け入れている姿がそこにあった。みんな内心、探索してもなにも得られないと、あきらめムードになっていたのかもしれない。


 そんななかで、まるでそのムードを変えたいように、奈美がある提案をしてくる。

「……まだ少し食料あるけど……これ持って、次の教室に移動しよっか? 次は二階の通常教室棟、四の二教室になるのかな」


 それに異論を唱える者は特にいなかった。なにも変わらない状況を少しでも空気、雰囲気を変えるにはちょうどいい。だれもが、そう思っていたのだろう。

 そうやって全員、また次の食糧場所に向かって校舎内を歩いた。


「なぁ、食べもんがある教室ってあとどれくらいなん?」

 移動中、喜巳花は腕を組んで頭に当てつつ聞いている。奈美は「待ってよ」と言いながらポケットに手を突っ込む。そのまま地図が引っ張り出された。


「……う~んとね。これから行くところを含めたら、あと五か所かな……」


 一樹は腕を組みつつ考え込んだ。

「五か所か……。まだまだ余裕と考えていいのかな……。いや……そういう考えはあまいか……。食料がなくなっても今のままだったら……」


「大丈夫だよ。それまでにはなんとかなるって」

 奈美が一樹のセリにかぶせるよう、そんな言葉を強く言ってきた。


 ただ、まずこのセリフは間違いなく、なにか根拠があってのものではないと言える。一樹が言ったセリフがみんなの不安をあおるものだと奈美に判断された。それを封じるためでしかないのだろう。


 なんとかなる? とてもじゃないがそうは思えない。だけど、それを口にしようものなら、奈美は容赦なく僕の口をふさごうとするだろう。


「いや、でもほんと、そろそろ別の変わったもん食べたいわ。やっぱ、久しぶりに高級おフランス。フレンチのコースとか」


「そもそも食べたことないですよね。そういうツッコミ待ちなんでしょう?」


「……ライトくん。ツッコミするならもっとキレを出してや。うち、滑りかけてるで」


「大丈夫だろ。お前は滑っても平気な顔してボケ続けるタイプなはずだ。今までだってそうだっただろう?」

「ウソやん! いままでは滑ってないやん。……え? うち、滑った? もしかしておもろない? ……うそやん……」


 本当にどうでもいいところで傷つき始めた喜巳花。たぶん、彼女からしてみたら化け物の爪よりずっと鋭い事実だったのだろう。


「大丈夫だよ喜巳花ちゃん。面白いよ」

「ありがとう綺星ちゃん。でもごめんな。なんか、むしろそれつらいねん。同情されてる感が半端ないねんて」


 そんな化け物のことや現状のことなど笑い飛ばしてしまうような勢いでワイワイガヤガヤとする一樹たち。

 そうやって少しでも楽しい雰囲気で目的地へと到着。


 だけど、そんな一樹の空気を一変させるものがそこにはあった。

「よう。久しぶりだな」


「……柳生文音……」

 手を上げるその女子の名をつぶやいたのは響輝。

 一樹たちがたどり着いた四の二教室の中で、その女子児童は不敵な笑みを浮かべつつ、そこにいた。


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