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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第6章 謎と高まる難易度
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第1話 成果報告

 地平線の向こうへ降りていく太陽。その赤い光が多目的ホールの中にもしっかりと入ってくる。

 同じタイミング、一階の探索チームであった響輝たち一行が多目的ホールの中に入ってきた。


「お疲れ様。無事でなにより」

「そっちもな」

 最上級生ふたりがお互い自身とチームの安否を確認しあっている。


 奈美は響輝ら全員の顔を一度見渡し、全員が無事であることを確認できたのかホッと息を吐いている。すると、カーペットの床へ静かに座り、響輝に手を向けた。

「で。そっちはどうだったの?」


 響輝はそんな奈美の差し出した手をじっと見てから、質問で返してきた。

「……自分の報告より先に聞いてきたってことは……、お前のほうはあんまりいい成果ではなかった、と捉えてもいいのか?」


 ……それは残念ながら図星だ。わからないことがわかったと、一言でまとめることができるレベルだろう。

 当然、同じ情報しか持っていない奈美はやんわりと笑って両手を前に出した。


「……悪い情報と、悪い情報……どっちから聞きたい?」


 なんとも間抜けな二択だ。響輝は目をまんまるにして奈美の両手を見たが、やがて自身の頭へと乱暴に手を置いた。

「……よ~くわかったよ。さんざんな結果だったんだな」


「いや、いい情報もあった。もっと悪い情報がないってこと。これはありがたいと思うべきだよ」

 奈美はそう意地悪そうに言い切った。


 ……なるほど、そう捉えるのもありと言えばありなのか……。……現実逃避の術としては実にすばらしい。……うん。


「わかったよ。じゃぁ。次にもっと良い情報を聞かせてもらうか」

「……ならそれはスキップで次に悪い情報を」


 奈美はそう言い、端的にまとめて話して切れた。図書室にあった真っ白のページだけしかない本たち、その意味。そして、三の一教室の開かなかった扉。

 ちなみに、あのあとほかの教室も確かめたが、開かないのはあの部屋だけだった。


 ほかにも、二階には職員室や理科室、ランチルームもあるが、化け物が中に潜んでいた以外、変わったところは特に見られなかった。



「……真っ白な本か……」

 説明を聞き終えた響輝がなにやら考え込むしぐさを見せている。


「ええ本やん。そんなん落書きし放題やで。うち、文字がいくら埋まってても読まへんもん。むしろ、願ってもないわ」


 ……どうも思考回路が少し違うやつもいるみたいだ。ついでなので、ゆかいそうにケラケラ笑う喜巳花に、ひとつだけ持ってきていた本を見せてみた。


「これがその本。使う?」

「落書き帳、持ってきてんの?」


 真っ白な本、もとい落書き帳(という扱いにされた)本を一樹から奪い取る喜巳花。


「ありゃぁ、表紙と背表紙だけ色ついているんやな。でも、タイトルもない。中身は真っ白。……どうみても落書き帳やな。

 いい暇つぶし道具がでてきたやんか」


 そう言って、ひとり本をかかえて机のある場所までかけていく。


 そんな喜巳花の背中を見ていた奈美が響輝のほうへと視線を戻した。

「……で、続いて響輝くんのほう。……成果を教えてもらえる?」


「おう……。せっかくだし、同じ手法を取らせてもらうか……。悪い話とどう反応したらいいかわからない話、どっちから聞きたい?」


 今度は奈美が目をまんまるにさせる番となった。

「……また変わった二択だね……。お楽しみはあとに取っておくよ。悪い情報から聞こうかな」



 というわけで、響輝の話をまとめる。

 まず昇降口は鉄板で完全閉鎖。これが悪い情報。そして、もう一つの情報は地下の存在。お漬け物として、校長室が開いてなかったり、保健室に化け物がいたり、などといった情報添え。


「地下室か……どう反応したらいいのか……たしかにわからないね……」

 頭の中で情報を処理しているのであろう奈美がゆっくりとうなずきつつ口を動かす。


「……どうせ、その扉……力づくで壊すこともできないんだよね?」


「あぁ、銃でドアノブの根本をぶっ放しても無理だった。あろうことか、高森のパンチも耐えやがった」


「……それは……立派な扉ね。こぶしのほうも褒めておくべきかな?」



 ふたりのジョークの言い合いはさておくとして、一樹も一緒になって考えた。

「地下か……。たしかに……もし入ることができたら……、裏口につながっている可能性も……なくはないよね……。

 ただ、開けられるかどうかは……」


「かなり疑問が残りますね。そこらに鍵が落ちているとも思えないですし」

 ライトが指を一本立てて言ってきた。完全に同意見なので、首を振って賛同の意思を示しておく。


 綺星も負けじと輪の中に入ってきた。

「あるとすれば……職員室とかかな? ……たぶん、あるとしたら」

 言ってから自身をなくしたのか、声が小さくなる。


 そんな綺星にフォローを入れるように、奈美がポンと頭をなでる。

「いや、まずその可能性は探るべきかな。まだ、職員室の中は探索ほとんどしてないし。もしかしたら、締まってた三の一教室の鍵もあるかも」


「だな。とりあえず、次の探索場所は決まりだ。新垣の意見を採用だ」


 響輝も綺星の言ったことを認めるような言い方をしてきた。綺星はみんなの役に立ったこと、認められたことがうれしかったのか笑顔を見せていた。


 とは言うものの、誘導する側ではないとアピールするため、綺星の意見に乗った風を装った……と考えるのは……、さすがに行き過ぎか。


「ですね。ひとまず、問題もなさそうですし。それで行きましょう」


「アカン! しもた!」

「「「えっ?」」」


 ライトも同調し、満場一致するかといったところ、急に叫びだした喜巳花。


「なに? ……綺星ちゃんの考え、なにかまずいことでもあった?」

 奈美が少し喜巳花のいる方向へ駆け寄り、声をかける。少し、綺星の表情が曇りだしたようにも見える。


 そんななかで喜巳花は一気にこちらへ振り向き、こう言った。

「ペンがどこにもないから、落書きでけへん!!」


「「「「「クソ、どうでもいい!!!!」」」」」


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