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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第5章 仲間と摩訶不思議な学校
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第5話 たたずむ壁

 鉄板でがっちりと固められた昇降口……もとい壁を前にして三人は立ちすくんでいた。


 本来、昇降口となっていであろう一面はすべて鉄板の壁で置き換えられており、外の光などまるで入ってこない設計。

 取っ手などはいっさいなく、開けることができる仕様でないことは一目瞭然だった。


 下駄箱は空ではあるものしっかりとならんでいるため、昇降口であることには変わりない……。いや、昇降口の定義を下駄箱ある場所ではなく、出入り口とすれば、そうとは言えないか……。


 そんなライトたちの行く手を阻む壁。


 喜巳花がこぶしを鉄板に数回ぶつける。すると大きな鉄板の壁は大きく振動し、音を響かせた。


「……ええ音するな……。求めてるのはそれやないねんけど」

 校内が静かなだけあって、その音はより一層響くように聞こえる。そしてなにより、その鉄板の重厚感がよく出ている音だった。


「これ……厚さはどれくらいなんだろうな……。……ぶち破れると思うか?」

 響輝がその鉄板を触りつつ、移動する。鉄板の壁をそっと投げるようにして眺めていた。


 ライトも自身の身長の何倍にものぼる壁を見上げつつ答えた。

「……いや、無理でしょう。三階のガラスですら割れなかったんですよ? こんなあからさまな壁が破れるはずないと思いますよ」


 響輝はこの答えなどわかりきっていたのだろう。特に表情を変えることなく、響輝も同じく壁を見上げる。

「……だよな。ほんと、あからさまだもんな……。だって、素直に認めているようなもんだぜ? 俺たちを閉じ込めるための設備だってな」


 と、お互いに顔を見合わせてそんなことを話しているときだった。ふと、急に話をしている横から聞こえてくる。


「せいやっ!」

 ガンッ!!

「……いっ……たいなぁもう!」


 パンチを壁にぶち当て、痛がっている喜巳花の姿があった。もう、なんというか……滑稽。……てか、もう見慣れた。


「……それ。お前の持ちネタなのか?」

「……一応、やっとこうかなと……」


 ……この子はいったい、どういう思考回路しているのだろう。頭が筋肉でできていて、ものを確認するためにまず殴るというアルゴリズムが形成されているのではないだろうな。


 ……一応、ためしてみようかな……。

「どうせ確認するなら、銃で撃ちぬいたほうが安全かつ、よりしっかりと確認できたと思うのですが?」

 喜巳花の近くによって顔を見上げる。


 すると、喜巳花はまだ痛いらしい、壁を殴ったこぶしに息を吹きかけ振りつつ答える。


「まぁ、どうぜ無理やろうって思ったもん。それに、鉄板やったらむしろ弾の跳ね返りのほうが怖ないか? 跳ね返って自分あたったら世話ないやん」


 その解答に思わず口をとがらせる自分がいた。

「……それはそうですね」

 ……ほんとこの子の思考回路はどうなっているのだろう。つながっている部分とつながっていない部分の差に落差ありすぎるだろ。


 響輝も喜巳花の行動に感心を覚えたのか、後ろは小さく頷いていた。


 しばらく、黙って壁を見上げる時間が続いていたが、やがて響輝が腕を組みつつ、近くの下駄箱に背中を預けた。

 もたれかかったまま、ライトと喜巳花を順に見てくる。


「で、このあとどうするよ? 化け物の侵入口かと思ったのはまるっきりはずれだったってこと以外、まるでなにもわからないってことがわかっただけだが。

 自分で説明してなんだが、ほんと、振り出しに戻った気分……」


「振り出しって、一マス進んでて、一マス戻っただけやん」

 喜巳花のツッコミに響輝は一瞬、目を丸くし視線を逸らす。

「……鋭いツッコミぶち込んでくるのやめようか」


 鋭いというか理不尽というか……、身もふたもないというか。

 ただ、さっきから喜巳花が言っているセリフはすべて実に的を射ていて、状況を的確に見ることができていると思えていた。


 このままふたりに任せてもいいとは思う。しかし、冗談も含まれてはいただろうが、司令塔を任されているのも事実。

 話を進めるため、提案をしてみようとした。


「ひとまず、選択肢はふたつですね……。このまま探索を続けてみるか、一度引き返すか……どうします?」

 これを言って、また誘導していると疑われるのではと思ったが、喜巳花も響輝もそこに突っかかるようなことはしなかった。


「だったら、俺はこのまま探索を続けたいな。別にまだ危険な目にもあってないし」


 どうやら、響輝にとっては、もうすでに化け物と出くわしたことは危険のうちに入らなくなっているようだ。


「三好も二階を探索してるんだから、同じようにすればいいだけの話だ。なにより、脱出できるとすれば一階が一番可能性の高い場所なんだ。ほかに、出口がないか探すのは優先すべきことだろう」


 響輝の提案に喜巳花もしっかりうなずきを見せている。


「それはそやね。裏口とか以外なところにあったりするかもしれんしね……。たぶん、どこにも出口がないなんてことはさすがにないやろうし。

 でないと、うちらがどっから入れられたんやって話やしな」


 そうやって喜巳花も響輝も現実にめげずに次の一手を考えて目指す。……すべては……ここから逃げ出すためか……。


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