表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第4章_探索と積み重なる謎
21/168

第2話 注射器の出どころ

 食事もひと通り終わると、ひとまず休憩という雰囲気になった。それぞれがバラバラに散らばり、おのおのの時を過ごす。


 だけど、奈美は休憩という感じには程遠い雰囲気で、ずっと綺星の近くにいた。いつもは綺星が奈美の近くにいるといった感じだったが、今日は反対に感じられる。

 奈美が綺星を気にかけているよう。


「おい、三好……」

 響輝も奈美の様子に違和感を持ったらしく、近づいて声をかけていた。


「昨日の晩、化け物と戦闘をしたって話だったけど……、本当にそれだけなのか? ほかになにかあったんじゃねえか?」

 響輝はそう言いつつ、綺星に視線を向ける。


「新垣……お前、昨日とはなんか違うよな?」

 奈美はうつむいたが、綺星はむしろ顔を上げて響輝と視線を合わせた。


 綺星と響輝、互いに目を合わせつつ沈黙が続く。少し離れたところでその様子を見ていると、綺星がふと小さくつぶやいた。

「……変身」


 突如、綺星の体に変化が訪れた。綺星の手が赤い毛におおわれ、皮膚の一部が青く変色。その変化は、柳生文音のものと全く同じものだった。


 遠くで見ていた一樹でさえ思わずぎょっとしてしまったのだ。間近で見ていた響輝ははっきりと驚きを見せて、大きく後ろに下がっていた。話を聞いていなかった喜巳花とライトの視線も綺星がかっさらっている。


 ただひとり、奈美だけはそんな綺星の姿をむしろ、真剣な表情で見ていた。驚きもせず、綺星と視線を合わせる。さらに、ポケットから小さめの注射器をそっと綺星の前に置いた。


「あたしも気になるな……。くわしく、聞かせて貰えるかな?」


 綺星はコクリとうなずく。そして、化け物じみた姿からもとに戻りつつ、昨晩あったことを話してくれた。



 綺星の話が終わるころ、全員の表情はなんとも言えないものとなっていた。


 内容をまとめると、柳生文音に助けてもらって注射器をもらったと。しかも、それを体内に注入したら、さっきの化け物の姿と力を持てるようになった……。


「……そもそも……この注射器って……なんなんだよ」

 響輝は話を聞き終えたあと、床に転がされた注射器を手に取り眺める。一樹も近くによってその注射器を見てみた。


「見た感じは普通の注射器かな。インスリンの注射器みたいだね」

「インスリン?」

 何気なく言った単語が響輝には引っかかったらしい。


「え? ……うん、たしか血糖値を下げる薬だった気がする。日常的に使う注射器だし、患者自身が使うやつだから、痛みが少ない注射器になってるはず」


 だけど、なぜあの小さな注射器が人の変化をうながすのか……、それはわかるはずもない。……たしかインスリンはホルモンのこと……、同じようにホルモン?

 ……いや、そもそもホルモンってなに? 教えて先生。


「……それも本の知識なのか?」

「う、うん。……そうだよ。どっかで読んだ……と思う」


 たしかに本で得た知識だったと思っている。でも、具体的にどんな本から得た知識だったかと言えば……。……そもそも……なんで、インスリン注射のことが載っている本など読んでいた?


 奈美が横から注射器を手に取り立ち上がる。じっと空になった注射器を眺めつつ図工室の中をうろつき始めた。

「だいたい……この注射器って、どこから手に入れたんだろう。文音ちゃんが持っていたんだよね。あの子はどこから」


「その注射器のことが気になるのか?」

「うぁあいっ!!」


 突然、奈美の後ろから声が聞こえていた。声をかけられ、一番驚いていた奈美が前のめりにこけつつ振り向く。

 そこには腕を組み壁にもたれかかる文音の姿があった。


「……え? ……いつからそこに?」

「さっき入ってきたばかりだ」

「……そ、そう……」


 壁から離れ、唖然とする奈美の横を通り抜ける文音。一度綺星に目を向けた文音は小さな笑みを浮かべる。

 そのまま、ゆっくりと一樹たちの周りを回り始めた。


「おい、注射器のこと、聞いたら……教えてくれるのか?」

 響輝の問いに文音は奈美の手から注射器を取りつつ言う。


「もちろんだとも。と言っても、大した話にもならないぞ。何度も話している通り、君たちが使うシステムと変わりはない。

 この注射器も視聴覚準備室にあったものだ。アーマーやローブのシステムのとなりに置いてあったものに過ぎない」


 視聴覚室でシステムを見た時のことを思い出す。


 ……そういえば、準備室にはショーケースが三つ並んでいた。プットオンのリストバンドとドレスアップのウエストポーチがそれぞれケースに入ってあった。そして、もうひとつ空のケースが横にあったと思う。


 それどころではなかったし、特に気にしてはいなかったが……。


 響輝が鋭い視線で文音に質問を投げかける。

「……いつ、その注射器を取った?」

「君たちが視聴覚室で映像を見ていた時だったかな」


 響輝はふと目を見開き一歩、文音に近寄った。

「……なら、準備室に入った時に感じた気配は……お前のものだったってことじゃねえか!?」

「っ! そういえばそやった!」


 たしかに……初めて準備室に入ろうとしたとき、響輝は「だれだ!」と叫んで、出口のドアあたりまで駆け寄っていた。あれは、文音のものだったと……。


 そして……、その時に注射器を持って出ていった……。いや、その変身システムの説明用DVDも含めてか……。


 奈美も思い出したようでうなずくしぐさを見せたが、すぐに首を傾げさせる。

「でもそもそも、なんでそんな行動をとったの? 本当にあたしたちと同じ立場だというなら、一緒に視聴覚室にいたんじゃないの?

 なんで、そんな風に別行動をとっているの?」


 文音は足を止めてしばらく黙り込む。そして、不敵に笑って見せた。

「それは……いまはまだノーコメントにさせてもらうとするよ」


 ノーコメント……やはり、文音はなにかを知っている。そして……隠している。だとすれば……なぜ隠すのか……。だいたい、同じ立場だというのに、なぜ文音だけ持っている情報が多い?


 どんな可能性を持っても、文音という存在は明らかにあやしい。


 文音は沈黙してしまった一樹たちを見渡す。

「あれ? 結構ピリピリしてきたな。ノーコメントというのは気に障ったか? ならちょっと面白いことを話してやろう」


 文音はその場にしゃがみ込み、注射器をこの場にいる一人ひとりに向けながらこう言った。

「この中に『裏切者がいる』って言ったら、笑うか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ