第9話 みんなと一緒に
突如こちらに向かって襲ってきた弾頭ミサイル。それは、一樹たちの頭上を越えて、上空に停止していたヘリに直撃する。
想定外のターゲットに、瞬間的に唖然としてしまった。
「……へ? ……なんで?」
真っ先に振り向いた奈美。
遅れて、ほかのみんなの首も後ろに向く。そこには、先のヘリと同じように火を噴き、姿勢を崩していく味方のヘリの姿があった。
「……あぁ……、……最悪だ」
壁の向こう側へ墜落し消えていくヘリを見て、うなだれる。
一方で、この攻撃をおこなったのであろう正体が一樹たちの頭上を轟音とともに高速で通りすぎていく。
……ジェット機……、戦闘機だ。
戦闘機から生まれる衝撃波に、全員しゃがみ込み、耳をふさぐ。旋回しつつ上昇していく戦闘機の音とともに、壁の向こうで爆発音が聞こえた。
そして、一樹たちは離れていく戦闘機を見送るように、ただ眺めるしかない。……なにも……動けない。
「……僕らの味方をしたばかりに……」
せっかく、一樹たちの味方が現れたと思ったのに。
……おそらく、あのヘリだって、一樹たち側に加担しなければ、落とされることもなかった。
「……クソ……さすがにやるせねえな」
こぶしを握り締め、怒りをあらわにする響輝。
あのヘリの搭乗者と関わりがあったのであろう、文音と綺星はかなり、ショックを受けているようだった。
顔をうつむかせ、ヘリが墜落した場所から目をそらしている。
一方で、喜巳花がまた柵に近づいた。
「……あっ! ……あの人たちが……!」
さっきまで抗議していた人たちがいた場所を指さす。そこには背を向けてここから逃げ出す人間の姿があった。
さっきまで、壁が崩壊しようとも抗議し続けた数人の人間も、慌てて逃げ去っていく。
そりゃそうだ。戦闘機のリアルな攻撃を目にして、なおも抗議し続けるやつがいれば、そいつは勇者じゃなく愚者だ。
まして、一樹たちに加担していたヘリが打ち倒されればなおさら。
全員、意識消沈といったところ。喜巳花が今度、地平線のほうに腕を伸ばす。
「ウソ……待って……! 戻ってくるっ!?」
反射的に顔を上げ、空を見上げる。……たしかに戦闘機がこちらに向かってくる……。いや、だけど……。
「……違うっ! あれ、もう一機だっ!」
そう言ったときには、すでに戦闘機から弾道ミサイルは発射された。ふたつのミサイルがこちらに向かってくる。
今度の狙いは……一樹たちかっ! いや、
ミサイルはこちらに向かってくるかと思ったが、その目標は少し下。だが、そんなことを思っているうちに、この学校の壁に思いっきり着弾。
建物全体が激しい音とともに大きくゆれ動く。
「きゃっ!?」
「なんだっ!? 学校ごと吹っ飛ばすつもりかっ!」
ミサイルを放った戦闘機は旋回したかと思えば、また別の方角からミサイルを発射。
「ふせろっ!」
そのミサイルも学校の壁に容赦なく着弾。それにより学校が崩壊し始める。
「……本当に……学校ごと飛ばすつもりなのかも……」
そんなことを言っている間に屋上が、床がひび割れ避け始めた。慌ててみんな足を退けると同時、居た場所が崩落していく。
「……っ! 離れてっ! 逃げてっ!」
奈美が必死に叫ぶもみんなパニック状態。どこに!? どうやって!? そんな殴り合いのような会話しかできないでいる。
そんな中でも、一樹の耳に入ってくる音に気づき、上を向く。
「上だ! 上から来るぞ!」
さっき、ヘリを攻撃したほうの戦闘機が頭上に。明らかにこちらに向かって急降下してきている。
「待って! 待って! 待って!」
「話し合いとかしようぜ、なぁ!」
奈美と響輝が両手を振って制止を求めるが、当然それを聞くような相手ではない。容赦なくミサイルを切り離すと飛行機は急降下の軌道から離脱。
ミサイルのほうは火を噴き、さらなる急降下。それは間違いなく、一樹たちをロックオンしている……。
「……お……終わった」
逃げる間もなかった。
ミサイルは一樹たちの間を縫うように、床へ着弾。至近距離からの大爆発とともに、床は完全に崩壊。
体が宙へと投げ出された。
踏ん張りを利かせる床もなく、ただ落下するだけ。崩れ落ちていく床とともに、地面に向かって真っ逆さま。
視界には、飛んで離れていく戦闘機と、悔しいほどに青くきれいな空。そして、まだまだ、届いてくるミサイル音。
そして、視界がゆっくりと狭まっていく感覚におちいった。
もう、空中では逃げられない。……終わりだ。この実験場とともに、がれきの中に埋もれ、人間の手によって、木端微塵に吹き飛ばされて終わり。
狭まっていく視界に押されて、もう目を閉じかけていた。
だが、直後。
「っ……!!」
一樹の右手がだれかに握られた。ふと、閉じかけていた目を再び開け、となりを見ると、そこには奈美の手が。
奈美は宙に投げ出されながらも、精いっぱいの笑みで、一樹の右手を左手でしっかりと、握り締めてくる。
「はっ!」
思わずもう一方、左手を伸ばした。すぐ近くにいた綺星の右手を握り引き寄せる。
綺星は一樹の顔を見ると頷く。
綺星は文音の左手をつかみ、文音は喜巳花の左手をつかむ。喜巳花は響輝の左手をつかみ、響輝は奈美の左手をつかむ。
全員の手がつながり、宙にてひとつの輪になった。お互いに体を引き寄せ。身を寄せ合う。
落下中、なぜか時間がゆっくりと、流れるような感覚におちいっていく。
建物の崩壊と爆発が一樹たちを囲う。落下に伴う風圧が一樹たちの体を襲ってくる。
そんな中でも、六人の手はつながる。体を引き寄せあう
落下、二秒にも満たない時間のはず。でも、たしかに、今ここで全員一緒に……ここに……いる。
絶望しかない。希望の光なんて、どれだけあがいても見えやしない。闇の向こう側に行っても、光は見えなかった。
だけど、まだあきらめない。お互いに強く手を握り締め、その意思を確かめ合う。
まだ、絶望するわけにはいかない。
またミサイルの音が近づいてくる。そして、地面に激突するか否かといったタイミング。
強烈な衝撃と光に包まれた。
垣間見えたみんなの笑みとともに……すべては……光となった。