第7話 僕らの味方
学校、実験場の上空。ふたつのヘリが互いを攻撃しあう状況。一樹にはこの状況の意味に検討がつかない。
だが、文音と綺星は、なにか反応が違う。
騒音で、はっきりと文音たちのつぶやいた声が聞こえたわけではない。だけど、なにか察しているのは間違いない。
「……文音ちゃん!? なにか知ってるの!?」
絶え間なく続く騒音の中、声を張り上げて聞く。
「はっきりとはわからない! だけど、たぶん……、あれは。わたしたちを組織のヘリかも……っ!。
いや、わからないけど。可能性としては」
「……組織?」
……複雑な事情があるらしい。だけど、その話を詳しく聞く暇はなさそう。
「……それって、あたしたちの味方ってこと!?」
次に奈美がそう言うと、文音は少し首を傾げさせる。
「さぁ、……どうだろうな」
「味方だよ! 味方!」
文音の隣で綺星は強くそう口にする。その目は、たぶん、とかではなく、はっきりと信じている目のように見える。
「……味方? ……俺たちの!?」
「物好きややっちゃね、あのヘリは……、え? どっちのヘリなん?」
「……どっちか。どっちかは知らない」
言っている間にも、ヘリ二体の攻防は続いている。少なくとも、これを見る限り、どちらかは一樹たちをかばおうとして攻撃しているように見えなくもない。
……この一樹たちに、味方をしてくれる人たちがいると? ……本当に? 一樹たちのために戦ってくれる人間がいるのか? ……組織があるのか?
「……あたしたち……助かるの?」
だが、事情を知ったところで、どうすることもできない。ただ見守るしかない中、片方のヘリが動いた。
なにやら、中から人がひとり出てくる。その手には巨大なロケットランチャー。ヘリや銃声の爆音にも負けない発射音とともに、ロケットが飛び出す。
それは、もう一方のヘリに着弾した。攻撃を受けたヘリはそのまま大きく姿勢を崩し始める。
その軌道はもう、飛行限界を迎えているように見えた。
「……ど、どっちがやられた? 味方か? 敵か?」
響輝が文音に聞くが、文音は首を横に振るだけ。どっちかまで、区別はついていないらしい。
態勢を崩したヘリが空で回転し始める中、ロケットランチャーを撃った人間がヘリの上から、こちらに目を向けてくる。
遠目ではあるが、第一印象としては厳つい雰囲気の男と言った感じ。仲良くしましょう、と言ってくれるような人ではなさそうだが。
「……やっぱり」
「ね? 味方だよ!!」
この人が……味方。……どういう人望を持っているんだ、このふたりは……。しかし、本当のことなら……これは……。
「おーい! おーいっ!」
味方だと信じ切ったのか、奈美がヘリに向かって手を振る。すると、となりに立った綺星も真似するように手を振りだす。
別に味方らしき男が手を振り返してくる、なんてことはない。持っていたロケットランチャーを下ろしつつ、見下ろしてくるだけ。
ただ、こっちを攻撃してくる様子はない。
「待って、あのヘリ、落ってくるで!」
突如、喜巳花が叫んで指さしたのは、攻撃を受けたヘリのほう。上を見上げると、そのヘリは炎を服ながら回転しつつ、落下し始めていた。
「……おい、……これ、どこに落ちる?」
上を見上げる響輝。そう言っている間にもヘリはグングン降下してきている。
「みんな、しゃがんで!」
奈美の指示とともに、全員一斉にしゃがみ込んだ。ヘリが近づくに伴い騒音もまた大きくなる。
それに耳をふさぎ耐えつつ、待つ。
すると、ヘリの落下角度が分かってきた。ヘリは炎を挙げつつ、一樹たちの頭上ギリギリのところを通過。
本体は激しい音とともに、この学校を囲む壁に激突した。
「……おぉっ!?」
今まで耳にしたことのないレベルの衝撃音に、驚きを隠せなかった。壁にぶつかったヘリはそのまま大爆発。
鉄の塊がバラバラに散らばっていく。
「……あっぶねぇ……。ギリギリセーフだったな」
爆発したヘリのほうへ少し近づいていく響輝。
響輝は随分と余裕そうだが、一樹はちょっとビビっていた。たまたま外れたからよかったものの、もし直撃してたら、一樹たちでも一撃でやられていた可能性がある。
本当に、ラッキー。
「おい……、見ろ」
そんなことを思っていると、ふと響輝が壁を指さして言った。
「壁、崩れるぞ」
それは、墜落したヘリがぶつかった壁。衝撃に耐えきれなかったのか、ヒビができ、パラパラと残骸が落ち始めている。
「あっ……」
それからというのはあっけないものだった。もともと高くて幅もある壁。重さによるのか、崩れ始めたら止まらない。
思ったよりもゆっくりと、だが確実に、目の前の壁が一部、崩壊していった。
ヘリの騒音とは全く違う、重い音。視界に土煙が舞う。
「……えぇもん見れたな。こりゃまた随分と悲惨な」
「この壁が壊れたところで、今更だがな。せめて、脱出しよう、って時に壊れてほしかったものだ」
喜巳花と文音、屋上の柵に腕を乗せつつ、一部崩壊した壁を見物している。
どうやら、完全に崩壊するほどにはいたらなかったようだ。
「あれ? ……ねぇ! あそこ見て! 人がいるっ!」
急に綺星が、屋上から乗り出すように柵へ近づく。かと思えば、崩壊した壁の向こう側を指さしだした。
まだ、視界は土煙が残っている中、綺星の指差す方向を見る。たしかに、そこには人が十数人存在していた。
この壁の結果に恐れたのか、大半の人間は背を向けて退散しようとしている姿に見える。だが、一部はいまだに、こちらに向けて何やら叫んでいる様子。
上空に陣取るヘリが騒音を出しているため、彼らの声までは聞こえてこない。だけど、確実に一樹たち、いや、この施設に向かって言葉を発している。
「なんやあれ? うちらを始末せえってか?」
ここで、人間が抗議することとなれば、喜巳花が言ったことが真っ先にあげられる。
しかし、彼らの手に持たれているプレートや、布に書かれた文字を見て、抗議内容がそれではないことを理解した。
あくまで屋上から離れた地上にいる人間の持つもの。遠目からでははっきりとそれを認識するのは難しい。
でも、その雰囲気は……なんとなく伝わってくる。
「あの人たち、訴えているの、僕たちに対してじゃない。……国に対してだ」