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第6話 屋上の上空

 ***


 一樹はもうろうとする意識の中で、綺星、そして文音もこの視聴覚室へ入ってくるのをしっかりと確認していた。

 そう、六人、全員がここにそろったのである。


 その中でも特に涙ぐんでいる子がいた。

「文音ちゃん……」

 奈美である。

「みんな……」

 あたりを見渡し、全員がいることを確かめる奈美。


 すると、もう力などもうないはずなのに、近くにいる綺星に近寄っては抱き着きだす奈美。

 対する綺星はもう、限界と言わんばかりに奈美の腕の中に崩れていく。


 そんな奈美の姿に、ここにいるみんなの表情に笑みが見え始めた。疲労感は隠せないものの、無理した笑みではなく、自然と出る笑み。


「お前の約束通り。……みんなそろったな」

 響輝がいつになく優しく奈美に声をかける。


 しかし、奈美は少し表情を曇らせ首を小さく横に振った。

「……ううん。……本当は、もうひとり居るんだけどね……。ライトくんが……」


 その奈美の言葉に全員、シンと静かになる。奈美が言ったライトは、むろん、さっき戦ってきたオリジナルライトのことではない。


 ここで、一緒に生き、最後一樹たちを助けて……死んでいった子。当然だけど、ライトはこの場に集合できることはない。


「無茶を言うな。六人、またそろえた。……ふぅ……十分だろ」

 文音も、もう立っていられないと、近くの壁にもたれかかり、座り込む。そのままゆっくりと目を閉じる。

 文音ももう、かなりまいっているらしい。


「……だよね」

 奈美は複雑そうな表情は変えないままでも、綺星を自分の手から解放した。そのまま、脱力するように床に転がり込む。


「……」


 ここにいる全員、だれひとりとしてもう、動ける様子はなかった。すでに外は真っ暗。夜の時間帯になっている。


 そう思えば、とんでもないレベルで睡魔が意識を奪い始めた。それはとてもじゃないが、抗えるものではない。

 もう、そんな体の反応に、すべてを任せ、コクリと眠りこけた。



 次に目が覚めたのは、耳障りな音がしばらく、ずっと耳に入り続けてからだった。遠い音ではあるが、バラバラバラと音が聞こえる。


 それを聞いていると、意識が戻ってきて、少しだけ体を起こした。すると、すでに起きていた奈美が目に入ってくる。


「おはよう。一樹くん……。もう大丈夫?」

 奈美は壁にもたれかかって座ったまま。だけど、表情から幾分疲れは取れているように見える。


「……うん。……なんとか」

 まだまだ疲労感はぬぐえない。空腹と喉の渇きもひどいし、お世辞にも元気だとは言えない。


 だけど、文字どおり死んだように眠りこけ、少しは体力が戻ったように思えた。下手すれば、久しぶりになにも意識せずぐっすり寝たとさえいえるほど。


 そんなことを話していると、ほかのみんなも続々と起き始めた。みな、まだまだ全快には程遠いようだが、いくらかマシのよう。


 その中で文音は少し顔を上に、天井に向けた。

「……この音は……ヘリコプターか」


 一樹が真っ先にうなずいた。

「たぶん。僕らを追ってきたのかな?」


 そうだ。どこまで行ったって、逃げ場所なんてない。ここだって、どちらかと言えば、ネズミホイホイみたいなもの。

 安住の地ではない。


「でも、どうするつもりなんだろ」

 綺星がボソリとつぶやく。

「ヘリからまた、あの人たちが襲ってくるのかな?」


 響輝が少し意地悪そうに笑う。

「俺たちをお出迎え、してくれるかもしれねえぞ」


「鉄の天使があの世へのお出迎えって? それはロマンチックな話だね」


 奈美がそう皮肉めいて言うが……。

「……あながち間違ってない例えな気もするな」


 と、そんなことを話している時だった。唐突にほかの音が割って入るように聞こえてきたのだ。

 それは一言にいえば、銃撃音。


 だけど、そんなレベルの話ではない。やたらと激しい音が何重にも重なって騒音となり、校内にまで届く。


「……なに? ……なに?」

「襲撃か……!」


 奈美と響輝が真っ先に視聴覚室の扉の前で構える。やつらが潜入してきたということなのだろうか。


 いや……。

「これ、外の音だ」

 もし、彼らが潜入してきたとして、彼らのターゲットはすべてここにそろっている。

 だとすれば、この銃声は一樹たちを狙ってのものではない。


「……じゃぁ、……なにを……だれが攻撃されているの?」

 


 真っ先に立ち上がったのは文音だった。

「……ちょくせつ屋上に行って、確かめるか」

 少しふらつきながらも、ひとり視聴覚室を出て歩いていく。


 一樹たち六人は、しばらくお互いに顔を見合わせたが、やがて彼女を追いかけるようについて行くことにした。


 屋上につながる階段の前に立つ。ドアは開いており、外の光が中にも入ってきている。だが、人間が入ってきた様子も、入ってくる様子もない。


 ただ、激しい音、銃声だけが確実に外から聞こえてきている。


「……ここからじゃ見えないな」

 躊躇なく進んでいく文音。階段を上って、最初顔だけ屋上につながるドアから出した。

 そして声を漏らす

「なんだ?」


 少し離れた後ろから奈美が声をかける。

「……どしたの? なに?」


 しかし、奈美の言葉に対して振り向くことはなく、ひとり先に屋上に出てしまった。


「おい、文音!」

 続くように響輝が屋上、外へ。それにつられて、全員が屋上へと出た。



 そして、そこに広がっている光景は……。

「……どゆこと?」


 たしかに上空にはヘリがいた。それも二体。ここまでは想定通りだった。だけど、そこから先は違う。


 なんと、その二体のヘリはお互いに攻撃をしあっていたのだ。激しい銃撃音は、ヘリ同士の攻撃によるもの。


 なんでヘリ同士で? しかも、この上空で? 疑問が次から次へとわいてくる。だが、その中で、文音と綺星だけは、少し違う表情を見せていた。


「……あれって……」

「……あぁ、あの人らだ」


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