第4話 戻ってくる
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荒い呼吸、足取りも重く、足を引きずりながらも歩き続ける一樹。太陽はもう、沈みかけている最中、ある森の中へと入っていった。
「……ここだ……。間違いない……」
確信し、ひたすら歩き続ける。
本当に武装した人たちは町に追い込んだ一樹たちを容赦なく撃ってきた。
数発当たった程度で、一樹の体が致命傷になるわけではない。ただ、何度まいても、追ってくるのにはもう、まいっていた。
時には逃げて、時には返り討ちにして、なんとかここまで、たどり着き、今がある。
歩いていると、ふと近くにあったゴミ山に目がいった。それがあそこを出た直後、見つけたゴミ山と一致。
ならば、もう。
ふと、ずっとうつむきがちだった視線を挙げると、大きな壁が見始めていた。大きくそびえたち、ある物を覆い隠すもの。
「……はぁ……」
本当に高い。この世界の街並みを見てきたからこそ、よりそれを実感できる。建物を覆いつくす壁というのはどう考えても異常だ。
でも、それが事実で目の前にある。
目標はもうはっきりと目の前に映っている。まずは、壁に向かって足を引きずりつつも、近づいていった。
もう、とにかく最後の力を振り絞るように、壁際近くに生えている木にしがみついた。
自分でもなにをやっているんだろう、なんて思いながらも木を登り続ける。腕で体を引き上げるたび、足をかけてるたび、痛みが走る。
それに、歯を食いしばり耐えつつ登り、木の頂点に達することができた。
視界に広がるこの世界の土地。そして、視線のムキを少し変えれば、見えてくるのは壁に囲われた向こう側。
一樹たちが……生まれた場所。
「……せっかく脱出できたのに……戻ってくるなんて」
この中にいてても変わらない。絶望しかない。だから、希望の光を追ってこの壁を超えたはずだった。
でも……、今はこの壁の中に戻ろうとしている。
もともと、外に出ようとしたのも、絶望の中の向こう側にあるかけらもないほどの可能性を追ってのものだった。
ある意味では、この結果は必然だったのかもしれない。
「……行くか」
頑丈そうな枝を足場にして、しならせる。勢いをつけて壁に向かって飛びついた。が、……。
「や……ばっ!っと!」
体力も随分と落ちていたため、思ったほど力が入らなかった。壁に届くか届かないか、ギリギリのところ、体が浮遊。
「……ぬぉぉ……」
手を伸ばし、かろうじて壁に手をかけることができた。
勢いのままずり落ちかける体をなんとか、手でこらえ、引っ張り上げる。足を上げひざをなんとか壁の上に乗せ、登りきることができた。
「……はぁ……はぁ……あっぶな……。……セーフ」
バクバクする心臓をそのまま、空を見上げた。
こんなことをしているうちには、もう太陽はもうほぼほぼ沈みかけている。これ以上暗くなると、周りが見えなくなる。
行くなら今のうちか。
本当はひとつ休憩を入れたかったが仕方ない。立ち上がり、今度は壁の内側にある学校の屋上へと視線を向けた。
屋上に、だれかが立っているわけではない。まだだれも来ていないのか、中にいるのか。
「……よし……飛ぶぞ……飛ぶぞ……」
さっきので足がすくみかけているが、なんとか呼吸を整える。今度は足場はしっかりあるし、着地地点も広い。
とにかく全力で飛ぶのに。
「……うぅ……りゃぁあっ!!」
壁の上を帰り上げると、全身が一気に浮遊感に包まれる。今度は力加減もうまくいき、無事に学校の屋上へと転がりつつ、着地できた。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
一安心、あらためて大きく息を吐く。
にしてももう、限界だ。全身がきしむし、お腹も減った。食べるものといえば、果物か水。まともな休憩もないまま。
「……そう言えば……建物の中の食料、まだ食べつくしてなかったよな……」
しゃくな話だが、今はありがたい。
もう暗くなった空の下、足をゆっくりと持ち上げ、かすかな視界とともに、建物の中に入れる扉を捜し歩く。
そして、すでに開いていた扉を見つけ、中へと入っていった。