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第3話 人間と化け物

 ***


 喜巳花はひとり、力なく町中を歩いていた。

 本来であれば、絶対に避けるべき行為。そんなことをすれば、たちまち町は大騒ぎになり、とんでもないことになる。


 なのに、今はその心配もなさそうな雰囲気におちいっていた。


 町は実に閑散としている。朝と昼のいった時間。時間帯的にも住宅街の人通りは少ないのかもしれない。

 でも、この状況はそれだけが理由ではないように思える。


 どこもピシャリとドアも窓も閉め切っている。中には天戸を張っているような家も。むろん、天気はいい。強い風が吹いているわけでもない。


「……ま……当然やね」

 歩いていると、さっきも見た壁に貼ってあるチラシが目に入る。それを通りざまに破り取ると、ビリビリに破いて投げ捨てた。


 あのチラシにあるのは、喜巳花たちの顔写真。町にこんな化け物が出現していると、はっきりとこの国が認めた。


 結果、人々は警戒し、家にこもってしまっている。


 このパニックは相当なものだろう。この後、あの研究者たちや、国は様々な追及に合うことだろう。

 だが、国はそれを覚悟して強行手段に出たのだ。


 たぶんだけど、人間は喜巳花たちを意図的に町中に追い込もうとしている。森の中に逃げられると、喜巳花たちに有利。逃げやすい。


 だから、この事実を公表してでも、町中に誘い込んだ。


「……」

 ふと視線を挙げると、二階の窓から覗いてくる目と合ってしまった。直後、その目は部屋の奥へと消えて、カーテンが掛けられる。


「……まぁ、こういうことなんやろね……」


 町中であれば、森より隠れる場所、移動できる場所が限られる。おまけに、人間という強烈な監視が付きまわっているんだ。


 森は喜巳花たちにとって、生きる上でまだマシな環境だった。だけど、そこには入れず、強制的に町中へ。

 そして、人間の住む世界に、喜巳花たちの居場所はない。


「……っ!?」

 手前の角の先のほうから、人間の足跡がかすかに聞こえた。この状況じゃ、まず武装兵。


 おそらく、喜巳花を見た人間が場所を通報する形をとっている。このままじゃ、確実に来る。


 そう感じると、一気にUターンして道を駆け出す。すると、一斉に向こうから近づいてくる音。


「くっそ、なんやねん! これ!!」

 一斉に放たれる弾丸。町中であろうと容赦なく放たれる弾丸んが、喜巳花の足元にまで迫ってくる。


「プットオン!!」

 システムを起動し、跳躍。攻撃から逃げていき、近くのっ民家の屋根に降り立った。


 だが、直後。

「なんか乗った!」

「上! 上!」


 屋根の上からでも聞こえてくるとでもない大声。この下の人間がもう大騒ぎ。意味などないだろうが、ドタンバタンと音が聞こえる。


 しかし、恐ろしいのは武装兵だった。ここは民家の上のはずだ。なのに、武装兵は躊躇なく、喜巳花に照準を合わせてくる。


 気づき慌てて屋根の陰に隠れると同時、一斉発砲。喜巳花の代わりに、瓦がいくつも吹き飛んでいく。


「……ひどない!?」

 思わず声を挙げる。

「普通の民家撃つどか、自分らどうかしてるで!!」


 だが、顔を挙げた瞬間、また発砲され慌てて顔を引っ込める。残念だが、化け物の言葉は通じないらしい。


 想像通り、民家の人たちはさらに大騒ぎ。だが、この人たちはこれもすべて、喜巳花がやっていることと捉えているみたい。

 ……当然だ、同じ人間が自分の家を撃つなど思うはずがない。


「……ほんと……最低……」



 ***


 全身に傷を負いながらも、荒い呼吸を繰り返してなんとか、響輝は立っていた。近くには武装した人間たちが転がっている。


 人々の生活圏、町中で襲ってきた奴らを返り討ちにした結果だ。逃げ回るのはやめて、転じたが……、これで何度目だ……。


「はぁ……はぁ……、何度も何度も襲ってきやがって」


 しゃがみ込み、倒した武装兵のひとりの胸ぐらをつかみかかる。

「おい、てめえ。あの場所はどっちだ! どっちの方角にあるか言え!」


「……、あ……あの……場所?」


「てめえらが俺らをぶち込んでたあの場所だよ!」

「……し、知らない……」


 もうろうしている男は力なく首を振る。口を割るつもりはないらしい。なので、男の腕に足を踏み下ろした。


 当然、男は悲惨な叫び声をあげる。それにかまわず、続けた。

「もう一度言う。実験場はどの方向にある!?」


「……あ、あっちだ! あっち!」

 指を一瞬、指さす男。だが、すぐに響輝が押し付ける足をもう片方の手でポンポンと叩く。ギブアップとでも言いたいらしい。


「……なるほどな」

 足をどけつつ、指さした方角を見た。ここまで何人かに聞いたが、概ね食い違いはない。ウソではない。


 これで行く方向は確定だ。


「……わりいな」

 横たわる男にそう声をかける。そのまま、今度はすぐ近くに寝転がる別の男の横に行った。


 そのまま勢いよく腕を蹴る。当然、男はそれにうめき声。

「なっ!?」


 驚きを挙げるまだ、無事なひとりのほうへも近づいた。

「本当に悪いな。俺たちはどうやら、化け物らしい」

 それだけ言って、その男の腕もへし折った。


「……、……。本当に申し訳ないよ」

 ここで無事の状態で見逃したら、またこいつらは響輝を追ってくる。その繰り返しを避けるためには、負傷させるほかない。


「奈美、お前はこれを見たら怒るだろう。だけど約束通り……殺すことはしてない。……だから、許してほしい。


 ……少なくとも、一樹たちを殺す気しかないこいつらよりは、まだまともでいているつもりだからよ」


 この独り言は、半分は奈美と自分自身に向けて。ほう半分は、横たわっている人間に向けてだ。


 全身が痛い中、必死に体を挙げた。

「……何としてでもたどり着いてやる。自分勝手な人間どもに……負けてられるか」


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