第10話 また会おう
「いたぞ! こっちだ!!」
向こうから……施設のほうから放たれる声。……大勢の人間の足跡が続々と流れてくる。
その情報が頭の中に入ってきて、さっき起こったことの意味が理解でいるようになる。
「……っ! 発砲っ!?」
戦いに気をとられて忘れかけていた。ここは敵陣地。当然、武装した人たちはいくらでもいる。
まだ危機が去ったわけではなかった。
「みんな! 走れ! 逃げろ!!」
響輝の声とともに、一斉に森を下って駆け出した。それと同時、一斉に向こうから発砲音。
さらには、敵もどんどん、森の中へ……一樹たちを追ってくる。
もはや、敵たちは容赦などしてこなかった。誰もいない森の中をいいことに、ひたすら弾丸をばらまいてくる。
「マズイマズイマズイマズイっ!!」
「どうしようどうしようどうしようどうしよう!!」
もはや、全員パニック状態になりかけていた。オリジナルライトひとりを倒したところで、どうにもならなかったのだ。
森をひたすら駆け抜けていくが……どうも逃げ切れる感じがしない。
「……準備されていたか……」
オリジナルライトとの戦闘の間、一樹たちを逃がさない包囲網を作っていたらしい。
時間にして三十分もなかっただろう。だが、十分だったか。
「ぎゃっ!? ……いっ!?」
腕に弾があったのか、押さえる奈美。……これだけばらまかれたら、視界の悪い森の中の全力疾走とはいえ、数で当たる。
「ほんと、なんなん? 容赦なく撃ってくるやん!?」
喜巳花が頭を抱えクシャクシャにしながら、走り続ける。
……だけど、妙だ。……別に前方に待ち構えている人たちの気配は特にない。本当に包囲網をしくなら、もう一樹たちは囲まれていてもいいはず。
時間が足りなかった? ……いや、そう考えるのはやめた方がいい。むしろ、敢えて全方位に囲まなかった。
人間たちに囲まれれようが、一樹たちなら十分突破可能な実力がある。……少なくとも、ただ包囲するだけでは、やつらにとって確実な手ではない。
そして、今……一樹たちは無数の弾丸の雨に見舞わされている。そしてこれは、前方に仲間がいないから、囲んでいないからこそできる手法。
前方にもいたら、流れ弾が当たって相打ちになるから。
「……みんな……バラバラに行こう。固まって移動しても向こうの思うつぼ」
「……え?」
奈美が一樹の提案に走りつつ、声を挙げた。
「なんで? せっかくみんな揃ったのに! ここでなんで!?」
「そうだ。やっと集合したんだ。向こうはそう簡単に解散しないと踏んで、この形を取ったんだ。
一方方向からひたすら発砲し続けるという方法を」
六人全員で移動すれば、例え包囲網を仕組んでも、六人という数で突破されやすいから、しなかった。
逆に言えば、かたまりである以上、目標は一点のみ。ただそこをひたすら撃ち続ければいい。
視界の悪い森の中でも六人が固まっていれば、追いやすくなる。
もし、向こうが一樹たちの解散、散らばりを想定していたらこの方法はとっていない。
散らばるならそれこそ包囲網を敷くべきだ。一体多数なら、人間に分がある。少なくとも、六人のうち何人かを確保できる可能性は十分ある。
バラバラなのだから、数で押さえればいい。
なにより、全員で一斉に撃っているこの状況で、六人が拡散したら、向こうは対応して部隊を分散させなければならない。
そうなれば、この弾丸の雨も薄くなる。逃げられやすくなる。
「……、理には……かなっているがな」
走る足を止めないまま、響輝がつぶやく。
が、綺星が叫ぶ。
「また、バラバラになるの!? ……次、本当に会えるの? ……というか、バラバラになって、後でどうしたらいいの!?」
……たしかに、それもある。バラバラになって逃走に成功したとして、そのあとはどうする? 結局は一緒だ。なにもかわらない。
「……あの場所で落ち合おう」
ふと、奈美がそんなことを言い出した。
「……あの場所?」
「ここの六人が全員、共通して知っている場所……。おそらく、この世界にある、唯一のあたしたちの場所。
不本意だけど……」
突如、一樹のすぐ後ろで大きなさく裂音が響いた。地面をえぐるその一撃は土を巻き上げ、視界を一気に奪っていく。
爆弾? ロケット弾? ……なんの武器か知らないが……。
さらにすぐ近くで同じさく裂音。このままじゃ……確実にみんなやられる。
「奈美! わたしはそれに乗った! 後で会おう!」
真っ先に離脱していったのは文音だった。土煙の中、直線状から離れ、去っていく。
「……っ!?」
それに真っ先に反応したのは綺星だった。目をまんまるにして文音の消えた先を見ている。
「しゃあねえ。道はそれしかねえなら。……絶対だからな。落ち合おう!」
「やね。うちも行くわ。あの場所で!」
そう言うとふたりもまた、別々になって森の中へと入っていく。
残されたのは三人。
「……綺星ちゃん。……綺星ちゃんはあたしと」
奈美が綺星に手を差し伸べようとする。
だけど、綺星は強く首を横に振った。
「……大丈夫。迷惑はかけない。自分のことは自分でなんとかする。……ありがとう。奈美ちゃん」
そう言うと、綺星は思いっきり跳躍、文字どおり飛ぶように森中へと消えていく。あきらめた、っていう感じではない。
たしかな覚悟がそこにあったように思える。
「一樹くん」
「……うん」
最後、ふたり顔を合わせうなずきあうと、お互いに外れて森の中を駆け抜け行く。
「一樹くん! 大丈夫! 一度みんな集合できたんだから、またね!!」
「……うん!」
こうして、一樹はひとりで森の中を駆け抜けていく。すると、予想通り的の攻撃の手数は一気に薄くなかった。
追っての数も一気に減ったように思える。
敵も分散したよう。狙い通りだ。
あとは……、落ち合うのみ。