第9話 決着
「も、……もう平気なの?」
包帯を巻いて、現在治療中であったはずの響輝と喜巳花。なのに、立ち上がっている姿を見て、奈美は不安な声を漏らした。
「あぁ、問題ない。もう、動ける」
「うん。大丈夫」
ふたりは特に苦も無く立ち続けている。
「……」
と言っても最低限と言う条件は付いているように一樹は思えた。
あの包帯、このドレスアップシステムの回復は相当なものだ。ボロボロになっているオリジナルライトも、包帯を巻きながら、今なお立っていることからもうかがえる。
なにより、実体験だ。
しかし、それにも限度はある。大けがに対して完治するには、軽く見積もっても一時間以上かかっていた。
この数分で完治しているはずがない。
「あまり、……これ以上の無茶はしないほうが」
「だいたい」
響輝は一樹のセリフを遮るように強く言う。
「ゆっくり寝ていられる状況でもねえしな」
「それな! さっさとこの戦いを終わらせよや。休息はその後でも十分とちゃうか?」
正論だった。
ここでいくら回復に時間を取っても、文音たちが負ければそれで終わり。今までの行動はすべて無駄になる。
そこに、意外なことに奈美が先に立ち上がった。
「その通りだよね。いつまでもふたりに任せてられない。……最後の一押し、みんなでやろう」
となりに立った奈美に笑みを返す響輝。すると、一樹のほうを見下ろしてきた。
「……東は?」
「当然だね」
もはや、迷う余地はない。同じく立ち上がると、みんなと一緒に並んだ。そして敵、オリジナルライトを全員で見据える。
「ごめん、お待たせ! 決着をつけよう!」
奈美の張り上げた声に、綺星が立ち上がりつつ答える。
「うん。ありがとう」
「別に待ってはないがな。寝ててもいいんだぞ。無茶しすぎじゃないか?」
「お互い様にな。先に倒れるんじゃねえぞ」
「よっしゃっ! 思いっきりやったろや!!」
みんなが気合を入れる中、一樹もこぶしと手のひらをガシッと合わせた。
「これで……最後だね」
こうして、全員……六人で、オリジナルライトを囲うように並んだ。それをぐるりと一周見渡すオリジナルライト。
「……おやおや、お目覚めですか……。最後は全員一緒に、わたしに倒されたいんですね」
オリジナルライトの表情は相変わらず笑み。口から血が流れているのに、変わらないその笑みは、どうしても恐怖を感じてしまう。
化けた姿になったオリジナルライトはもう、……狂気。
しかし、文音は冷静に口を開いた。
「こいつ、強がっているが、もう終わりだ。全身がガタついている。一緒に終わらせよう」
あながち、間違ってないだろう。問題は、無茶している文音や響輝と、どっちが先に限界を迎えるか。
……いや、全員でかかって、相手を終わらせればいい。
「ふふふっ……ハハハハハ……」
六人に囲われた中、オリジナルライトが高らかに笑い始める。
「君たちはみな、わたしによって作られた動物兵器。わたしの制作物なんですよ。ゆえに、どこまで言っても、君たちはわたしの手のひらの上。
それをここで、証明してやるっ!!」
「うるせぇっ!!!」
響輝の馬頭が全員にとっての合図となった。六人、同時に地面を蹴りつけた。みながただひとりの敵、オリジナルライト目掛ける。
真っ先に攻撃に入ったのは響輝。オリジナルライトは、響輝の攻撃によるダメージを顧みない形でカウンターを入れてくる。
だが、背後に回り込んでいた文音の蹴りも同時にオリジナルライトの体を突き刺した。
結果、オリジナルライトのバランスは崩れ、カウンターを阻止。そこにすかさずに、一樹が入りこんだ。
オリジナルライトの懐にめいいっぱい力を込めたこぶしをたたきつけた。
「がっ!?」
もだえるオリジナルライトの後ろに綺星の姿をとらえ、後ろにバックステップ。直後、綺星が下から爪を上に振り上げた。
強烈な音とともに、オリジナルライトの体が浮き上がる。そこに待ってました、と奈美と喜巳花が飛び上がった。
ふたり同時のかかと落とし。モロに入ったその一撃は容赦なくオリジナルライトを地面にたたきつけた。
そこからはもう、一方的だった。個々の実力ではオリジナルライトが上だろう。しかし、すでにガタが来ていたオリジナルライトに、数で押せるようになっていた。
「このぉ……化け物……どもがぁっ!」
「「「「「「はぁぁぁあああああっ!!」」」」」」
最後のトドメと言わんばかりの一撃がオリジナルライトを撃ちぬいた。オリジナルライトの体は大きく吹き飛び、数本の木をへし折って崩れた。
森の中に、ズシンと重い、木の倒れる音が響く。その中を六人、ゆっくりと歩み進めた。
しばらく進むと、そこには完全に横たわっているオリジナルライトの姿。全身血まみれで、四肢も不思議な方向に曲がっている。
これじゃ、例え痛覚がなくても立てはしない。折れている足で立てるはずもなかった。
ただ、それでもオリジナルライトの目線が動いた。
「……そう……ですか。……実験は……終了の頃合いのようですね」
今度は大きくため息を吐く。
「……想定外でした……。……本当に……」
まだ口を動かし続けるオリジナルライトに、響輝が前に出た。
「これでわかったろう。俺たちはてめえらの手のひらで転がされるようなチンケな存在じゃねえってことをよ。
俺たちは、てめえらの道具なんかじゃねんだよ」
だが、オリジナルライトは、まだ笑み。
「まさか。まだ、君たちはわたしたちの手の中ですよ」
「そうか、じゃ、最後の一発だ」
響輝がやっとの思いと言わんばかりに、オリジナルライトの頬にパンチを繰り出した。
そして、沈黙。移行、オリジナルライトは動かなかった。どうやら、遠隔操作が切れたということだろう。
しばらく、全員静かになってしまった。ただ、森の中を吹く風が奏でる音だけが耳の中に入ってくる。
戦いは終わった。……そういう時間になっていた。
「終わったね。……行こうか。ここでずっと居ててもしかたないよ」
その奈美の提案とともに、森を下ろうと、足を向けた。その刹那だった。
耳に一瞬、激しい音。同時、近くに木の幹が粉砕。その意味に気づくのに、ひとつ時間を有してしまった。