第8話 オリジナルライトのあがき
システムを重ねがけした状態のオリジナルライト。四本目の注射器を打ち込み、パワーアップした文音。
そのふたりの間の差は、決定的なものになっていた。
「その状態など、そう長くは持たないでしょう。なら、じっくりとやらせてもらいますよ」
オリジナルライトは文音から距離を取ったかと思うと、銃を構え、発砲し始める。それは間違いなく、文音を目掛けてだ。
文音は、それに対して最低限の動作で避けたりはじいたりしつつ、オリジナルライトとの距離を詰め始めた。
「じっくりと? 本当にそのやり方でいいのか? そっちの体だっていつまで持つか、わかったものじゃないだろ?
痛覚がない以上、その体の限界など認識できないのか?」
「……かもしれませんね。ですが、それも合わせての実験です。この体がどこまで耐えられるのか、検証です」
そんな風に余裕をかましながら発砲を続けているが、ひとつたりとも文音にダメージを与えられていない。
自分の間合いに敵を捕らえる文音は、一気に距離を詰めると、オリジナルライト目掛けて爪を振り下ろした。
それは見事にヒット。オリジナルライトの腹に切り裂かれた跡ができ、そこから血しぶきが吹きあがる。
それに耐えきれなかったのか、オリジナルライトはガクリと腰を崩し、ひざから崩れ落ちた。
自分の切り口を手で押さえつつ、包帯を取り出す。
「……追い付けないですか……。……この体もかなり重くなっています。……君の言う通り……限界かもしれませんね……」
余裕の表情を見せるも、その額には相当な量の汗。とっくの昔に限界を突破していた体は、動きを鈍くし始めているらしい。
おまけに文音のパワーアップ。離れた場所にいつつも、もう文音の勝利を確信しつつあった。
文音もそれを実感しているのか。爪を構え、オリジナルライトを見据える。
「なら、十分だろう。実験は終わりだ。くたばれ」
「ですがっ!」
オリジナルライトはいきなりそう言うと、手に持っていた包帯をある方向へと投げ捨てた。
その先にいるのは、綺星。
綺星の目に向けられ、血がたっぷりしみこまれた包帯が投げ出される。合わせて、血しぶきもオリジナルライトの手から離れ飛ぶ。
「っ!? きゃっ!?」
綺星にとっても想定外だったのか、とっさに目を腕で防除。しかし、それは紛れもなく隙となった。
文音が反応して動こうとするが、すでに遅い。オリジナルライトの一撃が綺星に入り、なぎ倒される。
さらに、オリジナルライトは文音のほうに振り向くとき、あるものを手に持つようになっていた。
「……そ、それは……」
オリジナルライトの手にあるのはケース。中から残り一本の注射器を取り出すと、ケースは「返す」と言わんばかりに綺星へと投げ返した。
「なら、こちらも応戦しましょう。これがあれば、対等かそれ以上に、なれることでしょう」
オリジナルライト、……変身システムまで重ねがけをするつもりなのか。……そいうか、そこまで出来るのか。
……これ以上のパワーアップは……さすがに……。
だが、文音は特に焦ることもしなかった。
「本当にいいのか? それこそ、撃った瞬間、体が崩壊しそうだが?」
「計算上、試す価値はあるはずですよ」
文音はオリジナルライトに一歩ずつ近づいていく。
「……どうかな。すくなくとも君にとって想定外の手段だろう? 本当に可能性としてあるなら、もともとウエストポーチに入れていたはず。
綺星から奪って調達したところを見るに、許容範囲の外にある行為だろう。三つのシステムの重ねがけは」
「すでに五号も君、四号も、許容以上の耐久力を見せています。ならば、これも許容できる範囲内と、考えられるでしょう」
オリジナルライトは、ゆっくりと注射器を準備し、自分の腕に近づけていく。
「実験とは試すこと。試すことに価値がある。この体も、君たちも、試すための実験材料。
そこに躊躇する必要はないのですよ」
そう言うと、オリジナルライトは一気に注射器を腕に差した。そして、成分を体へと注入していった。
その瞬間、文音は動く。
「悪いがなじむまで待たないぞ。こっちは実験しているわけじゃないんでな」
文音はオリジナルライトのすぐ前に立った。オリジナルライトは注射器を打った反動か動けないでいる。
そこに文音は容赦ないこぶしを付き放った。
が、
「変身」
それより先、オリジナルライトのこぶしが文音の腹の直撃した。
一瞬、硬直する文音。一歩遅れて、後ろに飛ぶように距離をとる。攻撃を受けた腹を押さえつつ、オリジナルライトに視線を移していた。
「ふぅぅ……はぁ……」
一方でオリジナルライト。姿はさらに変貌していた。アーマーとドレスに包まれたその体は一部青く変色。
赤い毛が目立ち始める。それは紛れもなく、文音たちと同じ力。
「うぅぅぅぉぉぉおおおぉぉっ!!」
しかし、そのオリジナルライトの口から出る声は、今までも彼のものとは違う。呼吸も荒くなり、血走った目に。
「……死ね」
ボソリとつぶやいたかと思えば、突如爆発的な推進力を見せつけていた。……様子はおかしいが、戦闘力は上がっているか。
横に跳躍して避ける文音だったが、オリジナルライトは先回りするように起動変換。ふたりの爪が同時に接触しインパクト。
そのままお互い、弾けるように地面を転がっていく。
態勢を先に立て直したのは、オリジナルライトのほう。半ば無理やり地面を蹴り、再度文音に向かって接近していく。
「文音ちゃん!」
マズイと判断したのか、綺星が文音の前に出て敵の攻撃を受ける。しかし、綺星の体は押し負け倒されてしまう。
もう、勝てる。そう思い始めていただけに、このパワーアップはキツイ。……どうする……。自分も加勢するべきか?
して、なにかなるのか?
そんな葛藤をしている時だった。
「おい、高森。いつまで昼寝してるつもりだ?」
いつのまにか、立ち上がっていたのは響輝。後ろで奈美が驚いている中、一樹のすぐ横で横たわっている喜巳花に声をかける。
すると、喜巳花もまた、パチリと目を開けた。
「あと五分……たったら、全滅やね。もう、起きるわ」