第7話 逆転へ
あれから更に攻防が続いていた。
さっきまで圧倒的な力を見せていたオリジナルライトだったが、そこに文音と綺星は確実に付いてきている。
二対一ということもあり、文音たちも攻撃は受けていたが、確実に敵へ攻撃をたたき込むことができていた。
が……、
「……随分とタフなんだね」
綺星から確かな一撃をもらっているオリジナルライトは、今だに平然と立ち続けている。
見ているこっちが痛々しいぐらいだ。
オリジナルライトが、血が流れている肩に包帯を巻きつつ言う。
「いやぁ、驚きました。ここまでの強さだとは。素晴らしいことです。が……、もう一歩、わたしを倒しきるには、パワーが足りませんね。
君たちの体力がなくなるのが先か、システム重ねがけに、この体がダメになるのが先か。
実験結果は、そこに委ねられることになりそうです」
……たしかに。
このままではキリがないというのが現状だ。向こうは痛みなど感じない以上、体の機能が停止するほど、損傷させるほかない。
システム重ねがけで、体の負担はもう相当なものになっているはずだが、……あと奴はどれくらい持たせられるのか。
……まだ、検討もつけない。
「そうか……。なら……こいつをもう一本打ったら、変わるか?」
「うん?」
文音が少し不敵に笑いつつ、服のポケットからあるものを取り出した。それはケース。
中には注射器が一本。
文音はケースから注射器を取り出すと、空になったケースを適当に投げ捨てた。
「……っ! ……これは本当に驚きました。……、まさか、その状況で、まだ二本しか打っていない状態でしたか。
それでこの実力……。推測をはるかに上回る」
と、そこまで言って、オリジナルライトの口が止まった。しばらく、思案した様子を見せ。また口を開く。
「……違いますね……。それ、……四本目でしょう」
「そうだとしたら? パワーアップは阻止したいか?」
「……まったく、五号といい、……君たちは無茶をするのがお好きなようですね。構いませんが、どうなっても知りませんよ。
直接、変身システムの研究に携わっているわけではないので、はっきりとは言えません。ですが、システム的にも、体的にも、三本が許容限界で作られているのは事実です。
その注射器は、君たちの中にあるアグニマル、君たちが言うところの化け物の細胞を活性化させるもの。
生命力、体の変化を犠牲にして、戦闘力を向上させるもの。ほかふたつのシステムとは根本的に違います。
意識が飛ぶかもしれませんよ。……暴走するかも……。より、醜い姿となり、戻れなくなる」
……それ、まずくないか……。別に現状でも不利というわけではない。それどころか、十分言える範囲にはる。
わざわざ、無理する必要は……。
と、思ったのだが、文音の肩を見て理解した。
随分と息が上がっているように見える。かなり疲労がたまっているみたいだ。……そうか、もともと変身システムは体力の消耗が激しかった。
……短期間で三本の注射器を打ったから、体がついていけてないのかも。
そもそも、彼女たちはどこからきたのか、知らない。ずっとここまで走ってやってきて、直後戦闘開始したんだったら……その疲労は……。
「なら問題ない。わたしはすでに化け物だ。悪魔を倒す化け物だからな」
……間違いない。……文音は、勝負を急ぎに来ている。時間をかければ、体力面で負ける。……そう判断しているのだろう。
「待ってろ。すぐに適応してやろう」
文音は自らの腕へと注射器を打ち込んだ。しばらく、停止。その後、こらえたようにうめき声が漏れてきた。
奈美も心配そうに見ている中、綺星は大きな表情の変化を見せていない。ただ、文音を見守るようにしている。
ふたりの間で、話はついていたということだろう。
オリジナルライトは少しひきつった表情を見せつつも、冷たい目で文音を見続けている。
あくまで、観察対象だという、スタンスを崩さない。
文音もそのことを理解して、この場で使ったのだろう。
「……うぅ……う……うっ!」
文音の全身の赤い毛が逆立っていく。目が充血していき、全身に力がこもっていくのが目に見えてわかる。
……そして……。
「ギッ!!」
文音の鋭い視線が、オリジナルライトのほうへと向いた。強い歯ぎしり。
「どうです? まだ意識はあり……っ!」
今まで通り、余裕で煽りを入れようとしたオリジナルライトが硬直した。
瞬く間に近づいていた文音がオリジナルライトの手をつかみ離さない。
「……ッ! くっ……くっ! ……、……な?」
必死に引きはがそうともがくオリジナルライトだが、ピクリとも動かない。
「……ふっ」
無理と判断したのか、今度は目の前でこぶしを突き出した。それは文音のこめかみにヒット。しかし文音、微動だせず。
「ガハッ!?」
代わり、オリジナルライトの腹に文音の膝蹴りがさく裂した。
さらに、大きく振り上げたふたつのこぶしが、オリジナルライトを襲う。地面にたたきつけられたオリジナルライトは、そのまま地面を転がっていった。
間違いなく重い一撃。
文音が伸びた爪を自由に操りつつ、口を開く。
「……これでも痛みを感じないのか? 随分と都合がいい体だな。なら、こっちも遠慮せず、すりつぶしてやろう」
一方で、まだ立ち上がるオリジナルライト。が、手に力が入らなかったのだろうか、崩れ落ちる。
そのまま、顔だけ文音のほうへと向けた。
「……い、……自我も……あるよう…ですね……。耐えましたか……」